目を覚ましたら世界が滅んでいた。
寝室の天井はいつも通りだけれど、妙な確信があった。世界はもう滅んでいるのだ。
寝台から起きて、普段通りに身支度を始める。
静かであった。窓越しの喧騒はどこにもなく、試しにとテレビをつけてみれば、ざあざあとノイズが走るばかり。
ダイニングの机に置きっぱなしだった新聞を手に取る。昨日の日付のものだ。自身の写真がそこに乗っていた。ラインハルトが俳優を引退したことを報じる記事が書かれている。特に目新しい内容はない。新聞を机の上に戻した。
さて、どうしよう。
窓の外を見る。空はまっくろで、延々と星が落ちていた。見渡す限り建築物は崩れていて、無事なのはラインハルトの家だけのようだ。
窓枠に肘をついて、少しの間流星雨を眺める。降り注ぐ光は宇宙の破片であった。燃えて、しかし燃え尽きることもできずに落ちていく。
あくびをして、キッチンに向かう。そうだ、ご飯をつくろう、と思った。
冷蔵庫の中から下処理をしておいた鶏肉を取り出す。念のため確認したが、食べても問題なさそうだった。フライパンに油をしいて、皮がついている方から鶏肉を入れる。火をつけて、じんわりと温まっていく様子をながめた。
静かであった。ぱちぱちと油がはじける音だけが響く。
どうしたものかな、ともう一度考える。考えたところで、ラインハルトにできることはないのだが。
良い感じに焼けた鶏肉と食べやすいサイズにしたきのこに火を通して、牛乳を注いで、味付けをする。あとは煮詰めるだけだった。
出来上がったものを二皿にわけて盛り付け、机に並べたラインハルトは、いったん外に出てみることにした。
玄関から外に一歩踏み出すと、自宅の前ではなかった。見知らぬ街並み。周囲を観察しながら、道路をあるく。ふと道路になにかが落ちていることに気が付いた。
一件ぼろぼろの布の塊であった。もしくは主のいない影の塊であった。
ラインハルトはそれを知っていた。
「カールよ、なにをしている?」
問いかけたものの、ラインハルトには目の前の男が死んでいるのだとわかった。
ああいや、もっと正しく言うのならば、ショックのあまり倒れている。