ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第3話「誕生」 大鴉のディアヴァルの回想は続く。
そう、あれはマレフィセントに仕えるようになって間もない頃のことだった……。
ある日、ディアヴァルはいつものように人間の城に舞い込んで、あちこち覗いて歩いていた。
今日は何となく、城の中がざわめいていて、いつもと雰囲気が違う。様子がおかしいぞ……、と思い、いつもより念入りに様子を見て歩く。
と、とある部屋の前に人だかりが出来ていて、その真中に王がいた。あれが我が主マレフィセントの仇敵だ。王は気もそぞろな様子で扉の前をウロウロと歩き回っていた。何か心配事があるような風情だが、ならばなぜ扉を開けて中に入らないのだろう?
そう思った時。唐突に扉が開き、歓びに顔を上気させた下仕えの女が飛び出してきた。
「産まれたか?!」
と、王が叫ぶ。女の胸ぐらを掴まんばかりの勢いだった。
「無事、お生まれになりました……!」
「男か? 男だろうな?!」
ギラギラした目で王が問いただすと、女は半歩後退り、怯えたような顔をしながら言った。
「……そ、その……」
女の顔から先程までの歓喜の色がみるみる引いて、青ざめてゆく。
「まさか、女だと言うのか?! はっきり言え!」
女はゴクリと唾を飲み込み、ようよう言葉を吐き出した。
「……はい。大変お美しい、玉のような女の子でいらっしゃいます……」
王の顔に血の色が駆け上る。怒気を孕んだその表情はさながら赤顔の悪鬼のようだ。王は女を突き飛ばすと、大股に部屋の中へ入っていった。
ディアヴァルは、その一部始終を天井の梁の陰から見ていたが、もちろん部屋の中までついていくことは出来なかった。
だが、部屋の中からは、王の怒声が筒抜けで聞こえてきた。何やら揉めているようで、召使いと思われる声が静止している様子も伺えた。それに続いて女の啜り泣く声が漏れ聞こえてきたと思ったら、不機嫌な顔の王がどかどかと足音も荒く部屋から出てきた。
振り返りもせずに歩み去る王の背を見送ったディアヴァルは、この人間は何故、子が産まれたことを素直に喜ばないのだろう、と首を傾げるのだった。