右手じゃない俺の恋人と、一か月の空白 俺の恋人は、右手ではない。
より正確に言うなら、右手ではなくなった。今から、ちょうど一年前のことだ。
相手は住宅街を気ままにうろつく猫のような男で、会えるときは会えるし、会えないときはとことん会えない。
それでも、この世で働いている大多数の人間よりは時間の融通が利く。向こうにその気があれば馬鹿みたいに残業続きな俺にも合わせられるのだから、自分たちは恵まれている方だろう。
だが、いよいよ今日は、しばらく疎遠になっていた右手と縒りを戻すことになるかもしれない。
出張先のビジネスホテルの一室でベッドに浅く腰かけた俺は、自身の膝に肘を乗せ、指を組み合わせた手に口元を預けていた。視線こそ目の前の壁をじっと見つめているが、その意識が向かう先は己の股間と前述の右手だ。
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