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    カブミスがミルシリルに結婚報告する話

    お願いします、おかあさん可愛い息子が紹介したい人がいると手紙を寄越して来た。そんなのすぐに支度を整え、メリニに向かうに決まっている。
     可愛い、可愛いカブルー。あの子が初めて家に来たときはあんなに小さかったのに、もうお嫁さんを迎える年になっただなんて。短命種の一生は短い。エルフからしたらまだ赤子と言えるような年で結婚して子をもうけ、エルフの成人と並ぶぐらいの年にはもう寿命で死んでしまう。あの子ももうそんな年かと、十数年前に引き取ったばかりの我が子が結婚することに寂しさを感じつつも、目いっぱいの祝福を与えるつもりでメリニ行きの船の乗り込んだ。
     賢いカブルーが選んだ人ならきっと素敵な人なのだろう。人を観察することに長けているあの子に限って騙されるなんてことあるはずがない。優しくて、可愛くて、誠実な、良き人間であるはずだ。種族はやはり同じトールマンだろうか。
     そんなことを考えながら、両手で抱えきれないほどの手土産を持って、出会える時を浮き立つ気持ちで待っていた。この時は、まさかカブルーが選んだ相手が元同僚で、かつての苦手な相手で、迷宮主であったミスルンである可能性など微塵も考えていなかったのだ。

    「彼と結婚しようと思っています」

     分かるか、私の気持ちが?
     意気揚々と息子の家を訪ね、どんな可愛らしいお嬢さんが出てくるかと思ったら、ほぼ同い年の旧知の相手が出てきた私の気持ちを誰が理解してくれようか。言葉にならない複雑な感情が胸の中をぐるりと駆け巡り、頭は一斉に押し寄せる衝動で破裂しそうだった。
     その男のどこに惚れたんだ?そもそも彼に欲求はなかったはずだろう?何故カブルーとミスルンが恋仲になっている?
     聞きたい質問がとめどなく湧き上がる。しかし、喉を通り言葉となって出力されたのはたった一言だけだった。

    「ヤダーッ!」

     ぼろりと目から涙がこぼれる。違う、冷静になって話がしたいんだ。こんな泣き落としのような真似をしたかった訳じゃない。それでも今の自分の素直な感情は先程零した言葉の通りだった。彼に可愛い自分の息子を持っていかれたくない。だって、自分とほぼ同い年の男だぞ。

    「カ、カブルー。その男は私とたいして年が変わらない。エルフの見た目だから若く美しく見えるかもしれないが、かなりいい年をした男だ」
    「知ってますよ。チェンジリングでトールマンになった彼の姿も見たことがあります」
    「それに欲求も失っている。彼と一生を共に過ごすということは、彼の面倒を見続けるということだぞ」
    「とっくに覚悟しています。それに何なら最近はミスルンさんの方がしっかり暮らしているぐらいで、俺が面倒見られることもあるんですよ」
    「……寿命差だってある。お前が人生をかけて愛したとしても、私たちにとってはほんの人生の数ページ分の記憶に過ぎない。そんな相手でいいのか?」
    「貴方は俺のことを、人生のほんの数ページしか埋められない人間だと思っているんですか?」

     はっとしてカブルーの顔を見る。悲しみを湛えていた青がミルシリルへと訴えかけていた。俺は、貴方にとってその程度の相手だったのか、と。

    「違う!お前のことを忘れたりなどしない!たかが数十年でもお前は私の息子で、ずっと可愛いカブルーだよ」
    「ありがとうございます。俺も貴方を大切な第二の母だと思っています」

     だから、貴方に俺たちのことを認めて欲しいんです、と。そんな風に言葉を連ねられたら何も言えない。いや、まだ言ってやりたいことは山ほどある。このショタコン!とボーっと突っ立てるミスルンを罵ってやりたい。
     でも、そんな風に罵って駄々をこねたとしても結局は認めてしまうことになるのだろう。何せ口が上手いこの息子はとんでもなく頑固者なのだ。厳しい訓練すら乗り越えて、いつでもケーキが食べられる部屋から迷宮へと旅立ってしまった。しまいには新たに生まれたこの国で一生を過ごすつもりでいる。そんな離れて暮らす息子の心象を悪くするぐらいなら、早々に諦めて理解のある母親として息子の信頼を勝ち取るべきだ。本音を言うと限りなく嫌ではあるが。

    「……分かった。お前たちの結婚を認めよう」

     嬉しそうに顔を綻ばせたカブルーが親愛のこもったハグをしてくる。その体格が私よりも遥かに大きく、しっかりとしていることを感じながらも、匂いは変わりないことにまたもや涙が一筋零れた。やっぱり、いくつになろうとこの子は可愛い私の息子だ。

    「感謝する、ミルシリル」
     
     話し合いに口を出さなかったミスルンがようやく口を開いた。息子との触れ合いの邪魔をして欲しくはなかったが、折角の機会だ。一言ぐらい言ってやってもいいだろう。

    「お前はちゃんとカブルーを愛しているんだな?もし途中で捨てるような真似をしたら私が絶対に許さないということを覚えておけ」
    「もちろんだ。彼が死んだとしても操を立てるつもりでいる」

     思っていたよりも重い回答が返ってきて面食らう。かつての彼は、自分の食事を取ることも、身支度を行うことすらも碌に出来ない酷い有様だった。今の彼の頬は艶めき、髪は丁寧に結えられている。そして復讐の欲求だけを宿していた暗い瞳は、暖かな感情を宿して柔らかに輝いていた。きっとそれは、愛と呼ばれるものなのだろう。

    「……カブルーをよろしく頼む」
    「うん。ありがとう、お義母さん」

     ビシリ、と場の空気が一瞬で凍った。あちゃーという顔で額に手を突くカブルー、首を傾げるミスルン、そして肺一杯に空気を吸い込み、腹の底から叫ぶミルシリル。

    「お前にお義母さんと呼ばれたくない!」

     ああ、憎たらしい。やはり一発ぐらい殴ってやればよかった。可愛いカブルーを持っていくんだから、そのぐらいの痛み、与えても良かっただろう。どれほど私がお前の世話を焼いたと思っているんだ。恩を仇で返してくるだなんて。
     まあ、いいさ。いつかあの子が深い眠りについて、もうあの美しい青も黒い巻き毛も、可愛らしい耳も見れなくなってしまった日。そんな日が来た時に一緒に悲しみのどん底へと道連れになってくれる仲間はいた方がいい。私は一層陰気になるかもしれないし、お前もかつてのように澱んだ瞳に戻るかもしれない。だが、思い出を共有し、美しいあの子の話が出来る相手がいるのなら、まだ慰めになるだろう。度々共に人生のアルバムをめくっては、あの子の思い出を共有し、新たなページへと刻みこむのだ。
     その時には、お前に義母と呼ばれることを許してやれるかもしれない。
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    Dk6G6

    DOODLEカブルーがミスルンにマッサージするだけの話
    未来永劫、貴方だけ目と目が合った瞬間、カブルーは自分が幻覚を見ているのではないかと真っ先に思った。だから瞬きを何度かしてみたけれども視界の景色は全く変わらない。一度視線を逸らし、もう一度焦点を合わせてから見ても無駄だった。数メートル先ではいつも通り泰然とした様子のミスルンが立っている。これが城や街中ならカブルーはいつも通りにこやかに声をかけただろう。
     しかし、今の彼の立っている場所が場所だ。視界を少し上に向けると、彼が出てきた店の看板が堂々と掲げられている。マッサージ屋と謳われているそこは、いわゆる夜のお店だった。歓楽街の中心地に健全なマッサージ屋などそうあるものではない。それにマッサージ屋とは書かれていても、その店の外観に張られているポスターや雰囲気を見れば、通常のそれでないことは一目瞭然だろう。そんな店からミスルンが出てきた。幻覚を疑ってもしょうがない。だって、彼に性欲などないはずだ。通常の男の知り合いがこんな店から出てきたのならカブルーは相手の性格によって軽く揶揄ったり、逆に見なかったふりをする。知り合いに性を発散しているところを見られたら、誰であれ多少気まずさは生じるだろう。でも相手はミスルンだ。羞恥心もないし、性欲もない。
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