見逃さない男の話 ぐらりと視界がぶれて、世界が回転する。座ったままの身体が妙な浮遊感に包まれて、平衡感覚を失い倒れそうになった。片手で顔を覆い、肘を付いてじっと治まるのを待つ。
「…っ、」
ぐるぐると、脳を掻き回されているような感覚だった。痛みを誤魔化す為にこめかみを掴む指に力を入れるが、頭の中に響くものにはまるで効果がない。唇を噛み締め、目を閉じて波が過ぎ去るのを只管待った。美しくデザインされたライトから零れる光がずっと目の奥で光っていて、酷く煩わしい。
「……ふぅ、」
時間にして数秒。漸く落ち着いたアルハイゼンは、熱い息を吐いてだらしなく机に突っ伏し、全身の力を抜いた。医者に見せなくとも分かる、明らかな体調不良。朝起きた時は何ともなかったのに、恐らく熱も上がってきている。最早家に帰るのも面倒で、だが、帰らなければ休む事も儘ならない。分かっていても、どうしても動くのが億劫で椅子から立ち上がれないでいた。正直すぐにでもベッドに横になりたい。しかしそんな時に限って、何故か人は来るもので。
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