「次のレイシフトはさ、ちょっと長いから一緒に行こう」
長いレイシフトになるとオベロンは決まってこうしてヴォーティガーンを誘った。
連れて行ってもらえるのならそれを断る理由はない。ひとりで過ごすカルデアは退屈だから。
食料も必要ない。レイシフトに行こうと言っても身ひとつで支度は終わる。
マスターに続いてコフィンに乗り込んだ。
君たちは2人だからね、ひとつのコフィンだよ。とはじめてレイシフトした時に言われた。
オベロンと狭いコフィンの中で密着するのはまだ少し恥ずかしい。
オベロンは細い身体を目一杯抱きしめてくる。彼の暖かさといい匂いに縋るように俺もまた強く身体を抱きしめた。
オベロンとレイシフトしたからと言って、一緒に出撃できるわけではない。大抵は野営地で留守番だ。
他の同行サーヴァントたちがマスターのためにいろいろ準備をしている姿を木の上から眺める。
興味も義理もないからなにをするつもりもないけれど、邪魔をするつもりもないので木の上に逃げてきた。野営のテントができたらさっさとそこに移動するつもりだった。
「テメェはなにしにきてんだよ」
木の上で昼寝をしているヴォーティガーンに対してバーヴァンシーは割と大きな声で投げかけた。聞こえないフリをして無視をした。
「おい、クソ虫」
「……」
「妖精王のダッチワイフが」
それは小さな独り言だったと思う。だが耳に届いてしまったため、無意識のうちにダンゴムシを放り投げていた。
バーヴァンシーの悲鳴にヴォーティガーンは心がスッとした。が、バーヴァンシーに直接否定の言葉を投げかけなかったのがヴォーティガーンの不安を表していた。
彼は決してマスターとの同行を交代にしよう、とは言わなかった。長いレイシフトだからという説明しかしない。
そしてレイシフト先でなにを求められているのかといえば、魔力供給、つまり性行為だ。
オベロンは特異点でヴォーティガーンにそれしか求めずそれしかさせなかった。
それってつまり、バーヴァンシーの言葉が正しいということではないか。
いやまて、なにショックを受けている。当たり前だろ、恋人だとでも思っていたのか?オベロンが離れるの寂しいから、なんて理由で呼ばれているとでも思っていたのか?
いつもいつもオベロンが優しいから勘違いしたのは自分だろ。それをオベロンのせいだと言うのは馬鹿を通り越して愚かだ。身の程も忘れた自分のせいだろ。
ショックを受けるのは間違いだ。俺とオベロンは恋人でもなんでもないんだから。性処理の役目しか得られなくても、それで十分。いや、そんなものでも求められていることを喜ぶべきだろう。
オベロンが好きなら、それで十分なはずだ。
好きでいられることを許されているだけありがたく思わなければ。
夜になってオベロンがテントに戻ってくるのを待って、ヴォーティガーンは服を脱ぎ始めた。
全裸のまま座っていたヴォーティガーンの姿にオベロンは少し驚いていた。
「どうしたの?」
そんなことを言われると思っていなかったヴォーティガーンは、自分が服も着ずにオベロンを待っていたことが急に恥ずかしくなってきた。
そっと近くにあったタオルケットを手繰り寄せて、前を隠した。
「あ、いや。オベロン、ヤるかな、とおもって………」
汗が滲むほど恥ずかしくなって、後半はもう自分でもなにを言っているのかわからなかった。
服を着直すのも恥ずかしくて、黙ってそのままでいるとオベロンが羽織っていたマントをヴォーティガーンの肩に羽織らせた。
「君が積極的なのは嬉しいけど、ご飯くらい食べさせてほしいな」
「あ……うん。ドウゾ……」
これじゃ俺の方から誘ってるみたいじゃないか。オベロンの都合も考えないで、先走って空回ってみっともない。
余計なことなんてしなきゃよかった。
「ヴォーティはご飯食べに行かないの?」
「え?あ、いや、いいかな。何にもしてないし……」
食事は違うテントで用意されている。出撃から帰ってきたオベロンの分なら準備してくれているはずだ。
オベロンと違ってただここでゴロゴロなにもせずにしていた自分は魔力の消費どころか体力の消費もしていない。他の人に、とまでは言わないが調理を待つほど食べたいものでもない。
カルデアに来て食事という習慣が身についたがあまり好きになれない。
「じゃあ僕もいいや」
「は?いいよ、行けよ。オベロンの分くらい用意してくれているはずだし」
「君が食べないならいい」
「そんなこと言うなよ。腹減ってるんだろ?」
「じゃあ君も」
「いや俺は」
「だからいらない」
オベロンの考えていることが分からなくてヴォーティガーンははぁ、と呆れてしまう。
「食事なんて足りない魔力の補填でしかないし。君が素敵な格好で待ってくれてるならそっちでもいいかな」
「……へんたい」
「僕も男だからね」
ヴォーティガーンの身体を優しく寝かせると、オベロンは覆いかぶさってキスをした。
唇を舐めるとおどおどと薄く口を開けてくれる。
膝を立てて足を閉じるヴォーティガーンの細い太ももの隙間に手を差し込んでアナルの縁をゆびでなぞった。
ふにふにと柔らかい感触を愉しみながら、ゆっくりと指を挿しこんだ。
柔らかく暖かい肉を指先で拡げながら手首を動かして指先を奥へ進めた。
「どうしてこんな格好で待っていたの?」
アナルを解しながらオベロンは自分の服を脱ぎ始める。
「べつに……」
喜んでくれるかな、なんて考えていたなど口が裂けても言えない。
それしか求められていないのなら、そんなことでしか心を動かせる自信がなかった。
「僕のこと待っててくれたの?」
「……ん。………いや、そんなのどうでもいいだろ!」
ぺち、とオベロンの顔を押し退けてヴォーティガーンは叫んだ。
「君がどんな気持ちで待っていてくれたのか、考えただけでドキドキする」
「なに言ってんの…」
本当になんて人誑しなんだ。そんな言葉ひとつで喜んでしまう俺も恥ずかしいほど馬鹿だけど。
「疲れて帰ってきたら好きな子がこんな格好で待ってくれてるなんてさ、疲れてるのも忘れて構ってしまいたくなるものだよ」
「…好きな子って、お前……」
「そうだろ?マスターの国の言葉でなんかあったな。なんだっけ」
「そんなん今どうでもいいだろ」
オベロンのこういうところだけは少し直して欲しいと思う。どうしてマスターの話を今聞かなくてはいけないのだろうか。
それともわざとか?そりゃ甘い空気にする必要なんてないのだから彼が途中でどんな話を盛り込んだって構わないけど。
むぅ、と不機嫌になりつつあるヴォーティガーンに気づかずにオベロンはその日本の言葉とやらを思い出そうと唸っていた。
「あ、そう!スエゼン!」
「すえぜん……?」
全くピンと来なかった。
「用意されたものを食べないと男として恥ずかしいって意味!まさに今のこれさ!」
「なにそれ。俺が食い物ってこと?」
そんなつもりは全くなかったが声が低くなってしまった。
「べつに、いいけどさ。なんだって…」
ダッチワイフより食べ物の方がまだ良いかな。いや、変わんないか。オベロンの食事代わりになっているのは事実なんだし。
「モノの例えだよ、そんなに怒るなよ」
「怒ってないし」
「怒ってるじゃん。そんな反応も可愛いけどね?」
眉間に寄った皺をオベロンが人差し指で撫でる。
その仕草にヴォーティガーンはすっかり絆されて口では「やめろ」というが声から不機嫌さは消えてずいぶん柔らかくなってしまっていた。
ヴォーティガーンに自覚はないがオベロンはその声の変化に気付いていた。
「可愛いね」
「可愛くないって」
「嬉しい。連れてきてよかった」
「スエゼンとやらが食べられるから?」
「スエゼンを用意してくれたから」
「一緒だろ。なにが違うんだ」
「全然違うよ。でも、今はもうそんな話関係ないからおしまい、ね?君の期待に応えないと」
期待、と言われてドキッとした。
下半身が濡れてしまったのがバレないようにと願いながら、ヴォーティガーンはぎゅっと目を閉じた。