べつに、両親に不満があるわけではない。仲の良い夫婦で、母親が幸せそうなのも、喜ばしいことだ。
ただ、どうにも父親を父親と思えなかった。一個人としては嫌いではないが、父親として慕えるかと言うと難しい。
だからこの身には父親への情というものが欠けているのだろうと思った。
家族のかたちはひとそれぞれだ。私の魂は父親という存在を求めていないのだろうと、長ずるにつれて漠然と思うようになった。父親には悪いと思うが、無視をしたり、冷たくあたっているわけでもない。
親戚のおじさんくらいの気持ちで父親に接するのが一番しっくりきたし、父親も察してくれたようで、そのような距離感で長年暮らした。
そんな自己分析が粉々に打ち砕かれたのは、とある団体の慈善活動に参加してからだった。
学校の内申点稼ぎの一環だ。慈善活動に参加したという証明がいる。証明を貰いに、その団体の拠点を訪ねたところで、輝ける黄金が視界の端できらめいた。
衝動的に黄金の輝きを追いかけて、振り向いた少年の瞳に崩れ落ちそうなほどの衝撃を受けて、胸をおさえる。
にこりと少年が微笑んだ。
ああ、何にたとえよう。この気持ちを。所詮学生の身であった。こんなときにこそ、おのれの不勉強さを恨んだ。
自分よりもよっぽど幼いというのに、泰然とした様子は自分よりも年上のように思える。
「……父様?」
ぽろりと口から零れ落ちた言葉と、震える声に、遅れて涙を流していることに気が付いた。
泣いている実感すらないが、目元に触れれば、指先が濡れる。
そうして、長年自覚すらできていなかった自身の欲求も理解した。
ああ、父親を求めていた。求めている。
この人がいい。この人でなければ、いやなのだ。