Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ヤガミ🎉

    @yagami_it

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji ☯ 💯 🍻 💕
    POIPOI 8

    ヤガミ🎉

    ☆quiet follow

    2023年4月1日開催のWEBオンリー「射抜いてオレの恋心」の共通お題「初夜後」で書かせていただきました!

     昨晩、オレたちはついに結ばれた。精神的な意味ではなくて、その、肉体的な意味で。気持ち良かったかどうかは、正直分からない。痛みとか、恐怖とか、異物感なんかをやり過ごすのにとにかく必死だったから。
     薄ぼんやりとした光が、割れた窓を塞いだ段ボールの隙間から差し込んでいた。眠りから覚めたオレが一番最初に思ったことは「ケツ痛ぇ」だった。痛いのもそうだし、なんかこう、肛門に力が入ってない気がする。本来なら排泄器官でしかないソコに、イヌピーのアレをぶち込んでセックスをしたのだから、多少のダメージが残るのは仕方がないことなのだけれど。
     軋む身体をソファーの上でぐっと伸ばす。身体に掛けていた毛布が滑って、すぐ近くの床で眠っていたイヌピーの上に落ちた。何かが触れたことに気付いたイヌピーは長いまつ毛をぴくりと震わせ、ひとつ大欠伸をしたあとに薄いマットから身体を起こした。

    「……おはよう、ココ」
    「おはよ、イヌピー」

     薄ぼんやりとした光と同じような、薄ぼんやりとした空気感。昨夜のことを思うとちょっと照れくさい、いつもとは違うおはようの雰囲気。
     イヌピーがのろのろとソファーに上がってきた。座る場所を空けてやるために上体を起こすと、ケツに鈍い痛みが走った。なんでもないようなふりをして、身体をずらしてソファーの右端に寄る。イヌピーは空いた左側に座り、目を瞑って気持ちよさそうに伸びをしていた。

    「あー、せっかく早起きしたし、朝マックでも行く?」

     薄ぼんやりとした雰囲気がむず痒くて、イヌピーが変なことを言う前にと食いつきが良さそうな話題で先手を打った。オレたち黒龍の活動は深夜にまで及ぶことが多いから、眠りに就くのだって随分と遅い。起きた頃には朝マックなんてとっくに終わっているのが常だった。

    「いいな、朝マック……朝しかやってねぇもんな……」

     イヌピーは寝ぼけ眼を擦りながら答えた。朝限定メニューの、あの甘じょっぱいマフィンがイヌピーのお気に入りだった。
     決まりだな、と言ってソファーから立ち上がる。すると、座っていたときには気にならなかった足腰の痛みが顕著に現れて、思わず足元がふらついてしまった。

    「……っと」
    「あぶね」

     咄嗟にイヌピーの腕が伸びてきて、オレの身体を支えてくれた。人を殴り飛ばすことも、オレを抱きかかえることもできる、鍛えられた逞しい腕。Tシャツの袖口から覗いたその素肌には、鬱血したような真新しい爪痕が残っていた。

    「大丈夫か?」
    「へーきへーき。ただの筋肉痛だよ」

     そう誤魔化すように笑って、今度はふらつかないように気を付けながら、ナナハンキラーを停めている裏口へと向かった。イヌピーもテーブルに放っていたバイクのキーに手を伸ばし、オレの後に続いた。
     ギィっと錆びついた音を立てながら、重い扉を押し開ける。ちょうど建物の影になっているせいで、踏み出した裏口にはひんやりと冷たい空気が満ちていた。後から出てきたイヌピーがアジトの扉を施錠をするのを待ち、ふたりでナナハンキラーの元に向かった。慣れた様子でシートに跨るイヌピー。オレもその後ろの特等席に座ろうと足を上げた、そのとき――

    「いっ……」

     思わず動きを止めてしまった。理由は言わずもがな。ただ歩くだけならともかく、足を上げるという動作は今のオレには少々ハード過ぎたらしい。オレの異変に気付いたイヌピーが、返ってため息をついた。

    「痛いくせに、痩せ我慢してんじゃねーよ」
    「……痩せ我慢とか、そんなんじゃねぇし」

     じっとりとした視線を向けられて、つい視線を逸らした。だって我慢とか、そんなんじゃないから。慣れないことをしたのだから当然痛みはあるけれど、それでもこの痛みは不快なものなんかじゃなくて、むしろ――

    「……嬉しいんだよ」

     聞こえなければいいのに、と思いながら呟いた。そんなオレの願いも虚しく、イヌピーはオレの小さな声を拾い上げる。

    「痛いのが、嬉しい?」

     イヌピーにしては珍しい声音だった。驚きとか、戸惑いとか……ありていに言えばドン引きしているように思う。誤解していそうな様子に、やっぱり言わなきゃよかったと数秒前の発言を後悔する。

    「バカ、痛いのが嬉しいわけねぇだろ。ヘンタイかよ」
    「はは。わかってるよ、そのくらい」

     イヌピーが笑いながらハンドルを放し、その手でごそごそとポケットの中を探った。そしてつい今しがた使ったばかりのアジトの扉の鍵を取り出し、ぽんと投げてオレに寄越した。

    「ココの分も買ってくるから、留守番しとけ」

     そう言うと、イヌピーはオレの返事も待たずにさっさとエンジンをかけて朝マックを買いに行ってしまった。肌寒い裏口に一人残されたオレは、釈然としない気持ちを抱えながらも仕方なくアジトの中に戻った。インフラの通っていない廃墟同然の室内は、外と大して変わらない気温だったということに今更になって気付いた。
     肌寒さを感じながら、ソファーに戻って毛布を拾い上げる。どうせ今はひとりなのだからと、オレのじゃなくてイヌピーの毛布を選んだ。ほんのりと体温が残るそれで首元までをすっぽりと覆い、ソファーに浅く腰掛ける。
     さっきのオレの失言を、イヌピーはどう受け取ったのだろう。マゾヒストなんていう誤解はしていないだろうけど、なんにせよ、随分と小っ恥ずかしいことを口走ってしまったものだ。そんなことを思いながらイヌピーの匂いに包まれていると、不意に今度は昨夜の行為の記憶が脳内を巡り始めた。
     ふたりとも初めてで、お互い興奮とか、不安とか、いろんな感情でいっぱいいっぱいだったけれど、とにかくイヌピーが優しくしようと努めていることは伝わってきた。我慢が苦手なイヌピーが、本当はもっと激しく動きたいはずのイヌピーが、受け入れる側のオレを気にして何度も声をかけてくれたのを覚えている。まぁ、最後には流石に我慢の限界が来たのか、随分と激しく揺さぶられて、息も絶え絶えになってしまったけれど。それでも、快感に堪えながらオレを見下ろすイヌピーと目が合ったとき、やっと繋がれたという満足感がじんわりと脳を満たして、言い表しようのない幸福感みたいなモノを感じた。あの感覚は中毒的だった。オレはとんでもない感覚を知ってしまったものだなと、毛布に顔を埋めて息をついた。
     イヌピーの香りに包まれて、イヌピーのことだけを考えているうちに、身体がじんわりと温まってきた。けれどこれでは物足りない。オレはもう、本物のイヌピーの体温を全身で知ってしまったのだから。
     毛布を身体に巻き付けるようにして、目を瞑って耳をすませた。そのうち外から聞こえてくるはずの、ナナハンキラーのエンジン音を聞き逃さないために。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖❤💖🍼💴💘💘💘💘💘💘💘💘❤💖💖💖💖❤❤❤💯😊💒💒💒☺💖💖👏☺💕❤❤❤❤❤❤❤❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works