雁国にも春一番の強い風が吹き、散らされた咲き始めの梅の花びらが、礫のように延王尚隆に降りかかり小さな痛みに思わず目を瞑った瞬間、目の前の欄干で月餅を頬張っていた延麒六太が風に吹き飛ばされ、尚隆は咄嗟に六太の腰紐を掴んで引き留めた。
「ぐえっ」
麒麟である六太が関弓山の遥か上にある玄英宮から落下しても問題はないのだが、思わず六太を捕まえていた。
急に腰紐を引っ張られて、六太は月餅を喉に詰まらせて咽せた。
「すまんかった。」
尚隆は六太の背中を摩ってやった。
「月餅が……」
六太は食べかけの月餅を関弓山から落としてしまったことを気にしている。
「仕方あるまい、誰ぞ山のネズミでも虫でも喜んで食うだろうよ」
「今年の最後の梅味月餅だったんだ……」
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