まぶしい ぽかん、という擬音がぴったりな真顔。そのままぱちぱちと切れ長の目を幾度も瞬いているかと思えば、ふいにその目尻が下がった。
「……ふ」
思わずといった様子で庵が声をもらす。そうなると、もう堪えることはできないらしい。ふふふ、はは、あははという声が、彼女の唇からこぼれ出てきた。口元を手のひらで押さえてはいるものの、なお声は五条の目の前で次から次へころころりと転がり落ちる。
ふにゃりと落ちた目尻。ふわふわ上気した頬には朱が差す。緩んだ唇は軽やかな声を上げ続ける。少し背を丸めて肩を揺らし、込み上げる感情を身の内に抑えきれずにいるのが見てとれた。
五条はこの表情の名前を知っている。庵が五条の同期の女生徒の前で頻繁に見せる表情だということも知っている。でも彼女が五条の前で見せる可能性は考えたことがなかった。
思わず、ずれてもいないサングラスに手をかける。
「なんだ」勢いで言うだけ言ってしまってから、続く言葉を必死に思考をめぐらして絞り出す。「ちゃんと笑えんじゃん」
「なによそれ」庵の表情筋がわずかに締まりを取り戻した。それでも常に比べればずいぶん綻んではいるのだが。
「歌姫っていつもこーんな顔ばっかしてるから」両の目尻を指で吊り上げてみせる。「笑うとか、できないと思ってた」
「アンタがくだらないことで絡んできてばかりいるからでしょう。私だって楽しければ笑うわよ」
「楽しいの、今」
とろりとほどけた名残のある目で五条を見上げながら庵は、そうね、と言った。
「五条の前でこんなに笑う日が来るなんて思ってなかったけど」
「俺だって、歌姫のそんな顔見る日が来るなんて思ってなかった」
「笑ってるとこなら硝子と話してるときとか、アンタだって見てるでしょうが」
「違う」反論は食い気味になった。「たぶんサンルームと直射日光くらい違う」
テキトー言いやがってと庵が五条の目の前で再び笑みをこぼす。五条の手はまたサングラスに伸びた。
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