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    えんどう

    @usleeepy

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    えんどう

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    ▽おそろっち

    ##1000-3000文字

    おそろ風なぐだおと王様の話▽王様の服装がちょっと変わります
    ▽ぐだおはアニメ版の礼装を着ているはずです
    ▽ぐだキャスギル






     風にはためく艷やかな織布を、いつも見ている。それは爆風で翻り、接敵すれば流れ星のようになびく。
    「どうした、何かして見せよ!」
     高笑い混じりにいつものようにバッサバッサと魔獣を屠るギルガメッシュの愉しそうな後ろ姿を見、いつも見ているはずのその背に何か違和感のようなものを覚える。
    「――?」
     ほぼ毎日見ていると言っても過言ではないその背に、いつもと違うところがあるような。けれどどんなに見つめても、立香には違和感の原因は解らなかった。

       ❃❃❃

     夜。煌々と照る焚火へ枝を放り込み、パチパチと爆ぜる木から散る火の粉を眺める。同行している皆はそれぞれ、魔力を温存するために休む者、周囲の哨戒に出る者に分かれ、今ここにいるのは火の番をしている立香と、眠っているイシュタル、それと、立香と同じく焚火の側に座って端末を見ているギルガメッシュの三人のみだ。
     パチ、と細い枝が爆ぜ、火が揺らめく。ギルガメッシュの顔にかかる影も、ゆらゆらと揺れていた。端末を見るギルガメッシュは顎に指を当て思案げに画面を見ている。周囲の情報を見ているのだろう。さっきちらっと覗いた画面は、この辺りの地形を立体的に映し出していた。哨戒に出た者もいるからそうそう危険はないと思うが、警戒しておくに越したことはない。
     その、画面を見下ろすギルガメッシュの顔を眺めていると、昼間感じた違和感を思い出す。顔を見て思い出したけれど、別段顔になにか異常があるわけではない。いつも通りの綺麗な顔だ。だが、違和感はやはり消えない。なんだろう、と立香が首を傾げた時、洞穴の出入り口を隠すような木々がざあっと音を立て、強い風が吹き込んできた。
    「――ぅわぶっ」
     風はすぐに止み、木々は葉ずれの音をさせながら定位置に戻り静寂を取り戻す。が、風に煽られた立香は、礼装に付属しているマントのような短い布がめくれ上がり、顔に覆い被さったのをわたわたと引き剥がす。と、傍で吐息のような微かな笑い声が聞こえた。
    「…………笑わないでくださいよ」
    「もう終いか? 奇妙な踊りのようでなかなか滑稽であったものを」
    「見てたんなら面白がってないで助けてくださいよ……」
     イシュタルの眠りを妨げないよう小声で返し、マントを整える。胸のあたりを撫で下ろして、ふと気づく。
    「王様、いつもと違いません……?」
    「なんだ、藪から棒に」
     石板ではなく端末を、篭手を外した右手で支えるギルガメッシュは、立香の言葉に怪訝な顔で応える。そのギルガメッシュを改めて見てようやく、違和感の正体を確信する。
    「服ですよ、服」
     声量を抑えてはいるが、やっと霧が晴れたような爽快な気分で身を乗り出す立香の声は弾んでいる。
     立香の抱いた違和感の正体。それはいつも目の毒なほどに晒されているギルガメッシュの素肌が、艶めく布地に覆い隠されていたのだ。
    「そのマント、いつもそんなに布地多くなかったですよね?」
    「――――」
     ようやく導き出せた正解に、立香の心は実に晴れやかな気持ちである。すっきりした、と囁くような声で言って胸を撫で下ろし乗り出した身体を元の位置に戻す。指摘されたギルガメッシュは何かを言おうとして、ぐ、と口を引き結んだが、立香はそれに気づかない。
    「昼間から気になってたんですよね……怪我とかじゃなくてよかったあ」
     立香は心底安堵し、小声で言って深く息を吐く。違和感がギルガメッシュの身体に起こった異変からくるものだったら、という懸念は消え去った。立香としてはこれで一件落着である。
    「…………」
    「?」
     安堵して一息ついた立香は、何も言わないギルガメッシュの方を見る。こう立香ばかり喋るのは珍しい。いつもなら変化に気づかなかった立香に『貴様の目は節穴か』とか『貴様の鈍感さにはほとほと呆れる』とか、そういう言葉が投げつけられると思うのだが、立香が見ているギルガメッシュは何も言わないし、目が合うとふいとその目を逸らした。逸らした?逸らしたのか。逸らした先に端末の画面などもなく、洞穴の剥き出しの土壁があるだけだから、気まずそうに見える。なぜそう気まずそうな顔をするのか。
    「……王様?」
    「構うな。……そら、火が弱くなっているのではないか?」
    「?」
     立香の視線から逃れたギルガメッシュの紅い瞳は、宙を滑ったあと再び画面へ戻された。気まずそうに見えたのは気のせいだっただろうか?いや、そんなはずは。
     少し小さくなった焚火に枝を投入し、パチパチと爆ぜる火の粉を目で追う。立香のまとう黒い布地は炎の熱だけでなく、煌々と照る灯りを吸い込むように暖かい。ギルガメッシュが今まとっているのも、色は違えど――
    「あ」
     開けた口から思わず声が零れる。視界の端にいるギルガメッシュが何事かと顔を上げ、立香はギルガメッシュへ顔を向ける。今度は逸らされなかった。
    「王様、それ、オレのとお揃いみたいで……、いいですね」
     それ、と言いながら立香は自分のまとう礼装に付属しているケープ状のマントの裾を両手の指で掴み、引っ張って広げて見せる。ギルガメッシュの肌を覆う淡い金を織り上げたような布も、立香のそれと似て、ギルガメッシュの肩周りや胸をぐるりと覆う形で変形している。これはお揃いであると言っても過言ではないだろう。えへへ、と照れ臭そうに笑う立香は〝お揃い〟を素直に喜んでいる。
     言われた側のギルガメッシュは、
    「――――」
     お揃い、という言葉を聞いた瞬間まるく開いた瞳を、一度右へ逸らし、斜め右下を見、下を見、左と上も見てからもう一度立香を見、瞬きを一、二度して、は、と息を吐く。その口を開きかけて、閉じ、もう一度開いて、何かを言おうとしてやめ、真一文字に引き結んで顔ごと立香から背けた。
     その一部始終を見届けた立香は、緩んだ顔を更に緩める。いつもならギルガメッシュは『だらしのない顔をするな』とか言うのだろうが、立香から顔を背けているので今それはない。
    「……オレ、哨戒組呼んできますね。交代しますから、王様はそこの女神様を起こしておいてください」
     緩んだ顔のまま言った立香は蚊の鳴くような「ああ」という了承の声を聞き、笑顔のまま火の側から立ち上がって洞穴の外へ向かう。
     いくら鈍感な立香でも、あれが立香の礼装を真似たものであることくらいは解る。ああも狼狽えられれば尚更、もしかしておそろいなのかもしれない、程度の疑惑も確信に変わる。
     揃いの服、ないし揃いのもの、というのはちょっとした憧れだった。こういう状況で、相手がギルガメッシュで、それは望むべくもないと諦めていたのに、まさかこんなところで叶うとは。指摘された時の反応から見てギルガメッシュは立香が気づかないと思っていたのだろう。確かに気づくまでに時間はかかったが、あんな、かわいいとしか形容できない行動を気づかないはずがない。いや、時間はかかったけど。何を思ってそうしたのかは解らないが、何を思ったのでも立香は嬉しさと、愛しさだけが募る。
    (バレたからって戻してないといいけど)
     遠くに見えた哨戒組に手を振りながら、立香は昼間の後ろ姿を思い出し、必要以上の笑顔を浮かべた。
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