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    ドライアイス

    @4gHO9Yp2t0otaLm

    ⚠癖の強い作品が多いです
    ⚠2同軸リバの民」です
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    ドライアイス

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    アズイデ♀です

    #アズイデ♀

    『デートにロマンは必須ではないので』「……イデアさんの浮気者」
    「ごめんって」
    「まさかスカートのなかに、あんな、あんな獣を」
    「ちょっと黙ろっか」
    アズールの物言いにまわりの目が気になったイデアが、彼の口もとを抑えた。
    「むぐっ」
    3回目の外デートは猫カフェだった。猫にいいイメージはないものの、あの生き物にご執心な恋人の横顔はなかなか見られるものではない。そんな『よこしま』さが透けたのか、アズールは猫たちに見向きもされず、かの生き物はイデアの履いているロングスカートの中へ吸い込まれるように潜り込んでいった。
    店員いわく、隙間になる場所、しかも人の視線に晒されない場所であるため、魅了されたのだろうとのことだが、ふわふわとしたぬくもりを纏った生き物に生脚を擽られて、赤面しつつ悶えるイデアがぎゅっとアズールに縋りついているあいだじゅう、彼はずっと苦行を強いられていた。
    「……ぼくの」
    「はいはい、帰ったらね」
    すっかり拗ねてしまってぶつくさと不満を述べるアズールに、イデアは苦笑する。
    「なんでスカートだったんですか」
    「えー?言わないとダメ?」
    「てっきりジーンズで来るかと思ってたのに」
    「もうちょっとオシャレしたらって言ったのは、君じゃん」
    「は」
    「え、選択間違えた?待ちあわせ場所で会ったときは嬉しそうにしてたし、オルトにも見てもらってたから……うわ、舞い上がっちゃって馬鹿みたい。ごめん」
    濃いめのデニムジャケットにグレーのVネックニット、そしてオフホワイトのチュールスカート。カジュアルだけれど、貴重な私服姿。それもめったに見かけないスカートともなれば、アズールは会ったときからずっとそわそわとしつつ、横目で彼女を伺っていた。
    「そんなことないです!かわいらしくて、でもシンプルで、オルトさんがあなたにとって、抵抗の少ないコーディネートをしてくれたんだってわかりました。靴だって、新しいので」
    さきの細いスエード調のパンプスは、足首をパール状のビジューが一周していて、いいアクセントになっている。
    「……おかげで足痛いけどね」
    「僕のせいで」
    「ちがうよ」
    「余計なことを言いました。あなたが苦手な外に出てくれるだけで良かったのに」
    「2回目のデートのこと、ちゃんと覚えてるよ」
    アズールは、ただイデアに苦言を呈したわけではなかった。
    ふたりが2回目のデートをしたとき、イデアはゆったりしたモッズコートにジーンズをあわせ、髪を帽子で隠していたので、男ふたりに見えたらしく、女性の二人組に声をかけられたという経緯がある。
    あのとき、アズールはにこりと笑い、その女性たちに残酷なことを言ったのだ。
    『この人が手抜きするたちで良かったですね。ちゃんとオシャレをしていたら、あなた達は裸足で逃げていたかもしれませんよ』
    それからしばらくして、3回目のデートのお誘いがきたとき、彼女はイメチェンを図ることにした。
    「今日は、そっちに泊めて」
    「え、ええ構いませんが」
    「フヒヒ、この足じゃオルトが心配しちゃうから」
    「あ」
    靴擦れで痛々しく赤らんだ足をそっと覗かせたイデアに、アズールは眉を下げた。
    「気付けなくてすみません。急いで戻りましょう」
    「口実だよ」
    「口実って」
    彼のために、慣れない格好をした。それは事実。けれど、足が痛くなったのは、馴れない靴を履いた自分のせいだった。敢えて足が痛いと伝えたのと、弟が心配するからと説得したのも
    「あなたって」
    思惑に気付いた彼が、額を抑える。
    「せっかく街にでたのに、このままデートを切り上げていいのか、とアズール氏は揺れていた。最終的にどちらかの部屋へ向かうとはいえ、たかが2時間程度で引き上げるとは、あまりに余裕がない、ここはもう少しだけ紳士的に」
    「こら、心を読まない」
    「ひひひ」
    いたずらっぽく笑う彼女に、アズールは両手を上げて降参を示す。
    「ええ、そうですよ。どうせ、猫なんかにヤキモチ焼くくらい余裕がなくて、恋人がバカにされたらその場で言い返すくらい器が狭い男です」
    「うん。最高に可愛くて、かっこいいよ」
    返事がわりに、アズールは自分と同じくらいの手を握って、自分のカシミアコートのポケットへ突っ込んだ。
    「わっ」
    「やっぱりつめたい」
    「じゃあ離せばいいでしょ」
    「やです」
    「困ったちゃんですなぁ」
    イデアは、傍らを見つめながら同じ速さで歩きはじめた。
    「……ふふ」
    「アズール氏?」
    数分して、突然笑いだしたアズールに、イデアが怪訝そうにすると、波打った銀糸の髪のむこう、上機嫌に目もとと口もとに弧を描いた彼と視線が絡む。
    「ゲームをしましょう」
    「ゲーム?どうやって」
    「簡単なルールですよ。このポケットから手をさきに抜いたほうが負けです」
    「意味が」
    ラム革のしっとりとした手袋が、イデアの指の間をなぞった。
    「ちょ、そういうの」
    「自信がないんですか?」
    「……上等だよ。案外君のほうがさきに音を上げるかもね」
    「おや、言いますねえ」
    大通りに出たところで、アズールがタクシーを呼び止める。
    「ナイトレイブンカレッジまで」
    「はいよ」
    ふたりでタクシーに乗り込み、手をそのままでいると、ドライバーがにこりとしながら尋ねてきた。
    「お熱いね。付き合ってどれくらいだい?」
    「もうちょっとで1年です」
    「へぇ、おっと、彼女さん顔赤いけど、暖房切ったほうがいいかな」
    「だ、だいじょうぶ」
    ポケットのなかで、軟体動物のごとく執拗に絡む指先に意識を引きずられそうになりつつ、イデアが声を絞り出す。
    「そうかい?」
    「だいじょうぶですよ。ただ暑がりさんで」
    「暑がり?」
    「ええ」
    髪が燃えてるのに?と言いたげなドライバーを笑顔で黙殺し、アズールはさらにイデアの手を弄りまわす。
    「ちょっと、あず」
    「はい、なんですか?」
    「この性悪っ!」
    かたや素手、かたや手袋つき。勝負ははじめから決まっていた。
    小声で毒づく彼女が、唇をわななかせるさまを、アズールは満足げに見つめた。
    運転手は、脇道からのそりと歩道へ向かう歩行者に気を取られていて、ふたりの様子には気付いていない。やがて歩行者が歩道を渡りきったところでアクセルを踏むも、今度は自転車に乗った少年が飛び出してきて、彼は急ブレーキを踏んだ。
    「うわっ」
    「っ!」
    お互いを庇おうとふたり同時に手を伸ばし、コートの中の手が離れ、勢いあまったアズールがイデアの後頭部を抱え、窓に手をつく。
    「っこの!」
    窓を開け、少年へ悪態をつく運転手をよそに、イデアがそっとアズールの肩を押した。
    「は、はなれて」
    無言で離れたアズールだったが、姿勢を戻したあとも、もぞもぞと腰をずらすイデアに気づき、あらぬところに集まりはじめた血流を誤魔化すため、魔法史の内容を頭の中で復習する。
    「あのさ」
    「は、はい」
    「手、引き分けでしたな」
    「仕方ないでしょう」
    突然話しかけられたことに動転しそうになった彼が無難な返事をすると、イデアがアズールのコートの袖を引いた。
    「自分が有利な条件を出そうとするからだよ」
    「口実ですよ」
    「うん?」
    「手を繋ぎたいって言ったら、断るのはわかっていました。けどゲームだったらノッてくると」
    「うっ」
    明後日の方を向くクロムイエローをアズールは視線で追う。
    「隙だらけですね」
    「君だからだよ」
    「だと良いのですが」
    ナイトレイブンカレッジの門前でタクシーが止まり、アズールが財布を取り出すよりさきにイデアがタブレット端末で決済を済ませてしまう。
    「ちょっと」
    「時間は有効に使わなきゃ。それに、猫カフェは君の奢りだったから」
    「だからさっきはすんなりと奢られたんですね」
    「さあ、なんのことかな」
    さきにタクシーを出ようとしたイデアが表情を歪め、崩れかける瞬間、とっさにアズールが彼女の腕を引いた。
    「ありがと」
    「当然のことですよ」
    心配そうにした運転手に大丈夫だと仕草で伝え、イデアに肩を貸した状態で彼が歩きだす。よほど足が痛むのか無言になって時折うめく彼女に、顔を曇らせながらもどうにか鏡の間につき、オクタヴィネル行きの鏡を潜った直後、自分と同じくらいの身長のイデアを横抱きにして、彼は颯爽と自室へ向かった。
    「アズール氏!さすがにこれは」
    「ほんとうは、街なかからこうして運びたかった。ですが、あなたがひと目を気にするかと」
    「大正解だよ。だからおろして」
    「ここは、僕の領域です。誰にも余計なことは言わせません」
    先ほどまで可愛らしかった少年は、自分の統べる領域に戻った途端、威厳たっぷりに宣言した。
    「まさに水を得た魚ですな」
    自力で歩く気力をなくした彼女は、もう一方の腕もアズールの肩へまわす。
    ようやく自室へ着くや、アズールはイデアを椅子に座らせ、タオルを冷やしに浴室へ向かった。
    「隙だらけか」
    不意をつかれたわけでなく、気を許しているのだから無防備にもなる。 アズールを待っている片手間にオルトへメールで、アズールの部屋へ泊まることを伝えると『オッケー、あしたはタコパだね』というなんとも微妙な返事が返ってきて、イデアは渋面をつくった。
    「どうしました?」
    「あしたはタコパなんだって」
    「タコパ?」
    「たこ焼きパーティー」
    「それはまた、どうして」
    「ここに泊まるってオルトに連絡したら」
    言葉を失った彼から濡れタオルを奪い、自分で冷やしつつ、イデアは一息ついた。
    「どうですか」
    「ん、マシになった」
    「絆創膏は」
    「いらない。剥がれやすい箇所だし」
    「ガーゼとサージカルテープでも?」
    「それだったら」
    「待っててください」
    机の引き出しをあけて小物入れを取り出し、カットガーゼとサージカルテープを取り出したアズールに、イデアは濡れタオルをどかす。
    四重に折ってあったガーゼをさらに折り、内側の2層くらいまで水魔法で濡らしてから冷却させ、靴擦れの箇所にテープで固定する。
    「きつくはないですか?」
    「うん」
    さっきより痛みが引いて頬の強張りがとれたイデアのようすに、彼は頷き、濡れタオルを受け取って浴室の洗面器に放ると、イデアのいる方へ戻った。
    「アズール氏」
    「はい」
    両手を広げた恋人に誘われるまま、膝を床につけて抱きつくと、鼻をつく独特な匂いがした。
    「……猫くさい」
    「ふっ、ふひひ、それはそうですな」
    スカートの部分がとくに獣臭を吸ってしまっていて、アズールは盛大に顔を顰める。
    「こっちで」
    「うひっ!?」
    トップスのニットの裾をインナーごと捲りあげ、直接腹部に鼻先をあてて、頭をすっぽりともぐり込ませたアズールにイデアが素っ頓狂な声をあげた。
    眼鏡のレンズの冷たさと、彼のふわりとした癖っけがどのタイミングで当たるか読めず、幾度も不意打ちをくらう。
    「ん、おちつく」
    「そ、それは良かったですな。っふ、く、くすぐった」
    「僕の蛸壺です。あなたの隙間という隙間ぜんぶ」
    「こわっ」
    「え、どこがですか?」
    「いやいや、無自覚か」
    イデアの言葉に思い当たる節がないのか、アズールは鼻先をぐりぐりと薄い腹に押し当てる。
    「っく、こらっ」
    「ふふ、いま、きゅるるって鳴りました」
    「お昼食べそこねてましたな」
    「言われてみるとそうですね。ルームサービスでも頼みましょうか」
    「え」
    「ここはオクタヴィネルですから」
    「職権乱用では?」
    「いいえ。寮内限定サービスですから」
    「ふーん?」
    「この薄いお腹にはなにがいいでしょうね」
    「っひ!?そ、その髪でくすぐるのズルい」
    「くすぐってなんかいませんよ、癖っ毛なもので」
    「喋るのもやめっ!なんか、唇が擦れて、息とか」
    「ふーっ」
    「やめてってば!」
    わざと息を吹きかけたアズールに、限界に達したイデアがニットの裾を引っ張る。
    「あ」
    「もうっ!この服伸びちゃったし」
    「部屋着ですかね」
    「と、とにかく!くすぐるの禁止!」
    「僕は純粋に恋人と触れあっていただけなのに」
    「ほぼ一方的だったよね!?」
    「ふふっ、さてね。ああ、期間限定のオススメメニューがありまして」
    「こんな雑な誤魔化し方ってある!?」
    彼女の講義に同意するかのごとく、腹の虫が鳴く。それにアズールは大きな声で笑いだした。彼の機嫌はすっかり直っている。
    「次のデートはどっちかの部屋にしましょう」
    「いいの?」
    「ええ。あなたがリラックスできて、そんなあなたにくっついてるのが楽しいので」
    「よ、よろこんで」
    ふとアズールが立ち上がって、髪の先まで赤くして頷いたイデアの頭頂にキスをした。
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