Recent Search

    松島 月彦

    なんかやべぇ奴

    ☆quiet follow Send AirSkeb request
    POIPOI 11

    松島 月彦

    MOURNING【合作】バウムクーヘン【フリードとヒルダ】
    古林さんとロジウムさんに「合作しませんか?」とお声を掛けていだいて書いた小説の再掲です。後日この小説をお二方がそれぞれ漫画化してくださったのですよ……良いでしょう……ふふん。
    ◇ ◇ ◇

     滅多なことでは沈まない代わりに、一度沈んだが最後、浮上するのは難しい。
     だいたい自力では立て直せないことがほとんどで、今も昔も、私自身この性格があまり好きではない。
    「どこもおかしくないか? ピョン★」
    「フフフッ、バッチリきまってるよ」
     アイロンのきいたスーツを着込んだフリードさんは、今日は誰かの結婚式に呼ばれている。互いに騎士をつとめていれば共通の友人や仕事仲間も多いけれど、それでもそれぞれしか知らない友人もいて、今日はフリードさんだけがお呼ばれしたのだ。
    「飲みすぎないでね」
    「分ってるピョン★」
    「新婦さんの友達ばっかり見てたら駄目だよ?」
    「うーん、善処はするピョン★」
     ピカピカに磨かれたフォーマルシューズを履いたフリードさんが出ていくのを、宿舎の玄関で見送った。
     扉の向こうに見えた空はカラリと晴れていて、きっと素敵な結婚式になるだろうな、と思った。領地の端っこまで出張していっているエルドゥールさんたちも、そろそろ馬車が目的地まで着いただろう。
     今日は宿舎に非番の私一人っきりだ。
    「休日返上なんだけどね」
     騎士とはいえ実戦ばかりが仕事ではない。デス 1962

    松島 月彦

    DOODLE聖夜に星満たす宵闇の話普段は寮や下宿先から通学している学友たちも大抵、ホリデー期間は家族の顔を見に実家へと帰ってしまう。ほとんどの者はそこで幸福なクリスマスを過ごすのだ。
     ボクとて、スマートフォンのメッセージアプリに「今年は帰ってこないの?」という旨の問いかけが届かなかったわけではない。だけどどうしても帰る気にはなれなかった。地元に帰ったところで、もうボクが「顔を見られる」家族も友人も一人として存在しないのだ。
     事故に遭って以来、一目で相手を判別できなかったが故にまるでボクが失礼極まりない人間であるかのような扱いを受ける機会はたくさんあった。そしてそのことに息苦しさや怒りを感じつつ、同時に一種の罪悪感めいたものを覚えていたことも事実だ。だからちょっと迷ってから「ごめん、バイトがあるから」と返信した後に同じ足ならぬ同じ指で「ホリデー期間はお店開いてないの? 開いてるならシフト入れてほしい」とアポストロスにメッセージを送ったのは、ここだけの話。

     ボクが今日──つまりはクリスマス・イヴ──に“アルビオン”の片隅で真鍮の額縁をせっせと磨いているのは、まあ、そういう理由だ。

    「……ふう。だいぶキレイになった 8349

    松島 月彦

    DOODLE遊園地に行った話「これ乗りたい!」
     フィンレイが一つのアトラクションの前で足を止める。飛行機を模したゴンドラが上下に動きながら垂直軸の周りを回転する遊具のようだ。メリーゴーラウンドが宙ぶらりんになったもの、といったところか。
     飛行機を模しているというのが気になって、車椅子のハンドルを握るボクの手に汗が滲む。エリサも同じようなことを考えたらしく、彼女が横目でアポストロスの顔を窺ったのが分かった。恐らく、フィンレイは三年前の事故のことを知らないのだ。
     しかし緊張するボクらを余所に、アポストロスは意外にも乗り気な様子で「ああ、一緒に乗るとしよう」と返事をした。
    「今度はオレがアポストロスの隣な!」
     胸を撫で下ろしたのも束の間、フィンレイがそんなことを言う。横目同士でエリサと目が合った。フィンレイがアポストロスと同じゴンドラに乗るのであれば、必然、ボクはエリサと同じゴンドラに乗ることとなる。
     正直にいうと、エリサのことは少し苦手だった。人の表情が分からないボクにとって、声は貴重な情報源だ。しかし彼女の声はいつでも完璧に作り込まれており、その本心は消して窺い知ることができない。
     そうでなくとも、ボク 2400

    松島 月彦

    DOODLE過去を求めてみた話丁度サンドラが昼休みに入るタイミングを見計らい、病院の食堂で彼女を待った。彼女がここで昼食を取るとは限らないし、たとえ彼女がやってきたとしても人の顔が認識できないボクの方から彼女を見つけるのは難しい。分かってはいたが、いてもたってもいられなかった。
    「あら? ゼノンちゃん?」
     辺りを見渡すボクに、誰かが声を掛ける。
    「……サンドラ……?」
     薄翠の長い髪に白衣と、落ち着いた声音。それからボクへの呼びかけ方。今回に関していえば多分正解だと思うが、やはり出会い頭に人の名を呼ぶときはいつも不安になる。
    「ええ、どうしたの? 今日は通院日じゃないわよね?」
     間違えなくて良かった──密かにホッとしつつ、ボクは単刀直入に用件を切り出した。
    「……アポストロスについて教えてほしいんだ。彼がどういう経緯で中途障害を負ったのか」
    「それは……、」
     ボクにサンドラの表情は分からない。それでも何となく、彼女が困惑しているような雰囲気は伝わってきた。
    「……ダメよ、『医者』が『患者』に他の患者の情報を無断で教えることはできないわ。だけど──」
     辺りを憚るようにして、サンドラが少し声を低くする。
    「── 1951