Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    MtPain

    @MtPain

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🐊 🍵
    POIPOI 42

    MtPain

    ☆quiet follow

    赤ずきんパロ
    何でも許せる方向け。
    続きがR18です

    ##オベぐだ子

    赤ずきんパロ1 可愛い可愛い暁の君。森には恐ろしい狼がいるから、決して道を外れてはいけないよ。優しく声をかけられても、付いていってはいけないよ。襲われて食べられてしまうからね。
     赤い頭巾は僕からの贈り物。銀色のブレスレットは彼からの贈り物。決して無くさないように。


    【誠の恋をするものは、みな一目で恋をする】


    「まーるいくっきー! あったかガレット! 今日のオヤツは何だろなー」

     木漏れ日の差す林道を、赤い頭巾を被った少女が軽やかな足取りで進む。思いつく限りの言葉を歌に乗せてリズム良くステップを踏む少女は、葉っぱの隙間から落ちる陽光によって優しく照らし出されていた。
     たんたかたっ。たんたったっ。
     周囲には色とりどりの蝶が舞い、頭上では小鳥が囀り、森そのものが少女のバックダンサーに徹しているかのようだった。鱗粉を纏って煌めく少女の姿を見ている者がいれば、まさにミュージカルの主役に違いないと褒め称えたかもしれない。やがてくるりと回ってポーズを決めたところで独りぼっちの公演は幕を下ろした。

    「ふー。踊ったら疲れた。ちょっと休憩」

     少女は汗の滴る額を拭って、林道の小脇の切り株に腰を下ろした。続いて小脇に抱えていた網籠から瓢箪型の皮筒を取り出して紐を緩める。中に入っているのは今朝井戸から汲んできた湧水だ。皮筒を傾けて口を付けると、適温になった水分が胃に流れ込み、火照った身体が冷えるのを感じた。
     まだ目的地への折り返し地点にさえ辿り着いていない。はしゃぎ過ぎたと反省しながら、少女は体力の回復を待つのだった。

     さて齢十五となる少女リツカが一人で森に侵入したのは、隣町の外れに住む友人の家を訪ねての事。本来であれば人通りの多い街道を通って迂回するべきであるのだが、はやる思いから近道しようと思い立った。
     ウェールズの森には迷い込んだ獲物をペロリと平らげる狼が住んでいると古くから噂されている。そうでなくても深い森で道に迷ったら生きて出られる保証はなく、とにかく危険な場所との認識が一般的だ。
     しかし少女には猟師の友人と一緒に何度も安全に通り過ぎた経験があり、比較的安全な林道を覚えている故に危険性を甘く見積もってしまっていた。要するに慣れである。


    『慢心は人間の最大の敵だ。そう思うだろ?』


     ふと誰かが草木を踏みしめる足音が聞こえた。木の枝に留まっていた小鳥達が飛び去り、パラパラと木の葉が舞い落ちる。
     はっとして音の出先へ目を向けると、水色の外套を羽織った美男子が森の奥へと続く獣道から顔を覗かせたところであった。

    「やあ可憐なお嬢さん。森の中を一人で歩くのは危ないよ」
     
     ニッコリと微笑んだ青年は切り株へ座るリツカの元へと歩み寄る。桃色を帯びた銀色の頭髪、深い湖のようなサファイアの瞳、スラリと長い手足。リツカの前で片膝をついて目線を合わせる姿は、まるで絵本の世界から出てきた王子様のようである。

    「君に逢えたのも何かの縁だ。愛らしいお嬢さんが深い森で迷子になってしまうのは忍びない。僕に安全な場所まで見送りさせておくれ。この辺りは怖い狼が出るって噂だからね」

     綺麗な人。全身から湧き上がる爽やかなオーラに、少女は口を半開きにしたまま呆気に取られていた。

    「どうしたんだい? 気分が優れないのかい?」

    「い、いや、何でもないです! 私なんかで良ければ是非お願いします」

     青年は慌てて取り繕うリツカの手を取ると、「宜しく頼むよ」と言って甲に優しく口付けた。初めての経験にみるみる耳を赤くするリツカは、目の前の青年の口元が微笑ましさからか緩んでいる事に気が付いていない。

    「僕の名はオベロン。気軽に呼んでほしい」

    「私は立香。宜しくね」

    「立香ね。素敵な名前だ」

     オベロンはは立香の手を引いて立ち上がると、歌劇のように仰々しく腕を広げて吟ずる。

    「さぁ、君の求めんとする旅路の果てを教えておくれ。花と歌を愛する街ソールズベリー、食と舞踏と紳士の京オックスフォード、それとも若者達の憧れの都グロスターかな?」

    「ううん、どれでもないの。私が向かうのは潮騒の笑う岬の家だよ。友達の所に遊びに行くんだ」

    「ほーう。確か変わり者だけど凄腕の猟師が住んでいるらしいね。勿論知っているとも」

    「へぇ! 有名人だったんだ。凄いなぁ」

     友人の武勇を誇るように目を輝かせる少女。その純朴な姿に青年は思わず目元を緩ませる。

    「僕は君より長く生きているからね。この辺りの地理にも噂話にも長けているのさ」





     たわいもない話で盛り上がる赤頭巾と青王子の珍道中は続いた。木の枝から落ちてきた蛇がオベロンの腰に巻き付いたり、藪から出てきた兎の群れがオベロンの足にぶつかったり。(主にオベロンに)幾度のトラブルが降りかかりながらも、着々と歩みを進めて目的地までもう少し。
     峠を降れば目的地という辺りで、ふと思い出したようにオベロンが話を切り出した。

    「そうだ。ここから渓流に向かう所に花畑があるんだ。君は運が良い。ちょうど満開になっている時期からお土産に摘んでいかないかい?」

    「んー、予定より時間がかかってるし、道を逸れちゃうのは怖いかな・・・・・・」

    「心配しなくても大丈夫。獣が来ないように僕が見張っているから心配ないとも。時間については、うん、ごめん。すぐに戻れば大丈夫さ」

     君の友人もきっと喜ぶよと、青年は甘い言葉を投げかけて背中をそっと後押しする。一方の少女は誘惑と警戒の狭間で揺れる心を必死に抗っていた。なぜなら頭巾を贈ってくれた恩人と「道を外れない」という約束を交わしていたから。

    「ごめん」

    「桃源郷みたいに美しい景観だから君にも紹介したかったのだけどね。・・・・・・仕方がない」

     非常に残念だとオベロンは肩を落とす。そのままどんよりと影を落とした表情でトボトボと先を急ぎ出す。一転、哀愁に満ちた背中はどこまでも痛々しさを醸し出していた。

    「付いてきなよ。岬の家はこっちの道」

     ぶっきらぼうさを感じる物言いに相当な悲しみを感じる。己の何気ない一言で酷く傷付いてしまった彼に心を痛めた立香は、今回は例外だからと言い訳を立てることにした。

    「や、やっぱり案内して貰おうかな。少しだけだからね!」 

     すると向日葵の花が咲いたようにオベロンの顔が綻んだ。

    「──優しい子だね。ありがとう。あ、その先の道を左だよ」

     指差した道を我先にと進む少女の後ろ姿に、青年は舌舐めずりをする。獲物が蜘蛛の巣に掛かるまで後僅か。


    『お人好しも度が過ぎると浅短でしかない。愛は万人に、信頼は少数にって言葉を教えてあげたいくらいだよ』
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator