ー話題沸騰。涙なしには読めない感動の愛と幸福の物語。変幻自在の小説家、夢野幻太郎待望の新刊。
壮大な煽り文句をつけられ、幻太郎の本が平積みされている。荷物持ちにと連行された本屋で見かけるこの光景にも見慣れたものである。
「愛と幸福の物語、ねぇ」
なんだかありきたりで軽い言葉のような気がしてしまう。じゃあ似合いの煽り文句が付けられるかと言えばそうではないが。
「おや、小生の新刊に興味がおありで?」
また2、3冊俺が持っている籠にずしりと本が入れられる。
「内容はなんとなく知ってるけどな。あの修羅場を越えてこーやって本屋に並んでるとなんか不思議な気分だな」
今回はマジでギリギリだったみたいで原稿用紙を並べたりとかちょっとした手伝いをした。内容を知った上でこの物語が愛と幸福に分類されるのがイマイチ腑に落ちないのである。愛とか幸福って何だろう。今まで気にしたこともない疑問が頭をよぎる。
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