はんぶんこ 花梨と喧嘩した。
理由は、些細なことの積み重ねで、これといった理由はない。ちょっと疲れが溜まってたとか、いつもなら気にならないことが気になったとか、そんな感じだ。
かっとなって出た言葉で、無闇に傷つけたりしないように──泣かせたりするのはごめんだ──頭を冷やそうと、ちょっと涼しくなった街に、ひとりで出る。なんか、変な感じだ。いつもは花梨といるから。
あてもなく街をぶらついて、夜も走ってようか、なんて思う。京にいた頃はそんなことできなかった。こっちの夜はやたらと明るい。だけど、24時間営業の店が無くなったら、とは考えられない。オレもすっかりこっちの人間だな、と思う。
そんなことを考えながら、目についたコンビニに入る。別に欲しいものがあるわけでもないし、なにか買うならスーパーのほうが安い。そんなことも覚えたが、オレは結構コンビニが好きだ。初めてアイスを食べたのが、コンビニの前だったからだ。
──あの日は、暑い日だった。花梨はふたつに分かれるアイスを買って、オレに片方くれた。瓢箪みたいな形の冷たいやつの、よくわからないまま封を切り、思いきって口にする。途端に冷たいコーヒー牛乳味が口いっぱいに広がって、一瞬で溶けていく。
「うわ、なんだこれ! つめてぇ!」
「ふふ、アイスだよ。お菓子……かな?」
「こんな甘くてうまいもんが、こんびにには売ってんのか。みんなにも食わせてやりてぇな」
食ったことねぇけど、このアイスは貴族が食う削り氷よりもうまいだろう。こんな甘露を一口でも食えたら、京で熱病にかかってもたちまち治っちまいそうだ。興奮ぎみに話してたら手の熱でアイスは溶けちまって、手がべたべたになった。花梨は笑っていた。
──笑ってる、花梨が見てぇな。
結局そのコンビニではなにも買わずに、オレはまっすぐ花梨のいるところに向かった。家に近くなったらアイスを買って、あの日みたいにはんぶんこして食べよう。
甘いアイスを食べたらきっと、素直にごめんって言えるだろう。