◯◯◯◯◯◯セレモニー(黒オベver) オベロンはある日突然距離を取るようになった。気難しい妖精王様だから、癪に触る事があったのかもしれない。
ベッドの片隅には、別の居室から持ち出された枕が一つ。小言を吐きながら壁側半分を占領する持ち主がいないだけで、どうにも部屋が広く感じられてしまう。
心当たりならあった。部屋の模様替えをしたのだ。
時にサーヴァントから贈り物を受け取る事もある。顕著なイベントはバレンタインで、チョコのお返しは多種多様と言えよう。手の込んだお菓子から、受け取りを躊躇するような聖遺物まで、一個人として管理して問題ないのだろうか。
その恐れ多い品々はここ数年で随分と増えた。備え付けの棚に収まらなくなってきたので、定期的なルーチンとして入れ替えを行っている程だ。飾っていた物は丁寧に掃除して収納へ、そして新しく取り出した物を空いた所に並べていく。
一つ一つ、手に取っては思い出を振り返る。この穏やかで落ち着いた時間が、記憶の海に揺蕩うようで好きだった。
その作業を眺めていたオベロンは手伝う素振りも見せなかった。
やい、ボトルに閉じ込められた船を眺めて満足か?
やい、木馬の腑を抉って楽しいの?
やい、枕の下に絵を敷いたくらいで悪夢が遠ざかるとでも?
遠目から細かい部分までよく観察していらっしゃる。彼は重箱の隅をつつくような難癖を垂れ流しながら、ベッドの上で菓子を摘んでいたが、挙句の果てには「気色悪い」と吐き捨てて部屋から出て行った。
彼が去った後には、いつも菓子の袋が残されている。呆れながら袋を捨てようとして、中身がまだ入っている事に気が付いた。
はぁ、と溜息を吐く。食べカスの掃除をする身にもなってほしい。袋の中に残されたチップスを口に詰め込み、袋を丸めてゴミ箱に捨てた。捻れた銀紙がゴミ箱の中でクシャリと鳴いた。