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    松島 月彦

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    松島 月彦

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    【合作】バウムクーヘン【フリードとヒルダ】
    古林さんとロジウムさんに「合作しませんか?」とお声を掛けていだいて書いた小説の再掲です。後日この小説をお二方がそれぞれ漫画化してくださったのですよ……良いでしょう……ふふん。

    ◇ ◇ ◇

     滅多なことでは沈まない代わりに、一度沈んだが最後、浮上するのは難しい。
     だいたい自力では立て直せないことがほとんどで、今も昔も、私自身この性格があまり好きではない。
    「どこもおかしくないか? ピョン★」
    「フフフッ、バッチリきまってるよ」
     アイロンのきいたスーツを着込んだフリードさんは、今日は誰かの結婚式に呼ばれている。互いに騎士をつとめていれば共通の友人や仕事仲間も多いけれど、それでもそれぞれしか知らない友人もいて、今日はフリードさんだけがお呼ばれしたのだ。
    「飲みすぎないでね」
    「分ってるピョン★」
    「新婦さんの友達ばっかり見てたら駄目だよ?」
    「うーん、善処はするピョン★」
     ピカピカに磨かれたフォーマルシューズを履いたフリードさんが出ていくのを、宿舎の玄関で見送った。
     扉の向こうに見えた空はカラリと晴れていて、きっと素敵な結婚式になるだろうな、と思った。領地の端っこまで出張していっているエルドゥールさんたちも、そろそろ馬車が目的地まで着いただろう。
     今日は宿舎に非番の私一人っきりだ。
    「休日返上なんだけどね」
     騎士とはいえ実戦ばかりが仕事ではない。デスクワークを持ち帰ってくることもある。とはいえ今回の仕事は、部下に管理を任せきれなかった私の自業自得だ。
     自室にこもり、巻いてあった羊皮紙を広げてペンを走らせる。
     ──信用してない訳じゃない、けど。
     けど、じゃあ何なの? と言われたら、続く言葉に困ってしまうのが本音だった。
     誰かに任せるより、自分でやった方が確実で早いと思ってしまうから。
    「リーダーには向かないな、私」
     滲んだインクをブロッターに吸わせながら、思わず溜息を吐いた。
     たまたま小耳に挟んでしまった、「自分たちは信用されてない」という部下の愚痴が、おもりになって私をズルズルと深海に沈めていく。
     フリードさんはよく「ちゃんと仕事して」なんてからかわれているけれど、本来ならあれが正解なんだろう。何でも自分でやらずに人へ仕事を振れるのは、適所が分っている証拠。
     ──ちゃんと人を信頼して任せているんだ。
     私には到底できないことを、彼は誰にも気づかれないほど自然にやってのけてしまう。
    「アハハ……真似できないよ……」
     だけど無い物ねだりばかり呟いても仕方がない。私は姿勢を正して再び書類に向き直った。
     考えても、羨んでも、私は私以外になれやしないのだ。
     周りの音も聞こえないくらい集中して、一心不乱にペンを走らせる。見直し込みで必要な作業が終わって、書類の山が一つ片付いたところで、少し休憩しようと食堂に移動した。
     温かい飲物を淹れて椅子に着くと、どっと疲れが押し寄せくる。ああ、まだ飲んでいないのに。
     自室に戻った方がいいのはわかっているけれどそんな気力も残っていなくて、そのまま重い瞼を閉じる。外は相変わらず良い天気で、それが余計に私の眠気を誘った。

    ◇ ◇ ◇

    「──ヒールーダー、ピョン★」
     耳慣れた語尾につられて目を開くと、朝の姿そのままのフリードさんがいた。
    「あれ、結婚式は……?」
    「何時間前の話だい? もうこの時間さピョン★」
     ふと見れば、窓の外には沈みかけの三日月が光っている。
    「お腹空いてるんじゃないか? ヒルダも食べたらいいピョン★」
     そう言ってフリードさんは、お皿に載せたバウムクーヘンを差し出した。どうやら結婚式の引き出物のようだ。
    「縁起物なんだってさピョン★」
    「そうなの? あ、美味しい」
    「ほら、バウムクーヘンって焼き目が木の年輪みたいだろう? 長い年月をかけて年輪ができていく様を長い年月をかけて家庭を築く二人に重ねてナンとかカンとか……みたいな? ピョン★」
    「へえ……」
     口の中で、バターとお砂糖の甘さが溶けていく。
    「まぁ、ボクは夫婦に限った話ではないと思うピョン★」
    「……」
    「恋人や友人でもいいし、同僚や部下でもいい。互いに信頼するのに年月がかかることは、世の中ごまんとあるピョン★」
    「……ハハ……フリードさんってエスパー?」
    「実はそうなんだ……と言いたいところだけど、ピョン★」
     フリードさんがちょいちょいと指差した先は私の右手だった。いつものグローブは外していて、代わりに紺色のインク擦れで汚れている。
     エスパーではなく、名探偵だったらしい。
    「やり方なんて少しずつ変えていけばいいさピョン★」
    「うん」
     頷きながら、私はバウムクーヘンにフォークを入れる。
     やっぱり彼には敵いそうもなくて。
     でも決してそれが嫌でなくて。
     彼と私の間には、一体どれくらいの年輪が作られているのだろう、なんて考えながら。

                    ___fin.
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    松島 月彦

    MOURNING【合作】バウムクーヘン【フリードとヒルダ】
    古林さんとロジウムさんに「合作しませんか?」とお声を掛けていだいて書いた小説の再掲です。後日この小説をお二方がそれぞれ漫画化してくださったのですよ……良いでしょう……ふふん。
    ◇ ◇ ◇

     滅多なことでは沈まない代わりに、一度沈んだが最後、浮上するのは難しい。
     だいたい自力では立て直せないことがほとんどで、今も昔も、私自身この性格があまり好きではない。
    「どこもおかしくないか? ピョン★」
    「フフフッ、バッチリきまってるよ」
     アイロンのきいたスーツを着込んだフリードさんは、今日は誰かの結婚式に呼ばれている。互いに騎士をつとめていれば共通の友人や仕事仲間も多いけれど、それでもそれぞれしか知らない友人もいて、今日はフリードさんだけがお呼ばれしたのだ。
    「飲みすぎないでね」
    「分ってるピョン★」
    「新婦さんの友達ばっかり見てたら駄目だよ?」
    「うーん、善処はするピョン★」
     ピカピカに磨かれたフォーマルシューズを履いたフリードさんが出ていくのを、宿舎の玄関で見送った。
     扉の向こうに見えた空はカラリと晴れていて、きっと素敵な結婚式になるだろうな、と思った。領地の端っこまで出張していっているエルドゥールさんたちも、そろそろ馬車が目的地まで着いただろう。
     今日は宿舎に非番の私一人っきりだ。
    「休日返上なんだけどね」
     騎士とはいえ実戦ばかりが仕事ではない。デス 1962