嵐を怖がるロイド君台風真っ只中。さっきからロイドの姿が見えないと思ったら、部屋の隅で布団にくるまって縮こまってた。仕方なさげにランディも一緒に布団に入ってあげると、ロイドの強ばってた表情が徐々に安心した笑顔に戻ってきた
今夜は嵐になる。
そう天気予報が告げたため、その日支援課は朝から酷く慌ただしかった。
自分たちの住むボロいビルの備えはもちろん、市民から手伝ってくれ、という声が幾つもかかり、お人好しの我らがリーダーは後先考えずに引き受けるものだから一つ終わればまた次といった具合に駆けずり回る羽目になる。
市民からの要請を全て終えれば既に夕方。雲行きはかなり怪しくなってきていて、ロイドとふたり、慌ててビルへと戻れば、強い雨が降りだした。
「あっぶねえ。後少し遅けりゃ、ずぶ濡れになるとこだったな」
「はは、そうだな。間に合って良かったよ」
「ったく、お前が次から次と手伝いを引き受けるからだぞ?」
「ごめんごめん。でも、皆となら何とかなるだろうと思ってさ。…さ、夕食を食べて、さっさとシャワーを浴びてしまおうか」
「そうだな。駆けずり回ってくたくただし、今日は早めに休むか」
そんななんてことない会話をして、一足先に戻っていたお嬢とティオすけが用意してくれていた夕食を皆で取り、順番にシャワーを浴びる。
その後部屋に戻ろうとすればロイドに報告書を手伝えと言われたが、今日はほとんど嵐に対する備えの手伝いだ。そんなに大した量でもないだろう。
なのでさっさと部屋に戻り、軽めの酒を空けていれば、コンコン、と控えめなノックの音がした。
「開いてるぜ。入れよ」
「お、お邪魔します…」
そこに立っていたのは気配が指し示していた通りの人物で、だがその手に抱えられた枕に思わずその顔を凝視してしまう。
するとその人物、ロイドは決まり悪げにポリポリと頬をかき、今夜泊めてくれないか、と言い出した。
「は?泊めてくれって、お前、まさか嵐が怖いのか?」
「う。その、苦手、なんだ。大きな風の音、とか、雷の音とか、窓のガタガタいう音とか」
「マジか。…いや、まあ、苦手なものは人それぞれだけどよ」
「うう。……や、やっぱり、いい。止めておくよ…」
「まあそう言わず、こっちに来いよ。……いいぜ、泊めてやる。あ、酒の匂いがするだろうがソイツは勘弁な。窓も開けられねえし」
そう言って手招きすればおずおずと近寄ってくるロイドの様子が、しょぼくれた犬みたいで何だか可愛くて、衝動のまま頭をグシャグシャと撫で回してやればプンプンと怒る素振りを見せるが、それが本気じゃない事くらいお見通しだ。
自分はまだ飲むから先に布団に入ってろ。
そう言えばロイドは素直にベッドに潜り込んだので、読みかけの雑誌に目を落とし、酒を飲みながら眺めていれば、風やそれに乗って窓に打ち付ける雨の音が随分と酷くなってきた。
そこでふとロイドの様子が気になり、ベッドを見れば、隅の方で布団にくるまり、縮こまって震えているのが目に入る。
その普段からは考えられない様子に呆気に取られたが、少し可哀想になってきたので飲むのは切り上げ、ベッドへと上がる。
そして布団ごと包み込むようにして抱きしめてやれば、少し安心したのだろうか、布団から強ばった顔を覗かせた。
その顔色は酷く悪くて、そんなに苦手とは思わなかった、悪い、と声をかければ、こっちこそ、気を遣わせてごめん、と弱々しい声が返ってくる。
布団を握りしめるロイドの手の力が少し抜けたのでそっと布団を退けて、今度は直に抱きしめてやれば、ぎゅっと服を掴まれる。
その様にドキッとするが頭を振って意識を切り替え、ロイドを抱きしめたまま横になって布団をかぶる。
そして音が聞こえないよう両耳を手で覆ってやれば、ロイドは、ありがとう、と言いながら恥ずかしげに微笑み、やがて安心したようにすうすうと寝息をたて始めた。
未だ俺の正体を知らないとはいえ、赤い死神と呼ばれた俺の腕の中でこんなにも無防備になるコイツが心配になるが、それと同時に何だか嬉しくなって、よく眠れるようにとそっと額にキスを落とし、俺も眠りに落ちるのだった。