バースデーケーキを買って帰る話 澄んだ色の空には薄い雲が流れていた。時折吹く静かな風が、ぼうっと空を眺める乾の金糸を揺らした。
チリンチリン、とベルの音が鳴るのと同時に、乾の隣で木製の扉が開いた。店内から出てきた幼馴染は焼き菓子の甘い香りを纏っていた。
「お待たせイヌピー」
「ん」
九井の手には大きな紙袋があった。中身は予約していたバースデーケーキだ。今日は十月十八日で、乾の誕生日だった。
「今年のケーキってどんなの?」
「帰ってからのお楽しみだよ」
九井はベ、と舌を出して歩き始めた。追いかけて、ケーキを持つ手の反対側に並ぶ。見慣れた道の街路樹は、葉の色が変わり始めていた。酷暑と呼ばれた夏が終わり、束の間の秋が訪れていた。
建物の影に差し掛かったとき、ひゅうっと冷たい風が吹いた。街路樹から葉が舞い落ちる様子を目で追っていると、隣の九井がぶるりと身を震わせた。
4913