フランちゃんと王様が会話するだけの話▽フランちゃんがちょっと喋ります
▽ぐだおは出ないけどぐだキャスギルです
真っ白なドレスに真っ白なヴェール。鋼の踵を鳴らして闊歩する、花嫁を模した人造の少女。人間によって造られた不完全な人間の似せ物。可愛らしい容貌に似合わず戦う様は獣のソレだが、自在に電流を操る彼女は確かに強い。己より後にカルデアに召喚され、己より先に、聖杯を捧げられた女。まあ、先にすべてを捧げられたのは我だが、などと思考するギルガメッシュの内心など知る由もないフランケンシュタインはカツカツと踵を鳴らし、軽やかにヴェールを翻す。
その背を眺めるでもなしに眺めていれば、歩けど歩けどその背は前にいる。どうやら向かう先は同じらしい。歩幅の違うフランケンシュタインとの差は自然と徐々に縮まっている。残り数歩で追いつく、というところで突然フランケンシュタインが立ち止まった。あわや激突、とならないのはギルガメッシュの身体能力の賜物であろう。
「ゥ!」
振り向いたフランケンシュタインに下から覗き込まれる。薄紅色の前髪で両の目が隠れているため、どこを見ているのかは解らないが恐らく見上げられている。思わず足を止めてしまったギルガメッシュはフランケンシュタインの目のある辺りを見下ろして瞬く。
「なんだ貴様、急に立ち止まるなど我でなければ衝突していたところだぞ」
「ゥ?」
ギルガメッシュを見上げるフランケンシュタインはこてんと首を傾げる。彼女は形のある言葉こそ滅多に発さないが、知能は人並み、もしくはそれ以上にあると聞く。簡単な意思の疎通であれば当然可能なはずだが、まさか今の言葉の意味が解らなかったわけではあるまい。疑問符を浮かべる必要はないように思うのだが。
そして、ギルガメッシュの目的地はフランケンシュタインの立つ場所を通り越した先にあるので、できれば早く進むなり立ち退くなりして欲しいのだが。けれどフランケンシュタインは何かを言うわけでもなくじっとギルガメッシュを見つめて?いる。
「我に何か用か? 用があるなら疾く申さぬか」
「ゥ! ゥー!」
解っているのか解っていないのか解らないフランケンシュタインは、突然ゴソゴソと自身のドレスの腰辺りに手を突っ込んでまさぐりだす。そんなところにポケットがついていたのか。彼女の手が動くせいでポケットの縁から何かが溢れ、ぽろぽろと地面に落ちた。見れば、見覚えのあるような安っぽいパッケージの菓子が散らばっていた。ぽとぽとと更に上から落ちてくる。どれだけそのドレスにしまわれているのか。
「ゥー!」
声がして視線を足元からフランケンシュタインへ上げると、こちらに両手を差し出すフランケンシュタインと目があった……のかは解らないが、フランケンシュタインはこちらを向いて掌を上へ向けて両手を並べ、その両手をギルガメッシュへ差し出していた。何もなければ物乞いのようなポーズだが、その小さな掌の上にはこんもりと菓子が山を作っている。
「なん、」
「ウゥ、ァ、ゥー!」
その両手をギルガメッシュへずいと寄せてくる。どうやら受け取れということらしい。掌いっぱいに乗せたまま揺らすものだから、山から菓子がぽろりと落ちる。掌に乗っている量とそう変わらない量が床に落ちているのではないか?という気さえしてくる。本当にどこにそんなにしまわれていたのだろうか。
「よい。そのような菓子、そこらの女子供の英霊にでもくれてやれ」
押しつけられる両手を片手で制す。触れるとまた零れ落ちそうだったので、触れる寸前で止め、ギルガメッシュの方が後退る。そうして拒否しながら顔を背けたギルガメッシュの前で、フランケンシュタインはゥゥ、と唸るような声を漏らした。
「ァア……ゥー……ゥ、 ……ますたぁ、と!」
たどたどしいその言葉に目を瞠って彼女を見れば、人造の少女は薄曇りの空に似た硝子玉のような瞳を覗かせて、にこりと笑ったのだった。