ぐだおが子供になっちゃう話▽3日で治るシリーズ?
▽ぐだおが幼児化します(中身は元のままです)
▽ぐだキャスギル
一瞬、一瞬反応が遅れた。雑魚だからと油断していた。もう慢心しきった時期はとうに過ぎたというのに。目の前で魔物からの攻撃を受け後方に吹き飛ぶ脆いヒトの身体を見た瞬間、貫かれるような寒気が走って全身がぶわりと総毛立つ。
「――ッ 我が魔杖の藻屑と消えよ」
斧の柄が地面を抉る音を合図に、天から魔杖による雷撃が降り注ぐ。言葉の通り消し飛んだ魔物には目もくれず、ギルガメッシュは数メートル吹き飛んだ立香へ駆け寄る。
「立香! 立香 りつ、……………………………………立香……?」
先程まで立香が倒れ伏していたその場所には、どことなく見覚えのある子どもが一人、転がっていた。
☻☻☻
「全く貴様は……人間のような脆い身で我を庇うなど、呆れて物も言えん」
「すみません……まさかこんなことになるとは」
腕の中から聞こえる立香の声は、常より高く細い。聞き慣れぬ声に眉を顰めながらもしかし、ギルガメッシュは立香を手放そうとはしない。
「何もしなくても二、三日で戻るみたいですから、そんなに心配しないでください」
「ハ、笑わせるな。誰が貴様の心配など」
「そうですか ならいいですけど……」
身体をひねって背後のギルガメッシュを見上げる立香は、大きな鏡のような蒼にギルガメッシュを映す。心配してないなどと、言えば嘘になる。立香はそれを知ってか知らずか緩く笑う。幼い顔つきは元からだが、物理的に幼くなった今でも、その笑顔のあたたかさは変わらなかった。
心配していない、と言えば嘘になるのだ。あの時、敵の攻撃を受けて吹き飛ぶ立香を見た時、全身の毛が総毛立つような悍ましい感覚を味わった。常に世界から一線引いた視点を持つギルガメッシュが、一瞬であれ我を失った。ヒトの命はこと現代においては神代のそれよりも脆く儚いことは知っている。だからこそ、一瞬脳裏をよぎった死を恐れた。恐れなど、感じたのはいつぶりだったか。
「大丈夫ですよ、ギルガメッシュ王。オレは生きてますから」
生きてればどうにでもなります、と、まるで自身の変化など、命の危機など些細な問題であるかのように立香のような顔をした子どもが笑う。己の命の重さを知りながら、それでも。
「立香」
「そんな顔しないでくださいよ。ホント大したことなかったんですから」
そうは言われてもあの刹那に感じた喪失感は、あの喪失感は何度経験しようと慣れない。そも、何度も経験したくもないというのに。
ぺたりと頬に触れた小さな手が、肌を撫ぜる。ここまでの戦いで否応なく鍛え上げられたあの、マメだらけの手ではなく、すべすべとして柔らかい子どもの手のひら。
「大丈夫ですよ。オレは王様を遺して行きませんから。……それに、マスターが死んだら、サーヴァントも消える、んでしょう?」
下から覗き込む目は大きいが、凪いだ海のような穏やかさは変わらない。そこに宿る光も。
「……立香、貴様次にあのような無茶をすれば、この我自ら引導を渡してくれよう。ゆめゆめ忘れるでないぞ」
「はい。肝に銘じます」
キリッと顔を引き締めて真剣な表情を作ってみても、その顔は子どもだ。やがて立香が堪えきれず吹き出し、つられてギルガメッシュも苦笑交じりに破顔する。
戯れるように笑いあい、幾らか気を良くしたギルガメッシュは、まだ頰へ触れている立香の手に手を重ねる。立香の眼がやわらかくこちらを見ていて、その蒼を見つめながら瞼を下ろした。何となく、そんな流れのような気がした。――のだが。
「………………?」
いつまで経っても唇に望んだものが触れる感触はない。疑問に思い目を開ければ、眼下に困ったような子どもの顔。ギルガメッシュが立香の腰に腕を回しているせいで立ち上がれず、背筋を伸ばしてもギルガメッシュへは届いていなかった。
「ええと、…………」
「……………………。」
無言で腕を緩めれば、もぞもぞと立香がギルガメッシュの腕の中で身体を反転させる。向かい合う形で立香が膝立ちになってもまだ届かず、立ち上がって漸く、ギルガメッシュが見上げる形になった。
「……すみません、あとで医務室に行ってきます」
「……疾くそうするがよい」
ぺたりと小さな手が両頬に触れ、思わず溜息をついたギルガメッシュの唇に、苦笑交じりの小さな唇が重なった。