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    はまおぎ

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    はまおぎ

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    晩酌とデザート 東京出張の前乗りを前にして、補助監督から庵に出張の詳細資料とともに渡されたのは京都から東京までの新幹線グリーン車の指定席乗車券だった。富士山を望む窓側の席。曰く、東京校の側が前もって手配してくれたという。
     高専で教師としての業務を済ませてからの長距離移動だ。高速バスなどに比べたら新幹線は自由席でも格段に快適ではあるものの、ゆったりできる席が確実に座れる形で用意されているというのは願ってもない環境だ。東京駅は終点であることだし、乗り込んでお弁当を食べたらちょっとくらい寝てしまってもいいだろう。どうせこの時間では外の景色も見えない。そもそも京都・東京間の景色は見飽きた感がある。
     車で駅まで送ってくれた補助監督に礼を告げ、売店で缶ビールとミックスナッツと駅弁を購入。そうして乗り込んだ新幹線の指定された席は隣の通路側席に勤め人風の女性が座っていたので、荷物棚にキャリーを収めてからひと言声をかけて奥に座らせてもらった。
     新幹線がスピードを落として名古屋の駅に滑り込むころ、庵は弁当を食べきった。隣に座っていた女性は立ち上がって降りる支度をしている。正直、隣には誰もいない方がこのあとの晩酌を心置きなく楽しめるので、ありがたい。
     女性が降りていくのを見送ってから、背面テーブルへいそいそとビールとミックスナッツを取り出す。たった一本だが大事な癒しの時間だ。うきうきとプルタブに指を添えたところで、ふと手元に落ちる影に気づいた。
    「おこんばんは、お隣さん。お互い出張お疲れサマンサ」
     通路から聞こえる聞き慣れた聞きたくない声に、思わず顔を反対側へぐるりと回す。そこにあるのはカーテンを下げ忘れた窓である。名古屋の街を背景に、気まずさを隠さない庵の顔と、サングラスをかけた長身の男の姿が映り込んでいた。
    「こ、こんばんは」
     なんとか五条に対する返事を喉から絞り出したところで、ふと庵の脳裏に閃いた記憶——東京校の側が前もって手配してくれた、京都から東京までの新幹線グリーン席乗車券。東京校っていうか、きっとこの男だ。気の利いたことをしてくれると思わず感謝さえささげた、あのときの温かい気持ちを返してほしかった。手の中のアルミ缶がペキッと音を立てる。
     荷物棚に紙袋をいくつか放り込んだ五条は、庵の隣の席に座り込んでさっそく背面テーブルを下ろした。紙箱を置いて、開ける。庵はそれを全部、窓に映る景色を通して把握した。
    「見てこれ、かわいいでしょ」
     見て、という割に何も庵に差し出してこない。五条の手元の箱をのぞけということだろう。
     新幹線が発車して動き出した景色から、視線を車内に戻した。ビールをテーブルに置いて右側へ目をやれば、鏡像でない五条の姿がそこにある。恵まれた体格ではグリーン車でもなんだか寸詰まりで、これが隣にいるのはシンプルに圧迫感がすごい、という感想を抱いてしまった。
     そろりと身を乗り出して、紙箱をのぞき込む。黄色いものが二匹。
    「ひよこ?」
    「ぴよりん。人気あるんだけど、プリンとババロアでできてるから、持ち帰るのめちゃくちゃ大変なことでも有名なんだよね」
     だから無事なうちにさっさと食べちゃおと言って、五条は庵にお手ふきとスプーンをワンセット差し出してくる。さらに箱から取り出したひよこを庵のテーブルに置いた。車体の揺れにともなってカタカタ震える黄色いかたまりが、つぶらなチョコの瞳で庵を見上げてくる。
     いや、これは、なかなかに。
    「罪悪感、すごくない?」
    「言うと思った〜。歌姫、こういうの食べるの苦手そうだなって」
     ケラケラ笑っている五条は、取り出したスプーンで自分の前にいるひよこをつんつんとつついている。
    「遠慮してちょっとずつ食べるか、ひと息にガバッと食べちゃうか。どっちがぴよりんのためなんだろうね」
    「ちょっと、そういうこと言わないでよ。ますます感情移入しそうになる」
    「歌姫がこのまま食べなくても、何かの拍子にころっといっちゃうかもよ。食べてやることでこそぴよりんは土産物としての本懐を遂げられるわけだし、ほら、食べてあげて」
    「アンタ、私が甘いものそんなに好きじゃないって知ってるわよね」
    「歌姫の反応、見てみたくなっちゃって。後輩からの差し入れだったら、さらに無下にできないでしょ」
     これはダメ押し、と言いながら五条はどこからともなくペットボトルを取り出して庵に手渡してきた。ホットのブラックコーヒーだ。
    「今夜は晩酌じゃなくて僕のデザートに付き合ってよ」
     隣り合う座席を予約して、出張帰りにお土産スイーツを確保して、崩れないように気をつけて歩いて、口直しのコーヒーまで用意して。ここまでされたら絆されてやるのが世の情けではないだろうか。
     庵は受け取ってしまったコーヒーのボトルをテーブルに置く代わりに、缶ビールとミックスナッツをビニール袋に戻す。そうこなくっちゃ、と言う五条に睨みを一つ投げてしまったのは、己のことながら往生際が悪いと庵は思った。

    (2112130026)
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