無題(2022年3月27日) ペットボトルを渡すと、外岡は緩慢な動きでそれを受け取った。コップがないので直接飲み口に唇を寄せる。
傾いたペットボトルの中の水が部屋の照明を受けてきらりと光った。薄い唇に水が吸い込まれていき、喉の突起が白い皮膚を何度も突き上げる。ただ水を飲むだけの音もしんと静まりかえった部屋の中ではやけに大きく聞こえる。
外岡の裸の胸に触ると、汗が引いて冷たくなっていた。彼は身をよじって神田を手で制した。
「くすぐったいです」
そう言ってヘッドボードにペットボトルを置いた。上肢に筋が浮き、脇腹の骨が呼吸に合わせて動く。ただ身体をひねって物を置くだけという動作にもこんなにパーツが必要なのだと感心する。衣服を身につけていない状態だと筋肉や骨の動きがよく見えると知ったのは外岡と関係を持ってからだ。
遠目に見た外岡の身体は年相応だったが、服を脱がせると未発達さが目についた。生白い肌の下にある肉は薄く骨格も頼りない。初めて抱いたときの角ばった感触は今も覚えている。本来庇護されるべき弱々しい肉体を己のものにしてしまった罪悪感のような感情も。
痩せているせいで身長に対して長く見える手が神田に伸びた。両頬を掌に包まれて口づけられる。
体温が低そうな見た目に反して熱い舌が唇を割って入ってくる。神田も口を開いて彼を口内へと迎え入れてやる。力を抜いた舌同士を触れ合わせると、一度は解放したはずの欲が反応する。燠火に息を吹きかけられるような独特の感覚は嫌いではない。
外岡の背中に腕を回す。出っ張った肩甲骨をなぞると、くっくと笑う気配がした。抵抗されなかったのでそのまま下へと手を下ろす。
見慣れた下着だった。ぴったりと臀部を覆う灰色の生地に黒いウエストライン。布の上から尻たぶを鷲掴みすると、外岡は口づけを解いた。
「一回じゃ満足できなかったっスか?」
「終わったと思っても、こう……触れ合ってるうちにまた抱きたくなる」
「そんな、セックス覚えたての子みたいに」
唇の先でのやりとり。外岡の肩を軽く押すと、神田の意を汲んでかそのままベッドに身体を横たえた。外岡の顔の横に手をついて神田が覆いかぶさる。
日に焼けていない首筋に唇を寄せる。肌理の細かい皮膚に食らいつくかわりに舐めて吸った。すぐに鬱血が確認できた。
「ちょっと! 目立つとこはやめてって言ってんのに」
「おまえの身体、どこもかしこも白いから痕つけたくなる」
「神田さん意外と子供っぽいとこありますね」
「おまえが甘やかしてくれるからな。図体が育っただけでまだまだ子供だよ」
「ありゃ、おれのせい?」
組み敷いた身体を見下ろすと、外岡の瞳の中に自分の影が映っていた。黒い人型が見えるだけでとても表情は窺えない。
外岡の両腕が神田を抱いた。宥めるように背中を撫でられ、下半身がじわりと熱くなった。
<ここまで>