チョコラミス様辺りのプレイ日記▽イベント周回日記です
▽だらだらしてます
▽ぐだキャスギル
「おい、立香」
「なんですかー?」
ベッドへ縦に寝そべっているギルガメッシュの腹の上を通って、横に寝そべっている立香が喋れば腹に振動が伝わった。十字の形になっていると言えば解りやすいだろうか。ギルガメッシュは書類と端末で現在の作業効率等を確認し、立香はプレイルームから持ってきたらしい携帯端末でゲームに興じていた。
「貴様、チョコ周回とやらはどうした」
「休憩です。AP切れです」
「林檎があるであろう。怠慢など貴様には百年早い」
「ええー、前々回食べすぎたんで当分林檎はいいです」
うぷ、とわざとらしく口で言って立香が腹の上でごろんと仰向けになる。重いし服が擦れるし邪魔だし本人は思い切り仰け反っているし、何も良い事はない体勢だと思うのだが。
「動くな重い。我が潰れたらどうしてくれる」
「王様そんなにヤワじゃないでしょ。たまにはいいじゃないですか、のんびりやっても。王様は働きすぎですよ」
それにもう目標は達成しているので、と言いながらずりずり腹の上で動いて、腹に頭を乗せたところで止まる。仰け反っているのはさすがにつらかったようだ。そしてまたゲームを再開した。ぎゃんぎゃんとした音楽が聞こえる。
手元の報告書を見る限り、生産所や研究所は恙無く稼働し、日々チョコを生産し続けている。この分でいけば物量で押し返す作戦は間に合うだろう。確かに目標は達成しているがそれと怠惰な生活を送る事は別問題だ。
「どうしてそう極端なのだ貴様は……」
確かに前々回……贋作どもを追いかけ回している時は必死だった。次から次へと林檎を喰べ、ない魔力を補いひたすら周回し続けた。
「あの時ちょっとやりすぎたので、バランスを取ってるんです」
「あの時貴様寝ながら指示を出しておったものな……」
魔力より先に体力が尽きていた立香は後半などほとんどもう立ったまま寝ていた。指示を出してサーヴァントたちが攻撃に転じている間に寝、数秒のちに目を覚ましてまた指示をするという有様だった。寝るというより短期間の意識の喪失だ。倒れなかったのが不思議なくらいだった。
「何度英雄王の声で目が覚めたか……あのあと英雄王と孔明先生しばらく口聞いてくれなかったんですよ? 温泉があって本当によかった」
カチャカチャとボタンを操作する音がする。贋作のあとには鬼の塔と連戦になったが、あの時女将が作った温泉は、作りは甘いが悪くはなかった。
「うむ、あの温泉とやらは雑種の文化にしてはなかなかによいものであった。弓の我が気に入るのも頷ける」
「王様湯あたりするまで入ってましたもんね」
「何か言ったか?」
「何も? 王様、宝物庫にポテチとかないんですか」
「たわけ。あるわけなかろう」
「じゃあコーラとか」
「貴様、我の宝物庫を何だと思っているのだ」
四次元ポケット的な……とよく解らない事を言う立香に、解らないなりに不敬を働かれた気がしてギルガメッシュは腹の上の頭を右手で小突く。「いてっ」と大して痛くなさそうな声を上げる立香はやはり痛くはないらしくゲームから手を離さない。そのまましばらく立香は黙り込んで、自然とギルガメッシュも無言になる。室内はカチャカチャとゲームのボタンを押す音とどことなく重みのある音楽、獣の叫び声のような音と紙をめくる音、端末のボタンを押す音、音だけになる。
そして書類もデータも一通り見終わったギルガメッシュは腹の上の立香の頭を見下ろす。こうやって遊戯に興じていれば本当にただの子どもで、とても人理を修復した男には見えない。思えばウルクでひと月過ごした時も見た目には何も変わらなかったな、と思考する。カルデアで再会した時――立香がマスターに選ばれてすぐの頃よりはマシになった気もするが、根本的なところは変わらない。魔術師ではないから魔術師としての知識や常識はないし、至ってどこにでもいそうな人間にも関わらず、周囲の者を変え周りを巻き込み巻き込まれ、難事を解決し一時的にでも人の世を救ってみせた。本当に不思議な男だ。
聞こえていた重い音楽が軽快なものに変わり、立香はゲーム機をぱたんと閉じた。
「もう終わりか?」
「はい」
ゲーム機を脇に置いた立香が身体を起こして這い上がってくる。書類を持つ手が上から押さえられ、下げられた。
「なんだ? 邪魔をするな」
「もうすぐ回復するので、その前に王様に構ってもらおうと思って」
押さえる手が甲をくすぐる。ぱさりと書類を落としてその手を掴めば了承と受け取ったのかへらりと笑った立香がのしかかってくる。指を絡めて握り合わせ、流れるように唇を重ねる。立香が目を閉じているのを薄目で見た。舌同士で戯れあい、立香の首に腕を回そうとしたところであっさりと唇が離れていく。
「? もう終いか」
「そろそろ行きますから。まりょくきょーきゅーってやつです」
「いや、何も消費しておらんが……」
「オーバーチャージ的な?」
「この程度、魔物を殴った方がまだマシだな」
「デスヨネー」
よっこらせ、と身体の上から降りた立香はそのままベッドからも降りて立ち上がる。振り向いてギルガメッシュへ手を差し伸べ、
「行きましょう、王様」
にか、と歯を見せて笑った。その手を取れば愉快な冒険に連れ出される事をギルガメッシュは知っている。端末も書類も置いてその手を取る。引き起こされてベッドを降りれば背伸びをした立香に唇を塞がれた。触れるだけですぐ離れ、満面の笑みで見られた後、くるりと背を向けた立香に手を引かれる。
「今日もよろしくお願いしまーす」
「貴様もキリキリ働けよ、立香」
ういーすと変な返事をする立香に手を引かれ、装束を軽装からいつもの装束へ変えながら部屋を後にした。さあ、愉快な冒険の始まりだ。