プレゼントは…… 朝から1件仕事を片付けて校庭へと向かう。この後は生徒たちへの体術指導をして、その後はまた1件呪霊退治。その後はじじい共の無茶振り案件への対策を話し合うため会食。本当に人使いが荒いことだと常々思う。今日くらい休ませてくれてもいいのにと思うのも許されると思う。なんせ今日は僕の誕生日である。まぁ、朝一の相手は1級でも手こずるだろう相手だったし、生徒指導は時間がさけるうちにやっておきたい事だから仕方ないと思う。会食も内容はともかく相手は学長だしまだマシだ。繁忙期では無いだけゆったりしたスケジュールであるだけ良しと思わなければならい。夜には帰れるわけだし、お楽しみは退勤後だ。僕は持ち直した機嫌のまま陽気にグラウンドへと降り立った。
「おはよー! みんなのGTG、五条先生だよー!」
「あ、先生おはよ!」
「おはようございます」
「おはよ」
悠仁、恵、野薔薇の3人とさらに。
「はよ」
「こんぶ」
「お、いいねー。今日は真希と棘も参戦か」
2年の二人もいて今日は賑やかになりそうだ。しかし2年生のもう一人、パンダがいない。
「でもパンダは一緒じゃないんだ? 仲間はずれは良くないなぁ」
「おかか!」
「んなわけねーだろ。あいつは……別件対応中だ」
視線を逸らした真希を突っ込むべきかと逡巡した時悠仁が声を張り上げた。
「あーっと!!! パンダ先輩の事は一旦置いといて俺ら先生に渡すものがあるんだよね!」
「そーよ、まずそれ! 伏黒、狗巻先輩!」
悠仁と野薔薇がワタワタと恵と棘を急かし、二人が建物の裏へと引っ込んだ。ここまで来ればだいたい予想はつく。以前悠仁に聞かれて誕生日を答えた事があるし、恵ももちろん覚えているだろう。ノリとして分からないフリをしながら待っていれば奥からゴロゴロと音を立て、二人が押してきた代車に乗った物を見ればパンダの別件も予想がつく。それはいつぞや悠仁の復帰サプライズに使ったようなサイズの大きなプレゼントボックスだ。そのままであればいささかわかり易すぎる気もするが、予想通りでも違ったとしても皆が僕の誕生日祝いを考えてくれた事がまず嬉しい。自然と笑みが浮かぶ。
「なになに、これ僕に? 期待していいやつ?」
「そう! 先生、誕生日おめでとう! いつもお世話になってる先生に感謝も込めて用意しました!」
「おめでとう。わざわざみんなで考えて用意したんだから期待していいわよ」
「おめでとうございます。きっと喜ぶプレゼントだと思いますよ」
「しゃけしゃけ! ツナマヨ!」
「私らは1年の企画にのっかただけなとこもあるんだけどさ。まぁおめでとう」
悠仁の言葉をかわきりに皆がそれぞれ祝福の言葉をくれる。こういう時が教師を選んで良かったと思える瞬間のひとつだ。
「みんなありがとね。めっちゃ感動するしちょっと泣きそう」
泣き真似をすればみんな笑ってツッコミを入れてくる。呪霊退治の殺伐とした日常を一瞬忘れさせてくれる楽しい時間だ。
「ね、先生。プレゼント開けてみてよ」
「それじゃあ早速開封式しちゃうかー」
悠仁に促されてプレゼントボックスのリボンをといていく。みんなの期待のこもった視線が集まっているのを感じる。リアクションしっかりとってやらなきゃなぁ。パサリとリボンを落として蓋を持ち上げた。
「……」
一瞬思考が停止する。視線の先、箱の中にいたのはパンダではなかった。パチパチと瞬きしても消えることの無いその人、それは七海だ。
「……誕生日おめでとうございます」
狭い箱の中で身体を小さく折りたたみ、窮屈そうな七海が気恥しげな表情で言う。
「あれ? 先生?」
流れた静寂のせいか悠仁に不安げに声をかけられてハッとする。
「あ、ごめんごめん! まさか七海が居るとは思わなかったからさ。七海がプレゼントなんてみんなわかってるねぇ」
「良かったー!」
「だから大丈夫って言っただろ」
「もー! 驚かさないでよ、プレゼントすべったかと思って焦ったじゃない」
「すじこ~」
僕の返事にほっとした表情の悠仁に続き野薔薇と棘も安堵の声をあげる。恵はやれやれと言った表情だ。そして後ろからパンダの声が聞こえてくる。
「さとる~、おたおめ。おまえ本気で驚いてただろ。サプライズ大成功じゃねぇか」
「そりゃそうだよ。あの流れはパンダが出てくるところでしょ」
「狙い通りだな。私らの演技も捨てたもんじゃねぇだろ」
「名演技だったよ」
真希が楽しそうに笑いパンダとハイタッチした。
「や、ほんとサプライズとしても大成功だよ。まさか七海がこういう事に付き合うの意外だったからさぁ」
僕は所在なさげに箱の中に座ったままの七海に手を伸ばし立ち上がらせる。
「まぁ、子供たちの気持ちは大事にしてあげたいですし」
「ナナミンに俺がお願いしたんだ。五条先生金持ちだから普通のものは自分で買えるだろうし、買えないものでって考えてさ」
「伊地知さんにも協力してもらってこの後のスケジュールは別日にしてもらってますから」
「1年たちの事は今日は私らが見てやるからさ」
「至れり尽くせりだね、最高。みんな本当にありがとう! すごく嬉しいよ」
そういうて僕は七海の腰へと手を伸ばした。
「ちょっ」
「それじゃあ遠慮なく七海いただくね」
そのまま慌てる七海を担ぎあげる。この後フリーになったとはいえ時間が惜しい。僕は驚いた顔の生徒たちにひらりと手を降ってから術式を利用して瞬時にその場を後にした。だからこの後こんな会話がされていた事は知る由もない。
「はやっ!」
「はぁ。まぁ生徒の前だろうと遠慮なんてする人じゃないしな」
「喜んでもらえたなら良いけどね。ナナミンと行くスイーツブッフェ」
「ねぇ。むしろ七海サンが持ってたスイーツブッフェチケットに一切触れられなかったけど……あれ、EAT MEって意味に取られてない?」
「だろうなぁ。チケットに気づいた上でわざとな気はするけど」
「しゃけ~」
「七海サン巻き込んじゃって申し訳ないけど、ご愁傷さま」