にゃーん▽ぐだおに構われたい王様の話です
▽ぐだキャスギル
「かわいいなぁ……」
端末の表面を右から左へ撫でれば、画面に映し出される写真が次の写真へ切り替わる。画面に大映しになる可愛らしい愛玩動物の写真。スタッフが実家で飼っていたという猫や犬、ハムスター、それから、ネットで見かけ、可愛くて保存したらしい愛玩動物の写真たち。忙しいスタッフたちが癒やしだと言って見ていた動物の写真を、立香が使っている端末にも移してもらったのだ。
野生動物なら特異点先でも見ていたが、愛玩動物など見る機会はそうそうない。愛玩動物と言って魔獣を飼っているのは見たことがあるが、それは完全に論外だ。特異点先で見るのはほとんどが動物とは名ばかりの魔獣だった。こんなふわふわぽわぽわで小さくて可愛い生き物とはどう頑張っても違う。
「何を気色悪い顔で見ているのだ、貴様は」
立香のにやけた顔が気に障っ……気になったのか、隣で寛いでいたギルガメッシュが手元の画面を覗き込んでくる。今画面に大写しになっているのは大変愛らしい子猫の画像だ。
「……なんだ これは。ウガルの幼体か?」
「ええ……猫ですよ……あんな化け物と一緒にしないであげてください……」
ギルガメッシュの時代に猫はいなかったのだろうか。古代エジプトではいたはずだし、彼の彫像というライオンを抱えている像を見たことがあるが、反応からするに初めて見たようだ。
「かわいくないですか これがにゃーんって鳴いてちょろちょろ動くんですよ? 動画がないのが惜しい……王様も見ればきっと解りますから」
立香自身は猫を飼ったことはないが、テレビなどで見る限りそれはもうとてつもなく愛らしいため、とてつもなく愛らしいものとして認識している。
「立香はコレを愛らしいと思うのか」
「可愛いじゃないですか。これぞ可愛いですよ。触りたいなぁ……」
画面の中の猫は見るからにふわふわしている。きっと触ればふわふわなのだ。猫の毛は柔らかいとも聞く。だからそれはもうきっとふわふわなのだ。
「………………」
画面に夢中になっていた立香は、隣の王の眉間に僅かに寄った皺になど気づくはずもない。
「…………………………………………………………………………にゃあん」
静かになったと思ってから数十秒の後、隣から小さな声がした。低く甘いいつもの声、なのだが。
「 えっ え、えっ?」
驚きの余りギルガメッシュを二度、三度見る。幻聴でも聞いてしまったのだろうか。ギルガメッシュは仏頂面をしていて、今し方の声がそうだったのか、真意も何もかも計りかねた。
「……そのような非現実のものなど愛でずとも、この王を讃美すればよかろう」
どうやら幻聴などではないらしい。意訳すれば『眼の前にいるのだから自分を褒めろ構え』である。もしかして、など考えるまでもなく珍しく解りやすいギルガメッシュに、端末を放り出した立香は満面の笑顔を浮かべてそのさらさらふわふわの金髪を撫で、照れ隠しの仏頂面にくちづけたのだった。