「歌姫先輩、なんか珍しい香りですね」
「やっぱ分かるかあ。なんかホテルのアメニティーのシャンプー、サービスでちょっと豪華なやつの試供品使えますよって案内されて使ってみたの。いい香りなんだけどね」
「これは……バラ、ですか」
「当たり。髪はさらっさらになったけど、これだけ香りが強いと買いはしないかなって。呪詛師相手にするとき、身を潜めたりしてもこの香りでバレそうじゃない? 変に強く印象づくのもあんまりよくないし」
「あー、ですね」
◇
「五条先生、今日、なんかすげえお高い匂いがする」
「オマエ……なんなんだその表現」
「でも言わんとすることは分かるわ。これ、バラの香りよね」
「野薔薇、正解! お付き合いの弾みでシャンプー使ってみただけだから、今日だけの限定フレグランス五条先生だよ」
「試供品もらったってこと? でもそれ、どう考えてもレディースラインの香りじゃない」
「女物でもおもしろそうだったら使うんじゃないか、この人」
「そっか、女子生徒のスカートはいた教師だもんな。女物のシャンプー使うくらい今更か」
「確かにバラの匂い背負ってる五条先生はちょっと笑えるよな」
「恵と野薔薇は僕をなんだと思ってんの。悠仁も笑うなよ、このルックスにピッタリの香りでしょーが」
◇
「家入さーん、消毒——って、歌姫先生だ。ちわっス」
「出張帰りですか、お疲れ様です」
「昨日、真希さん経由でおみやげもらいました。あれ食べてみたかったんですよー、ごちそうさまでっす!」
「それはよかった。また機会があれば何か買ってくるわ。あ、もう行かなきゃ。バタバタして悪いわね。硝子、仕事も大事だけど、ちゃんと自分も労ってよ」
「先輩もですよ」
「じゃ、アンタたちも、頑張んなさいね」
「道中お気をつけて」
「はー。京都で先生やってんのに、呪術師としての任務でちょくちょく東京まで引っ張り出されてんだもんね。忙しなくもなるわよ、そりゃ」
「……なあ、家入さん。五条先生ってここにいた?」
「いや、いなかったよ。探してるのか?」
「探してはないけど……(くんくん)」
「何してんのよ虎杖」
「犬か」
「いやーほら、バラの匂いしてんなーって」
「あ? ……ほんとだ」
「おい、これって」
「バラ? ああ、歌姫先輩のシャンプーだな」
「……歌姫先生のっスか」
「歌姫先生もですか」
「ほほーう?」
「なんか急にホクホクし出したな君たち」
(22.11.04 22:22)