「…………は?」
エースの言葉におれは耳を疑った。と、同時にちょっと引いた。
「だから、サボ! お前だって言ってんの!」
「……なんで、おれ?」
「お前が訊いてきたんだろうが! 一人でヤるとき何をオカズにするのかって……そんなの、付き合ってんだからお前に決まってんだろ!」
珍しく声を荒げるエースは、おれの髪をくるくると弄っていたさっきまでとは打って変わって不機嫌そうだ。気を悪くさせるつもりはなかったのだが、気に障ったのなら悪かった。けれど、やっぱり俄かには信じ難い。
「お前、おれで勃つのか?」
「いやお前、さっきまで何見てたんだよ! ちゃんとバキバキだったろうが!」
「いや、まぁそれは、そういう雰囲気になれば……男だし? 勃つものは勃つのかなと……」
すぐ隣から、はぁ、と深い溜息が聞こえた。鋭い目つきがじとりとおれを見つめる。
「なぁ、サボ。おれたち付き合ってるんだよな?」
「おれはそのつもりだけど?」
「……あぁ、その認識は相違ねェみたいでよかったよ」
10年の時を経て再会したおれを、エースは好きだと言ってくれた。その言葉を嘘だとは思わない。おれだって望んでこうなった。それは確かにそうなのだけれど、それとこれとは別というか何というか。
兄弟の延長のように恋人になったおれたちの間には、確かに愛と呼べるものが存在するのだと思う。それに、恋人になったからにはそれなりの行為だってする。けれどそれはあくまで形式的なものであって、仮にも男であるエースが、自分より背の高い筋骨隆々な男に欲情するのかという点では未だに疑問が残る。
「だって、お前の船には美人のナースだっているだろ」
「あぁ、いるな。別にエロい目で見たことはねェけど」
「それに、旅先で出会った女とか……」
「お前、おれが行く先々の島で現地妻作ってるとでも思ってんのか?」
「いねェのか?」
「いねェよ!」
切れ味鋭くばさりと切り捨てられる。いっそ小気味良いその返しに、何というか、ほっとしているような自分に気付いて自分でも少し驚いた。
はぁ、と再びエースがため息をつく。このままではエースの身体から空気が抜けてしまうんじゃないか、なんて。
「……よく分かった。お前は盛大に勘違いしてるみてェだから、この際はっきりさせておく」
何を──と、言う前に、気付けば隣にいたはずのエースの顔が真上にあった。
「おれが誰に興奮してんのか、ちゃんと見てよーく覚えとけ」
目ェ逸らすんじゃねェぞ、と。それっきり何も言わなくなったエースの唇を受け止めながら、あぁ、あんなこと、訊くんじゃなかったと。
今更後悔しても、あとの祭りとしか言いようがない。