綺羅びやかなライトアップは、夜街の客引きのためのいやらしさは無い。精緻なシャングリラ風の装飾によって、ゴージャスでありながら荘厳さも同居している。これは注文した者の宗教観とセンスが卓越しているのだな、とクルースニクは納得した。
あまり教育上よくない場所ならば、学校側としては生徒の立入を禁止せねばならないが、スタッフのレベルも高いし、安全上の配慮もなされている。これなら大丈夫そうだ。
下見に来た甲斐はあった。生徒たちが見れば、遊ばないの~? とからかわれそうなところだが、クルースニクという男はそういう性分なのだ。
「君、可愛いじゃん、おれと遊ばね?」
ただ、そこかしこでナンパが横行しているのは少しいただけないかな、と思った。
そういった雰囲気になるのは仕方ないとしても――さきほど初対面の高校生にナンパされたことを思い出し、思わず苦笑いがこぼれた。
「ん~、友達がいっしょなんだ」
「今はいねえじゃん。いいから来いよ、楽しいぜ」
「あっちょっと……」
そのナンパしてきた高校生が、今度はナンパされている場面に遭遇してしまった。断ろうとしているところを、強引に腕を掴まれている。はたとクルースニクと目が合う。夜学教師はためらうことなく動いた。
「おっと、そこまでだ」
「なんだ? アンタの連れか?」
「俺はこの子が通っている学園の教師でな、悪いが他を当たってくれ」
とっさについた嘘に、サモナーははたと目をしばたたかせるが、クルースニクがウインクして合図を出すと、すぐに先生、と呼んで合わせた。
「……はあ、そうかよ」
学園教師であることと、クルースニクの全身の傷跡を見て、相手は潔く諦めた。
いつもならここから二転三転したでっかいトラブルに発展していくのに、言葉のやりとりだけで終わらせた夜学教師に、サモナーはすごいすごい、と興奮しだした。
「あんなにあっさり追い返しちゃうなんて! かっこいい! ありがとうございます先生!」
「今のは相手も弁えていたからさ、怪我はしていないか」
「おかげさまで」
こうして話すと、無邪気ではあるがとてもいい子だとわかった。
「一人で来ているのか?」
「友達がここのスタッフなので、休憩時間までのんびりしてるんです」
そうか、とクルースニクは周囲を見渡す。なぜか、サモナーに対する視線が多いような気がする。それが軽い興味ならば良いのだが、どこか執着めいた、そう殺気に近いものすら感じた。
「他に友達は?」
「みんな各々でいろんな所に遊びに行ってます。他にもスタッフの友達がいるし、呼んだらすぐ来てくれるから大丈夫です」
だから気にしないで、とサモナーは言うが、それにしたってちょっと異常だ。サモナーと話しているクルースニクにも、その殺気めいた視線と気配は刺さる。
「ちょっと二人で歩かないか」
「デートですかっ!」
せめて神宿学園の教師たちの近くに誘導させようと、クルースニクが提案すると、サモナーは鼻息荒く快諾した。そういうところだぞ、と苦言を呈したくなる。
「はは、本当に問題児だな」
「よく言われます」
「そうやって他の先生方もからかっているのか?」
「からかってないです。クルースニク先生のことは本気でかっこいいって思ってます」
真っ向から褒められ慣れていないクルースニクは、少し照れくさくなった。
「俺のような、うだつの上がらん教師にそう言うのはお前ぐらいなものさ」
「うだ……うだつ? ええ……」
こんなにもバチバチにセクシーなのに何言ってんだこの教師……という怪訝な顔をしているサモナーを見て、言葉の意味がわからないのかな? とクルースニクは子どもが可愛らしく思えて微笑んだ。