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    fuwako08

    @fuwako08

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    BL多め、中国アニメにハマってます。ジャンルが幅広いので行ったりきたりしてます。

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    fuwako08

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    特に続いてもいない、師弟の日常短編まとめ。
    全部で4本です。

    1.弟子心、師父知らず。師父心、弟子知らず
    2.この世界でただ1人(2022年の冬至前に書き始めたため、山奥で暮らしていた設定を無視しています)
    3.街の灯り(2022年の前に冬至前に書き始めたため、山奥で暮らしていた設定を無視しています)
    4.後世に残った軍歌、あるいは平和の歌

    師弟の日常短編1.弟子心、師父知らず。師父心、弟子知らず

    スーパーからの帰り道、袋を抱え直した無限の目の前にそれは唐突に伸びてきた。

    「ん」

    まだ幼さの残る手を辿り、持ち主を見るとふっくらした頬を少し染めそっぽを向いている。どこか照れを含んだ仕草にピンときて、無限は小さな手を優しく包んで歩き出した。
    小黒は1人で生き抜いてきたからか、幼いながらに自立していて無限も見守りはするものの必要以上に手を出すことはしない。けれども、執行人になると言い出す前はよく無限の手を引いて「あれはなに?」「これはなに?」と目を輝かせていたし、慣れない街中では不安なのかよく手をつなぎたがっていた。
    最近はめっきり手をつなぐ機会がなかったので少し唐突に感じたものの、スーパーで家族連れを見て思う所があったのかもしれない。学校に通い同年代の人間と関わるようになって、大人っぽく立ち振る舞うことが多くなっていたが、まだまだのようだ。あまりわがままを言わない小黒の可愛い甘えに、頬が自然と緩む。信号待ちの間、小黒がどんな顔をしているのか気になってチラリと視線を下げると、驚いた顔でぽかんとする小黒と目が合った。そこでようやく、無限は自分の選択が間違っていたことに気づく。
    何か言いたげに口をもごもごさせた後、言葉にならなかったのか繋いだ手をそのままに、フンと勢いよくそっぽを向かれてしまった。
    ちょうど信号が青に変わる。小黒の心を汲めなかったことに落胆するも、正解は何だったのかをぼんやりと考える無限を一組の親子が追い越していった。小黒と同じくらいの子供が、少し重そうな買い物袋を抱え母親へ自慢げに何かを話している。手ぶらの母親はそんな子を見て、優しそうに微笑み愛情深く頭を撫でた。そこで無限はああと、納得する。

    「ありがとう」
    「…まだ、何にもしてない」
    「気持ちだけでもうれしいんだ」

    拗ねて口をへの字に曲げるのは、出会ってからずっと変わらない小黒の癖の1つだ。
    日々多くのことを学ぶ小黒は瞬く間に大人へと向かい、一層優しく育っていく。
    それに嬉しいと感じる一方で、無邪気に「手をつないで」と乞う幼い可愛さをまだ享受していたいと思う自分がいる。大人の浅はかな願いを胸中に留め、手を繋いだまま夕焼けに染まる帰路を辿った。






    2.この世界でただ1人
    思えば今まで小黒は「無限の待つ家に帰る」ということをしたことがなかった。
    以前、無限と旅をしていた時は行動がほとんど一緒だったし、小学校に通い始めても下校途中で落ち合うか、小白と待っている間に迎えに来てくれるか、小黒が家や館で待っているか。いずれにしても待ってるのは、ずっと小黒の方だった。
    だから家を出る際に「今日は任務も館に行く用事もないから、夕飯を作って待ってる」と言われた時、雷が落ちるような衝撃を受けた。
    家で、師父が待ってる!?
    あまりにも聞き慣れない言葉に、意味を理解するまでに数秒を要した小黒は、何とか衝撃を飲み込むと今度はひどく照れくさくなってしまい、返事もろくにしないまま慌てて家を飛び出した。
    それからはクラスメイトや友達と会っても授業を受けていても「帰ったら師父がいる」ということばかり考えてしまい、早く帰りたいような、まだ帰りたくないような気持ちの間でそわそわしていた。

    「小黒、今日なんか元気ないね」
    「そんなことないよ」
    「何かあったの?」
    「今日、師匠が家で待ってるんだって。それで、ずっとそのことを考えちゃうんだけど、すぐに帰りたいようなまだ帰りたくないような気持ちでそわそわするんだ…」

    心配そうに小黒を見つめていた小白の顔が一転して笑顔に変わる。

    「そっか!小黒は嬉しくてそわそわしてるんだね」
    「……嬉しい」

    言葉にできない気持ちに名前が付けられると、自分でも納得するぐらいピッタリで余計に照れくさい。無限が家で待っててくれるのが嬉しいだなんて、なんだか子供っぽいし。
    そうこうしている内に放課後の鐘が鳴り1日が終わる。
    階違いの小白と別れた後、すぐに家に帰ってしまうのがもったいないような気がして、無駄にエレベーターを往復させ、マンションの周りをゆっくりと3周した。
    漸く心を決めて再度エレベーターに乗れば、数秒も経たずに軽快な音とともに慣れ親しんだフロアに到着する。エレベーターを出て3つ目の扉。
    毎日開けているはずなのに、いざドアノブに手を向けるとドキドキと胸が大きく高鳴り、手がしっとりと汗で濡れる。
    嬉しさと緊張と、少しの不安。もしドアを開けて誰もいなかったらどうしよう。大切な日常が簡単に奪われてしまうことを、小黒は誰よりも知っている。深呼吸をしてドアノブに手をかける。
    そっと静かにドアを開ければ、廊下の突き当りにあるリビングから明るい光が漏れ出て、薄暗い廊下に光の道ができる。トントンと何かを切る音とおいしそうな匂いは家主がいることをしっかりと示していた。

    「小黒?」
    玄関からぼんやり眺めていると、いつの間にかものを切る音が止まり、代わりにひょっこりと無限が顔を出す。不思議な顔をしてのぞき込む無限の顔を見て、靴を脱ぎ捨てかけだした。勢いのまま抱きつけば、びくともせずに抱き返され、大きな手が優しく頭を撫でてくれる。頬がジンジンと熱く、胸が苦しい。
    風息たちと別れてからの4年間で故郷の森も離島も少し遠くなっていった。でも、帰る場所はある。そこは、この世界でただ1人、小黒の帰りを待っている。
    「お帰り、小黒」
    「ただいま!師父!」



    3.街の灯り
    その日、無限が任務から帰るとついているはずの家に灯りがなく、一瞬小黒の身に何かあったかと身構えそうになった直後、今日は帰りが遅くなること散々言われたことを思い出した。
    小白たちと隣町のゲームイベントに参加し、帰りは新山の家で食べるからと念を押してきた小黒は、浮き足立つ心を尻尾に乗せ、ゆらゆらと揺らしていた。
    今朝のできごとを思い出しながら、電気も付けずにそのままリビングのソファーに寝転がった。
    400歳を過ぎてから「誰かを家で待つ」なんてことをするとは思わなかった。家で誰かを待つなんてことは、戦乱の時代に養生のため北河という医師のもとへ身を寄せていた時以来だ。あの時は動けずに、時折村や山に行く北河を寝台の上で猫と一緒に待っていた。

    暗い静かな部屋のはずなのに、窓から入る街の灯りが壁に反射してひどく賑やかに感じる。
    この灯りのどれかの元に小黒がいるのだろうか。
    輪郭や色をコロコロと変え、揺れては気まぐれに消えていく様子が、子供たちのにぎやかな姿と重なり、自然と口がほころんでいく。
    今日はどんなゲームをしたのだろうか。怪我はしていないだろうか。笑って、喜んで、怒って、泣く百面相の顔を思い出すだけで、一日がひどく満たされたものに変わっていく。
    胸を締め付けるような幸福に、ふうと深い息をはいた。

    ぬるま湯のような幸福に浸っていると、ガチャガチャと玄関から音がして元気な声がリビングにまで響いてくる。
    「ただいま~って、暗!!師父ー?まだ帰ってないの?」

    驚いた後に、静かに伺うような声が聞こえてきて、堪えきれず小さく笑う。

    「っているじゃん!…なんで電気つけないの?体調悪いの?」

    いないと思っていた無限がいたことに驚いた小黒は電気をつけるのも忘れ、ソファーに寝転んだままの無限の元に、心配そうな顔で近づいた。壁に反射していた街の明かりの一部が小黒に移り、真っ白な髪を好き好きに染めている。

    「見てたんだ」
    「見てた?何を?」
    「街の灯りを」
    「…?街の灯り?なんで?」

    小黒がまったく理解できないといった顔で首をかしげた。

    「おかえり、小黒」
    カラフルに染まる頭を撫でると、答えになってないよ!とすねた声が灯りで満たされた部屋に大きく響いた。






    5.後世に残った軍歌、あるいは平和の歌
    戦場から領地への帰り道、突然の土砂降りに見舞われ、洞窟内に避難したものの立ち往生して今夜は帰れなさそうだなと諦める無限の横で、満天の笑顔の男は言った。

    「歌を作ろう!兵士を鼓舞するような!」
    「……」

    確かに男は六芸に秀でていたものの、歌を紡ぐ才能はそんなになかった気がする。雨に濡れた服の端を絞りながら、訝がりながら男の方を見ると「聞いてくれ!」と歌い出した。
    歌と言われれば歌と言えるかもしれないが、音程が大げさに上がり下がりするそれは、兵士を鼓舞するよりも不安にさせそうだ。男の声が低いものだから、遠くからだとうめいている様に聞こえるかもしれない。ある意味後世に残るかもなと思いつつ、無限は男が満足するまで静かに聴いていた。しかし、いつまでも終わらない不安げな歌に我慢も限界になる。再び濡れるのを厭わず近くの竹藪へ足を踏み入れ、驚きに歌を止め無限を見つめる男をよそに若く細い竹を一枝切り、削って形を整えれば即席の笛ができる。
    戦場が遠いとはいえ笛を吹くのはあまりいいことではないが、どうせ土砂降りの雨で音も消えるだろう。

    「最初からもう一度歌ってください」
    「お、おお」

    戸惑うように歌い出す男に合わせて笛を吹く。いちいち大げさな曲調にも音をつければそれなりに聴こえるようになった。少なくとも兵士は不安にならないだろう。ちらりと男を見れば、雨を忘れるほどの満面の笑顔がそこにあった。

    「お前は楽の才能もあるんだな!きっと後世に残るぞ!」

    自信満々に言い切る男に、思わず吹き出して笑う。後世に残ったらどんな風に紹介されるのだろうか。軍歌かあるいは呪いの歌か、その時、世が平和であるといい。


    ∞∞∞


    小黒が学校に通うようになって、無限の生活に楽しみが1つ増えた。それは、小黒の日々の土産話だ。学校からの帰り道や家に帰ってから寝るまで、その日に学んだことや友人たちのことを身振り手振りで一生懸命話してくれる。興奮しながら楽しそうに話す小黒を見るだけで、胸が満たされていくのを感じる。
    今日は、風呂に入り終えもうそろそろ寝ようという時に小黒が思い出したように、話を切り出した。

    「ねねね、今日は歌を習ったんだよ!すっごく古い歌だけど作られたのが400年以上前って言ってたから師父は知ってるかも!」

    嬉しそうに笑う顔に、無限は心当たりがないか遠い記憶を掘り返した。
    正直、無限はあまり曲や歌を知らない。教養として教わったもの、子守唄、あとは何かあったか…。

    「どんな歌だ?」
    「昔の皇帝が作った兵士を鼓舞するための歌なんだって!」

    聞いてて!と小黒が歌い出すと、どこか懐かしいメロディーが無限の耳に届いた。土砂降りの洞窟、不安になるような曲調、後世に残るぞと言った自信満々な顔。
    今まで忘れていたそれらが、雨の匂いを連れて鮮やかに蘇る。
    溢れるほどの感情が胸に迫り、うまく言葉に言い表せない。変な顔をした無限に、小黒は不思議そうに尋ねた。

    「この曲知ってる?」
    「ああ。…よく知ってる。もう一度聞かせて」
    「いいよ!」

    嬉しそうに歌い出す声に合わせ松濤で曲を添えると、小黒は驚いた顔をした後、一層楽しそうに声を張り上げて歌った。楽しくて楽しくてひときわ高く吹いた時、外からビリビリと響くような怒号が投げ込まれた。

    「うるせー!!!」

    思いもよらない乱入に小黒と顔を見合わせた後、衝撃から先に戻った小黒がフッと吹き出してから、堪えきれないように腹を抱えて大笑いするから、釣られて無限も腹を抱えて笑った。
    この歌を作った日、平和になったらいいと思ったけれど、それはあくまで世のことで、無限は「自分の平和」について考えたことはなかった。
    後世に語り継がれた歌を弟子と夜に合奏してたら、知らない人に怒られた。そんなことを言ったら、平和になったとあの男は笑うだろうか。

    「怒られちゃったね」
    「そうだな」

    ファミリー向けのマンションの一室。眩しくて愛おしい「無限の平和」が、悪戯っぽく笑った。

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