まだ肌寒い春の宵、延麒六太は雲海を眺める露台の手すりにもたれながら、花菓子を食べていた。
今日の下界の天気は生憎の曇り。それでも、ここから見える景色は面白い。灰色であるはずの雲海の色は、春分節の到来を祝う関弓の民草の灯した赤い提灯光が映り、薄紅色に輝いていた。時折あるちかちかした鋭い光の明滅は、威勢の良い爆竹だろうか。
きっと民草は楽しく宴をやっているに違いないとほくそ笑み、手に持った盆から花の砂糖漬けを摘んで口に入れた。
雁国の花菓子は、去年摘んだ花を砂糖で固め、秋冬の条風に晒して乾燥させる。本来保存食だったものが国が豊かになるにつれ、趣向の凝った縁起菓子になった。
今年も俺たちの国が、一面の花咲く野になりますように。