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    はまおぎ

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    はまおぎ

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    五歌
    あけましておめでとうございます🎍

    似合いの おせちを作り置くのは正月三が日の手間を減らすためだという説があるらしい。その三日間をいつも通りに忙しなく過ごす予定の自分には、実は似合いの行事なのかもしれない。
     漆塗りの三段重を前にして、庵は思う。
     庵が身を投じている呪術師界隈において、正月はイコール休暇ではない。
     もちろん、そうあるべき者——少なくとも庵の感覚での話——はいる。学生たちは当然として、家族やパートナーのいる術師や関係者のことも、できる限り気遣いたい。
     そして伝統を背負い年中行事に重きを置く〝名家〟に連なる者たちの動向もまた、この業界では配慮される。
     名にし負う彼らは高専からの依頼によらずとも彼ら自身の組織で依頼や任務をさばいている。彼らが休むと決めたなら、休んでしまうことは容易かった。そして彼らは年末年始、休む。一族の集まり、儀式、はたまた気分、どんな都合があるかは庵のような民草の知るところではない。
     さてそのツケがどこになだれ込むかといえば、当然の帰結として答えは呪術高専。つまり、名家のみなさまが受けなかった分の仕事を下流で高専が受けているのだ。高専としても処理能力に限界がある以上、先送りできるものはするわけで、高専が実際に引き受けるのは自ずと危急の案件となる。
     なれば、それほど家格のしがらみがなく、独身で、任地へ単独派遣可能な準一級術師である庵の正月はどうなるか。
     答え。ただでさえ人手不足であるのに人員削減が重なった煽りを、一身にとはいわずともそれなりの分量で抱えることになる。
     忙しい時期に合間を縫って作り置きおかずを整えておくのは普段からこなす生活の知恵だ。正月に限ったことではない。
     けれど田作りの一匹もつままないことには、なんの感慨もないままに年を明かし初日の出を見逃し三が日を働き倒して、気づいたときには街中はバレンタインデーのハートが飛び交う景色への早替わりをこなしているのである。
     想像するだに虚しい。
     作り置きに便利なタッパーではなくとっておきの重箱を出して、レシピにある砂糖の分量を無視してまで自分好みな甘さ控えめおせちを作るのは、呪術界に身を捧げることを選択した庵と世間一般との命綱のようで、毎年なんだかんだで恒例行事になっている。作っている間は面倒だなと思わないでもないけれど。
     それでもなんとか台所フル稼働のターンは乗り越えたつもりだ。あとは手作りしないものを買い出しに行けば、おせちについては落ち着くことができる。
     買うべきものは昨晩書き出した。昆布巻き、数の子、紅白かまぼこ。それから一応、栗きんとんと伊達巻。

    「あっけおめー」
     軽やかというよりは軽々しい五条の声で、年が替わったことを知るのは何度目だろう。京都高専の車止め、夜闇に溶け込みそうな黒装束の男が、庵の降りた車のヘッドライトに照らされている。
     もう少し歩いて高専に詰めている面子に軽くあいさつをしたら本日の——てっぺんは過ぎたようだけれど——タスクは完了だと思っていた、あとひと息分の気合いは霧散した。
     はあ、と大きく吐いた息が白いモヤになる。気疲れが可視化されたようでさらに苦々しい。
    「歌姫、年始のあいさつくらい返せないと社会人失格だと思う」
    「アンタに常識説かれたくねーんだわ」
     舌打ちしかけてなんとか思いとどまる。
    「一年の計は元旦にありって聞いたことない? このままだと歌姫、今年一年しかめっ面で確定じゃん。ウケる」
    「アンタさえいなけりゃこんな顔しないで済むから、一年アンタが京都に来るのをご遠慮くだされば解決するんじゃないかしら」
    「え、やだ。というか無理でしょ、そもそもそっちが任務振ってくるんだから。歌姫が顔直して」
    「ものを頼む態度じゃないし、言い方も最低なんだよ!」
    「いつもの餅買ってきてあるよー、歌姫お気に入りののし餅だよー。顔と機嫌直してよー」
     一年にたった一度この時季にだけ用意されるものを〝いつもの〟と言われるほど、この男との年明けを経験しているのだと突きつけられると、どうにもむずがゆい。同時に、悩みに悩んで最後に買い出しリストに入れた栗きんとんと伊達巻が無駄にならないようでホッとしている。
     こちらの恒例行事に約束はなかった。毎年。
    「今年の僕は錦玉子の気分」
    「えっ去年は〝伊達巻派〜〟って言ってたじゃない、だからわざわざ買ったのに!」
     前言撤回、この男を相手にして分かった気になってはいけない。いつだってこちらの予想を一歩どころでなく先んじていく。気が休まらない。
     ただ、それはつまり、飽きが来ないということでもあった。五条と過ごす時間を退屈だと思ったことはないし、これからも思うことはないのだろう。
    「新年らしく心機一転ってね。仕方ないから栗きんとん多めで許してやるよ」
    「お客様根性もいい加減にしろや……」
     車を戻しにいく補助監督を見送って、庵は詰所へ向かって歩き出した。五条も特に何も言わずついてくる。時折さくさくと音が立つのは霜柱だ。
    「栗きんとん、去年と同じやつ一パックは買ってあるけど」
    「んーじゃあさつまいも買って帰ろう」
    「一パック丸ごとアンタの分でも足りないの? 私に今から作れって?」
    「裏漉しは僕がやるよ」
    「そういう問題じゃねーっつの。こんなときにお店開いてると思ってんの?」
     約束も前触れもなく、実家の都合もどう撒いてきたのだか忙しい季節に転がり込んでくる非常識な男。そんな男の存在を前提に準備をして受け入れ、彼がいることに慣れていく自分。
     これもまあ、それなりに似合いなのだろう。

    (23.01.01 00:03)
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