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    sakatori

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    sakatori

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    WT 神外
    事後。部屋を訪れた外岡が帰ろうとするのを引き留める神田。
    (2021年4月25日)

    ##WT
    ##神外

    写真木目調のシェルフ、その一番上の棚板に伏せられた写真立てを手に取る。
     写っているのは三人だった。やわらかく微笑む夫婦らしき男女の間にサイズの合わない制服を着た少年が立っており、彼もまた穏やかな顔立ちで視線をこちらに向けている。幸せだったであろう家族の一葉。
     この写真を見ると、恋人のような関係を結んでいる神田よりも、その父親に視線が引き寄せられる。恵まれた体躯に落ち着きのある風貌は神田の生き写しだ。いや、当時は神田こそが父親の生き写しだったのだろうが。
     母親は長身ではないが柔和そうな顔立ちだった。何度も話したが穏やかな人だった。神田本人もまた然り。二人は見た目どおりの性格だったから父親もまたそうなのだろう。神田から聞く話によれば外岡の想像はあながち間違いではない。
     だから胸が痛くなる。
     外岡は写真立てのスタンドを起こして元の位置に戻した。
     神田の部屋を訪れたときに写真を伏せて、帰るときに立てる。それは外岡にとって一種の儀式のようになっていた。
     まだ乱れている呼吸を整えるために、瞼を閉じて深呼吸を繰り返す。
     背後から聞き慣れた足音が届いた。視界を遮っているせいで彼の呼吸音や衣擦れなどがいつもより鮮明に聞こえる。
     やがて背中に重みを伴った人肌が触れた。外岡の肩の上を太い腕が通って写真立てを取った。
     耳元に熱のこもった吐息がかかって、外岡はぶるりと肩を震わせた。静まりかけた鼓動が再び早くなる。
    「印刷しただけの紙がそんなに気になるのか?」
    「気になるっつーか気まずいっつーか……。やってるとこをご両親に見られてる感じがして居心地悪いでしょ」
    「おれはそんなことないけどな」
    「そりゃ神田さんにとっちゃ家族だから。いや、家族だからこそより気まずいってこともあるだろうけど、」
     言い終えるに背後の巨躯が動いた。写真立てを元に戻した神田の手が外岡の胴体を抱く。
     彼は湿った白金の髪に鼻をうずめて、犬のように匂いをかいだ。シャツと下着を身につけているだけの外岡の身体に大きな掌が這い回る。耳輪を舐められ、耳朶に歯を立てられるとぞくりと背中に粟立った。消し炭から火種を拾おうとするような動作には覚えがある。彼が何を考えているのかも薄布一枚から伝わってくる。
    「お前が棚に立つのを見るといつも寂しくなるんだよ。もう帰っちゃうんだな……って。なあ、もう写真倒すのやめてくれよ」
     写真立ての儀式は神田も知っている。それをやめろというのはどういう意味か外岡も分かっていた。
     外岡は神田の腕の中で身体を反転させた。焚きつけられた欲望の炎を鎮めるよう、なるべく声を抑えて言葉を紡ぐ。
    「いや、ちゃんと基地に帰ります。メリハリは大事って神田さんだって言ってるじゃないスか」
     外岡が見上げる先にある、男らしい精悍な面差し。その太い眉の根元が寄って間に皺ができている。
    「今日は泊まっていけ。母さんは夜勤だし二人っきりだ、気ぃ遣わなくていい」
     先ほどよりほんの少し強い口調で、主張もより明確になった。しかし外岡は応えるつもりはない。
     神田の腕を振りほどいてベッドへと向かう。その周辺に落ちていた服を拾い上げようとした、その刹那。
    「……今日は泊まっていくよな」
     有無を言わせない強い声だった。手首をきつく握られた外岡の口が歪み、喘ぎ声が漏れた。
     腕を引っ張られた外岡は再び神田の腕に抱かれた。正面から抱擁するような姿勢になった。
    「神田さん、おれもう限界なんで。これ以上やったら風呂入る体力残らない……」
     神田の肩に顎を乗せた外岡が弱々しく零す。我ながら白々しいと思う。数えきれないほど身体を重ねて互いの体力は把握しているのだから。神田に劣るとはいえ一度の交わりで根を上げるほどではない。
     神田の胴体が小さく振動した。耳元からくつくつと押し殺した笑い声も聞こえる。
    「なら一緒に入ってやる。」
     額に口づけられた。神田の大きな口が外岡の目元や鼻に降りて唇に辿り着いた。顎をつままれて上を向かされる。
     拒もうとして手を持ち上げると神田の指に絡め取られて手の甲に口づけられた。まるで童話のお姫様にでもなったような扱いだった。
    「そんなに気になるなら写真は別の部屋に移すよ」
     互いの吐息がかかる距離で視線を交える。神田が冗談でそんなことを言っているのではないということはその眼差しから伝わってきた。
    (違うんです神田さん)
     卑下するつもりはないが自分は神田に釣り合わない。数合わせとか暇潰しとかその場限りとか、それが自分に合う役割なのだ。広く浅い交友、べつにそれが悪いものと思わない。
     神田が外岡を特別扱いしているのではなく、誰にでも真面目に接する人間だというのは、あの写真を見るだけで嫌というほど分かる。でも誠実に接せられても応えかたが分からない。
     神田に似合うのはあの写真の中にいるような人たちなのに何故自分を選んだのか。
     答えがでない考えは無意味だと判断した外岡は思考を放棄した。
     一度大きく息を吐いて気持ちを切り替える。今までどおり求められれば応じる、それでいいではないか。
    「いや、いいっス。神田さんの大事なもんを今まであんな扱いしてすんませんでした」
     宥めるように神田の背中をぽんぽんと叩くと、ぎゅうと抱きしめられた。まるで大型犬のようだ。
     神田の肩の向こうの写真の男性と目が合ったが、外岡はすぐに視線を逸らしてしまった。
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