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    ナツメ

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    遙か2
    本編中、彰紋と恋愛したけどノーマルEDを選んだふたりが現代で出会うパロディ

    星のようなひと 星のような人だった。
    花梨はそう思う。綺麗だが、月や太陽と一緒に空に浮かんでいるので、欲しいと思うようなものでも、またはじめから手に入れようとするものではないもの。
    彼とは両想いだった──? 本当は、どうだったのだろう。自分が、そう思いたいだけかも知れない。
    ひとりでこの世界に帰ってきて、随分と経った。季節はめぐり、学校の外の紅葉は色を変え、秋で止まってしまったあの世界を思い出すように燃えている。
    「……高倉さん、聞いてますか?」
    「あ、はい」
    「じゃあ、その歌の意味は?」
    物思いに耽る、といえば聞こえはいいが、実際はぼんやりとあの世界のことを思い出しているだけだ。だが、時々、あちらの世界が顔をだす。たとえばいま、ぼうっと窓の外を見ていたら、あてられた古典の授業でも。
    「……桜はやがて散る。その美しさを知らなければ、散ることに心を痛めることはない、です」
    訳を当てられたのは、彰紋の好きだと言っていた歌だ。必死で覚えて、伊勢物語も、紫姫に教えてもらいながら読んだ。そんなに前のことではないのに、とても昔のことのような気がする。
    「……あら、情熱的な訳ね。素敵だけど、テストに出すのは“この世に桜が全くなければ、春が来ても心穏やかでいられるのに”くらいです。そのあとは高倉さんの言った訳ね。高倉さん、ありがとう」
    古典の教師は、思いがけない花梨の答えに気をよくしたらしい。花梨はまた、窓の外を眺める。まだ明るいうちに、星を探すような気持ちで。

    「花梨! 古典、いつから得意になったの?」
    「え? あ、ああ……えーっと、ほら、ドラマであったじゃない。夏休み中にはまっちゃって、見てたの」
    「あ、あれ? 前世で恋人になれなかったふたりが、現世で結ばれるやつ」
    「確か……そんなのだった……かな?」
    帰り際、同じクラスの友だちと、別のクラスの友だちに捕まった。そのドラマにはまっていたのは花梨の家族で、花梨は熱心に見ていたわけではない。なんなら、花梨が、ドラマのような体験をした。結末は違ったからこそ、花梨は、あの世界のひとたちの幸せを願うのかもしれない、と思う。
    「ねぇ花梨お願い、たぶん明日私当たるから、教えてほしいの!」
    別のクラスの友だちが言う。いいよ、と答えると、じゃあ駅前のバーガーショップに行こうよ、と同じクラスの友だちが言った。
    「なんかね、そこ、王子が来るんだって!」
    「王子……?」
    「そう、駅の反対側の男子校に通ってる、とある財閥の御曹司って噂のイケメン」
    駅の反対側の男子校といえば、進学校だ。そんなところに通うひとが、バーガーショップになんか来るのだろうか、と花梨はなんとなく考えながら、かしましく話す友だちの話を聞く。そうこうしているうちに、バーガーショップに着いた。二階の奥の席を確保し、シェイクやポテトを買って戻る。
    「……で、この歌の意味がこれ」
    「世の中に……たえて……桜の……」
    今日、花梨のクラスであった板書を、隣のクラスの友だちが必死に写していると、やたらとキョロキョロしていた同じクラスの友だちが「来た!」と小声で言う。
    「なにが?」
    「噂の王子様が通う学校の集団! 王子、いるかな?」
    なるほど、落ち着かないのはそれか、と花梨は笑う。見たらわかる王子だなんて、頭に王冠でも載せているのだろうか。
    「花梨、続き、わかんないよ~」
    「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」
    授業中は平気だったのに、胸が痛くなる。──彼に出会わなければ、この痛みは知らなかっただろう。それでも、出会わなければよかったとは、思いたくなかった。この歌を詠んだひとも、好んだひとも、きっとこの痛みを知っていただろうから、同じ気持ちになれただけで、その気持ちを知っているとわかっただけで、孤独ではなくて──
    「──散ればこそいとど桜はめでたけれ憂き世になにか久しかるべき」
    花梨とふたりの友だちは、同時に顔を上げた。返歌だ、と花梨は言い、友だちは王子だ、と言う。
    「お久しぶりです、僕の天女。お待たせしてすみません」
    そこにいたのは確かに彰紋だった。花梨が探していた星のような存在の。
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