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    Dk6G6

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    周囲から生暖かい目で見守られているカブミスの話

    目は口ほどに人の視線というのは存外分かりやすい。好意悪意から好奇心、はたまた意味深な感情まで物語る。とはいえ、その視線が向けられるに至った背景まで知るのは流石に難しい。なので、カブルーはここ数日向けられる様々な視線に気づいていたが、それらが持つ意味を掴み損ねていた。
     例えばマルシル。好奇心が大いにくすぐられているような目でチラチラとカブルーを見ては何か聞きたげに時折口をもにょりと動かしていた。何か用があるのかと問うと「特に用事はないよ!あ、私やることを思い出したから!」と慌てた様子で逃げ去ってしまった。 
     そしてライオス。カブルーの顔を見て何か思い出したように口を開きかけたが、その口は妹に塞がれてどこかへと引っ張られていってしまった。後日何だったのか聞いてみると「いや〜、こういうことに俺は口を挟むべきじゃないと言われて」と返された。
     次にフレキ。ニヤニヤと面白い娯楽でも眺めるように「おいおい、人たらしもここまで極めたら傾国名乗れるんじゃねえの」とよく分からないことを言ってきた。他にもパッタドルからは警戒心のこもった目、ヤアドからも生暖かい目で見られた。
     これだけ怪しい視線と態度を向けられたら誰だって心当たりを探すだろう。そしてカブルー自身に心当たりはなかったが、彼らの態度が変わった日に起こったことは分かる。帰ってきたミスルンが魔物調査の報告へと城へやってきたのだ。その場にカブルーはいなかった。ライオスのように魔物に興味があるわけでもなし、専門的な話が多すぎて聞いたところでカブルーの役に立たない。だから、その日は離席して他の問題に頭を悩ませていたのだ。一緒に聞いておけばよかったと今更ながら後悔する。そしたらこの皆の謎の態度の原因がはっきりしただろう。直接聞いてみても自分が話すことじゃないからとはぐらかしてばかりなのだ。だから、城でミスルンの姿を目撃した瞬間、カブルーは反射的に彼の手を掴み空き室へと連れ込んでしまった。

    「唐突にすいません。どうしても聞きたいことがあって」
    「構わない」

     いつも通りの彼の態度にほっとする。これで彼まで不審な態度を取ってきたらどうしようかと思った。その安心感のままに抱えてきた疑問を彼に投げかけた。

    「以前城に報告に来た時に何か変わったことがありましたか」
    「特になかったが。ただいつも通り遭遇した魔物の報告をしただけだ」
    「じゃあ、その遭遇した魔物に何か異変があったり」
    「しなかったな」
    「……ちなみにどんな魔物に遭遇しましたか」
    「歩き茸にコカトリス、あとはサキュバスぐらいだった」

     彼自身が嘘を言っているとは思えない。だが、こんな報告で彼らのカブルーへの態度が変わるはずがない。カブルーの予想が外れたのだろうか。肩を落とすカブルーを見て、ミスルンは何か思いだしたかのように「あ、」と声を上げた。 

    「サキュバスがお前だった」
    「はい?」
    「私に襲いかかってきたサキュバスがお前の姿を模していた」

     何言ってるんですか。その言葉が何を指すのか分かっていますか。冗談はよしてくださいよ。そう言おうと思った。けれども、ストンと納得してしまったのだ。きっと彼は報告の場でもこのことをありのままに話したのだろう。降ってわいてきた恋愛話にその場は大いに盛り上がったに違いない。特に恋愛話が大好きなマルシルは。このことがカブルーへと隠されていたのも納得がいった。この人がカブルーへ好意を持っていたとしても恋人になりたいという欲求がないのだから下手に首を突っ込むよりは見守る方が良いと判断したのだろう。それならせめてもう少し上手く隠してほしかったが。

    「カブルー」

     この後どう彼らに説教してやろうか悩んでいると急に顎を掴まれた。力任せに首を下げられる。「危ないじゃないですか」と注意しようと思ったが、彼の目を見て言葉が詰まった。

    「やはり本物の方がいいな」

     黒い瞳の奥底には、確かに新たな欲求が灯っていた。眩しいものでも見るかのように細められた瞳には間抜けな顔をしたカブルーが映っている。声を失っているカブルーの表情を一通り眺めて満足したのか、手を放したミスルンは「仕事に戻る」と言ってカブルーに背を向けてあっさり部屋を出て行ってしまった。残されたのは問題が解決するばかりか増えてしまったカブルーだけだ。

    「……言い捨てはずるいですよ」

     あんな愛おしいものでも見るような視線を向けられたら、どうしようもないじゃないですか。
     今度あの人に会ったら直接言葉で伝えないといけない。恋慕を込めて見つめても「腹が痛いのか」と返してきそうな人だから。カブルーはそっと瞼を閉じて、その場で大きく溜息を吐いた。
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    Dk6G6

    DOODLEカブルーがミスルンにマッサージするだけの話
    未来永劫、貴方だけ目と目が合った瞬間、カブルーは自分が幻覚を見ているのではないかと真っ先に思った。だから瞬きを何度かしてみたけれども視界の景色は全く変わらない。一度視線を逸らし、もう一度焦点を合わせてから見ても無駄だった。数メートル先ではいつも通り泰然とした様子のミスルンが立っている。これが城や街中ならカブルーはいつも通りにこやかに声をかけただろう。
     しかし、今の彼の立っている場所が場所だ。視界を少し上に向けると、彼が出てきた店の看板が堂々と掲げられている。マッサージ屋と謳われているそこは、いわゆる夜のお店だった。歓楽街の中心地に健全なマッサージ屋などそうあるものではない。それにマッサージ屋とは書かれていても、その店の外観に張られているポスターや雰囲気を見れば、通常のそれでないことは一目瞭然だろう。そんな店からミスルンが出てきた。幻覚を疑ってもしょうがない。だって、彼に性欲などないはずだ。通常の男の知り合いがこんな店から出てきたのならカブルーは相手の性格によって軽く揶揄ったり、逆に見なかったふりをする。知り合いに性を発散しているところを見られたら、誰であれ多少気まずさは生じるだろう。でも相手はミスルンだ。羞恥心もないし、性欲もない。
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