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    ドライアイス

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    ⚠癖の強い作品が多いです
    ⚠2同軸リバの民」です
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    ドライアイス

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    シリアスと見せかけたドタバタです。

    #イデアズ
    ideas

    6章後の妄想パターン① たぶん、やり方を間違えたんだ。こんなに痛いだなんて知らなかった。心の痛みってものが、痛覚に直接伝わってくる感じ。あのとき以来かな。
    だから、もういいよね。終わりにしても。
    レテの河にみんなを通すとき、アズールを最後にした。ここでの記憶分だけ消す予定でセットしたアラームを、彼のときだけ眺めに設定した。あとは、みんなより記憶が曖昧な彼に、僕にとって都合のいいことを刷り込むだけ。鳥の刷り込みとおなじくらい簡単なこと。これで、僕は痛みから開放されて、あの子もこの不毛な関係を終わりにできるんだから感謝されたいくらいだ。
    僕の両親はアズールとの関係を許さなかった。当然といえば当然だ。僕らは同性同士で、あの子は被検体キズモノで、技術革新を謳うわりに頭の硬い2人が承諾してくれるとはおもっていなかったから。
    諦めていた。いつも、どのタイミングでも。告白するとき、初めてあの子とキスをする直前。僕の部屋にあの子が訪ねてきたとき。肌を晒した夜も、あの子の知人たちに改めて紹介されるときも。おかしい、まちがってるってそう言われる覚悟を何回もしていた。
    けれど、予想外に彼の周りは温かく迎えてくれて、ふたりの関係は順風満帆で、喧嘩をしてもちゃんと仲直りできて。だから、言い出すタイミングをずとお、ずっと引き伸ばしてしまった。あ、ちがうな。引き伸ばしたのは僕の意志だった。ヒトのせいにするのは良くないよね、うん。猛省、猛省。
    というわけで、こっちの都合によってあの子の記憶を一部トリミングしちゃったわけですけども。
    なんて顔で微笑うんだ。
    あのさ、僕は君の数いる取引相手トモダチのなかのひとりに戻ったんですけど。なんでそんな顔で微笑うかな。こっちとしては他のやつに向けるみたいな、お澄まし顔の営業スマイルをお願いしたいんだけど。
    やめて、もう手放すって決めたんだ。あとちょっとだけ、ただの部活の先輩でいさせてよ。そしたら、また逃げ切るから。卒業後は絶対に会わないし、取引はするけれどプライベートには踏み込まないから。だから、もう二度と君を傷つけさせないで。
    すきだよ、ずっと好き。愛してるよ。あと1年弱、その先もずっと一緒にいたかった。
    「考えごとですか?いい度胸がおありのようだ」
    「え、い、いや」
    「目が曇ってましたよ」
    「たいしたことじゃ」
    「3手前」
    「え」
    「僕の3手前を思い出してください」
    3手前、たしか
    「痛恨のミスでしたな、あのときにとどめを刺す事もできたのに」
    「いいえ。見逃したんですよ」
    その言葉に、つい驚いて、僕は膝を机の裏の鉄板にぶつけてしまった。
    「っぅ〜〜!!」
    「泳がせて、観察して。でも、飽きてしまいました。だってあなた、僕がここにいるのに、こっちを一度も見てくれないんですから」
    拗ねたような口調と、自分を魅力的にみせる表情をあわせて、彼はただただ静かに怒っていた。
    「なにその言い回し。受けるんだけど」
    今がふたりきりで良かった。他の部員がいたら、ごまかしが効かなくなってしまう。
    「僕を、好きだったんじゃないのか!」
    席を立ったのは彼だった。
    「え、い、いつから!ていうか、どうしてそれをっ」
    しどろもどろになった僕を見下ろし、鼻息荒く顔を寄せ、せっかく美しく配置されたパーツを歪めてアズールは叫ぶ。
    「なんなんだ、一体!ねえ、今日はほんとうは何月何日なんですか!?僕があなたにした告白と、あなたが部屋に招いてくれた日がそれぞれ5回と2回あって、それでどうして今更他人ヅラするんですかっ!」
    「ぁ」
    バレてた!バレてた!どうしよう?
    学園に戻ってきてから、ふとした拍子に僕とのことを思いだそうとしたり、彼から告白されるたびに呼び出したりして記憶を奪っていたことが
    「この記憶泥棒っ」
    「ひっ」
    大きく手を上げた彼に、反射的に目をつぶると胸ぐらを鷲掴みにされて、唇に覚えのある感触が重なる。
    「この際だから、言わせてもらいますよ」
    ゆっくりと力を抜かれ、唇が離れてから、苦々しそうにアズールが言葉を振り絞る。
    「絶対に逃しませんからね!」
    「あず」
    「盗んだ以上の思い出をよこしなさい」
    許されていいわけが無い。
    「やだよ。ずっと一緒にいられないなら、この感情に意味なんてない」
    「意味ならあります!僕が、嬉しいと思うからっ」
    「入籍とか、実家とか」
    「だったら、入籍できるまであなたと一緒に説得します。何回だって歯向かって」
    「は、君ってホント」
    ブレないな。頑固で負けず嫌いで。自分の守りたいものを手に入れるために、努力を惜しまない。
    「なんですか、その顔」
    迫力のあった勢いが削がれ、呆然としたアズールに、僕は自分の顔を触る。
    「え、そんな変な顔してた?」
    「ふ、あははははっ」
    「突然なに?!」
    ニヤけてた自覚はあったけど、そんなに不細工な笑い方だったのか。
    地味にダメージを食らっていると、頬を左右から包まれ、またキスをされる。
    「ん、ふふっ」
    「ちょっと」
    ムードもへったくれもない
    「あなたは、どうして僕が何度も告白できたと思います?」「僕のことを好きだったからじゃないの?」
    「いいえ」
    「え」
    なにそれ、ていうか今の自分の返事かなりイタいやつ
    「あなたのことを好きだというのは事実ですが、もうひとつ理由がありました」
    技術とか取引相手を逃したくなかったとか、そういうのだったらどうしよう
    「僕を見るときのあなたが、すごく優しい目をしていたから。きっと、勝率は高いと」
    「……は、え、顔に出てた」
    「ええ。とてもくすぐったい気分でした。でも、直後に沈んだ顔もセットだったから、これは『はじめから勝負を捨てた顔』だって気付いたら、なんだかもう。僕が幸せにしなければと」
    「っ、こ、ころして。しぬ、しんじゃう。恥ずか死ぬ〜〜っ」
    「だめですよ。これからがお楽しみなんですから」
    「ひぃーっ」
    耳もとで悪魔じみた誘惑を囁く声。そして、僕の頬を抑えていた手がそっとすべり、喉もとから胸を撫で下ろした。
    「ね」
    ね、ってさぁ!ああもう嫌だ。そのへんのインキュバスよりよっぽど素質あるんじゃないかな!?たかがひと言で、こんなのって
    「死んでしまってはもったいない」
    「ご、ごもっともで」
    いたずらしていた指先が離れ、彼がドアへ向かう。
    「とりあえず、積もる話もありますし、僕の部屋に行きましょうか」
    「ハイ」
    このあとめちゃくちゃ叱られたのは言うまでもなく。絶対に、独断専行しないよう何か条にも及ぶ誓約書を欠かされたことを記しておこう。
    もう絶対余計なことするなよ!未来の僕!どんなに不安になっても、逃げたくなっても、アズール・アーシェングロットからは逃げ切れないんだから。

    数年前に自分が記した記録を読み返し、大人になった僕は、壁一枚隔てたアズールの私室に目をやる。また説得に失敗して、今回ついにやけ食いに走ってしまった彼は、痩せるまでは時間をずらしながら生活するらしい。ちょっとさみしいけれど、こうして最悪の時期を振り返ると、ちょっとはマシな気分になってくる。
    それはそれとして、早く会いたいけれど、伝えたら伝えたで無理して痩せようとするから困りものだ。
    「安心しなよ」
    PDFのウィンドウを閉じ、僕は目をつぶる。
    過去の自分が釘を刺していたようなことは、起きない。ふたりで今を精一杯生きるって決めて、誓ったんだから。これは杞憂に他ならない。
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