これでも付き合ってない二振【梅雨晴間】
季節は梅雨。
毎日毎日飽きもせず雨雲が垂れこめている。
私この時期が、だいっ嫌い!
湿気でうねりが凄い髪質でこの時期は本当に湿気でぴょこぴょこと髪の毛がうねるうねる。
それを、どの時季よりも早起きしてヘアアイロンで無理矢理落ち着かせないといけないんだから嫌いにもなる。
そんな私に仕えて支えてくれている刀剣男士達は皆何時の時期でも癖のない真っすぐな髪質や、いっそ癖が強過ぎてセットが全く崩れない髪質を持つ男士ばかりで、強すぎる癖は羨ましいくらい!
「はあ~…」
本日も曇天。
何時の頃からかは不明ですが必ず雨が降るでしょう、という空模様。
「今日も憂鬱…」
「あるじー!起きてるかー?」
障子の向こうから掛けられる声の主は、
「起きてるよ~、お早う~」
からり、と障子を開くとそこには黄金色でふわふわの髪質を持つソハヤノツルキがいる。
当番制にしている、この本丸の今日の近侍だ。
「おはよう、ソハヤ、大典太も」
「…ああ、おはよう」
黄金色のふわふわの後ろには、
もっふもふ、
そう表現するのが似合う程の毛量の濃い紺色の塊がある。
この本丸に顕現した刀剣男士では珍しく主であるわたしの髪質の影響を受けてしまった一振だ。
「大典太…今日も大変そうだね」
何気なく手を伸ばしてその紺色のもふもふに触れようとする。
「…あるじ…」
やんわりと、けどきっぱりと伸ばした手を大典太の手の平で遮られてしまった。
「あ…ごめん」
流石に気安過ぎたのかな?
「あー、気にすんな主。兄弟誰にでもそうだから」
ソハヤがちょっと済まなそうに片手を上げて、ごめん、と代わりに謝ってくる。
「ううん、わたしこそごめんね」
そう謝ると、大典太はこくり、と一つ頷くだけだった。
そうして、季節がまた一通り巡り。
またこの嫌な時季がきた。
今日もぴょこんぴょこん、と跳ねる髪を何とか抑えることに成功した私は
廊下に控えていた今日の近侍に声を掛ける。
「もう開けても大丈夫だよ、大包平」
すらり、と障子が動きそこにいるのは、ぴんと背筋を伸ばして廊下の板間に両膝をついて控えている大包平の姿があった。
「お早う、主。今日一日よろしくな」
「うん、お早う。こちらこそよろしくね」
今日も、うちの刀剣の横綱は、紳士だ。
私の起き抜けの姿(特に跳ねが凄い髪)を見られたくない事に気付いてからは、私が起きているか確認の声掛けをしてからはこちらが「いい」と言うまではこの状態で待っていていくれる。
どれとは言わないけれども、声掛けもせずに容赦なく障子を開けてくる刀剣達とは大違いだ。
しかし、そんな紳士の大包平にも最近付属品が付くようになった。
この大包平の背後にぬっと立っている大男の影。
濃紺の髪を持った天下五剣の一振。
「大典太もおはよう」
「…ああ」
こっくり、と頷くが相変わらず髪の毛はもっふもふと獣のしっぽのような、毛玉の様に見える量だ。
「相変わらず大典太の髪の毛も大変そうだね~」
そう声を掛けるが触れる事はしない。
度々の失敗でわたしだって学んでるんだから。
「…おい」
ゆさゆさ、まだ座ったままの状態の大包平の肩を緩く揺する。
「まだだろう、少し待て」
大包平はこちらを見たまま短くそう返すが、楽しそうな顔をしてるなあ〜、
と真正面にいる私はぼんやりと思う。
対する大典太はむぅ、と少し面白くなさそうな拗ねた表情をしている。
全部私の真正面で行われているから本当によく見える。
いや、もしかして私見せつけられてる?
「大包平…なあ…」
ゆさゆさと大典太が肩を揺すり続ける。
揺すり続けるのとは反対の手には木製の櫛が握られている。
あれは大包平が私と大典太の癖毛の為に万屋街で買って贈ってくれた付喪神が出来かけの由緒正しい櫛。(ちなみに私は椿の櫛だった)
大包平、大典太には絶妙に見えない位置で心底楽しそうな顔してるなあ〜。
「いいよ、今から朝ごはん食べるつもりだったから、その間にやってあげてよ」
私のその一言に大典太の大包平の肩揺すり攻撃が止まる。
「…すまないな主。すぐ済ませてくる」
すくり、と立ち上がると大典太と大包平はほぼ同じ身長だという事を思い出す。
大男が二振に増えたという事で、二振に見下ろされるのは中々迫力がある。
「今日も見事な癖っ毛だな」
楽しそうに、大典太の濃紺の髪を一房摘まむ。
「大包平、早くしてくれ」
そんな大包平の手を嫌がる素振りは一切見せずに急かす大典太の顔は僅かながら緩んでいるように見える。
「では行くぞ…主、また後で」
そう言って二振部屋から去って行った。
今日も朝から甘いものを無理矢理口に入れられて胸焼けが凄い。
ある日から、大包平に寝癖を直してもらう大典太の姿を洗面所で見かけるようになった。
うちの本丸の大包平は夏の連隊戦で顕現してくれた一振で、先に本丸に顕現してくれてた大典太とは全く接点がなかったはずなのに。
「…一体いつあんな風になったんだろう?」
「なー?俺も不思議なんだよなー」
ひょこり、と廊下を丁度通りがかったらしいソハヤが顔を出す。
朝ごはんを食べるための食堂へは私の部屋を通らないと辿り着けないからタイミングよく通りがかったのだろう。
「主、お早うー」
「お早う、ソハヤ」
「主、もう一つ胸焼けする話してもいーか?」
「…え?何…?」
「あの二振付き合ってないからなー、どっちも自覚ナシ」
「え!?」
あんな分かりやすいのに無自覚なの?
じゃあ自覚して、付き合い始めたらどんなんなるんだろう…?
あ、本当だ。更に胸焼けが増した。
「…私、今日はお粥にしてもらおうかな…」
「いいと思うぜー」
じゃ、お先ー、そう言ってソハヤは廊下の先を進んでいく。
私もはあ、と一つ息を吐く。
この本丸の近侍を当番制にしといて本当によかった!