きんちゃん日記 1簡単なあらすじ
千冬が高1のときに告白して付き合い始めたばじふゆ。高校卒業後、ペットショップ経営資金のためにバイトを始めた圭介と、経営について学ぶ千冬とのあいだですれ違う。だが無事に仲直りし、一緒に過ごす時間を確保するために同棲をすることとなった。ペットショップを開いて数年、店の前に捨てられていたゴンザエモンを拾った。店で世話をしながら飼い主を探すものの見つからず、店の看板ゴンザエモンとして一時的に保護することになった。
第1章 名付け
「圭介さん、あいつうんちしてたんで片付けときました」
「あー、マンチカンか。今日は快便だな」
「いやそっちじゃなくて、ゴンザエモンっす」
「そっちか」
圭介はトイレ用シートを袋に詰め、顎に手を当てた。
「そろそろ名前いるかな、あいつじゃわかんねぇだろ」
「ゴンザエモンっすか?」
「おう」
「名前つけたら愛着湧きますよ」
「ま、飼い主が見つかるまでのあいだだよ」
「うーん、ならいいっすけど」
圭介はバックヤードからフロアへ移動し、ゴンザエモンの背中に声をかけた。ちょうど一虎と話し込んでいるようだ。
「なあ、いまいいか?」
「ん、いいよ」
「ウホ」
「あ、用があんのはこっちだから、一虎はちょっと席外してもらえるか?」
「わかった」
一虎が座っていた椅子に腰掛け、ゴンザエモンと目を合わせた。
「オマエ、名前がねえだろ?」
「ゴンザエモン」
「それは名前っていうか、違うんだよ。オマエだけの名前じゃない。んで、オマエを呼ぶとき不便なんだよ」
「ウホ?」
「オマエは呼ばれたい名前はあるか?」
「北大路欣也」
「欲張んな」
「ウホホッ」
「もっと真面目に考えろよ、一生呼ばれんだぞ」
「カミラ・カベロ」
「オマエ考える気あんのか?」
「ウホ」
「場地、自分で考えさせるのがだめなんだって」
「じゃあ一虎はなんか候補あんのか?」
「欣也でいいだろ」
「おいおい、マジかよ」
「看板娘の欣ちゃん、それっぽい響きじゃん」
「欽ちゃんがイイ、ウホ」
「あーもう、きんちゃんでいいんだろ」
「よかったな、今日からオマエはきんちゃんだ。北大路欣也の気持ちで頑張れよ」
「ウホッ」
第2章 空腹
「きんちゃんまた太ったな」
「マジすか? こいつのエサ増やしてないですけどね……」
「おい欣也、勝手におやつ食べてねぇだろうな?」
圭介、千冬、一虎に囲まれ、欣也は縮こまっていた。普段は2メートルある肩幅が1.6メートルになるほどに縮こまっていた。
「ウホッ、ウホウホッ」
「今日なに食べたか、正直に言えよ。きんちゃんの体調を心配してんだ。わかるな?」
「ウホ」
「朝メシは納豆ご飯と味噌汁だったな?」
「足りなかったので、ふりかけをかけてもう一杯ご飯を食べました」
のりたまのストックがあるかを見るために立ち上がろうとした一虎を、千冬が制した。
「一虎くん! 一回全部聞きましょう!」
「昼は? なに食べた?」
「チャーハン、餃子、ミニラーメン」
「オマエ王将行ったんだな、それだけか?」
「……半ライス、天津飯」
「おまっ! 全部米!」
「一虎くん! 落ち着いて!」
「おやつ、食ったんだよな。ゴミ箱にルマンドの袋があったぞ」
「……ウホ」
「ルマンドだけじゃないよな?」
「……魚肉ソーセージ、塩むすび」
「おまっ! また米!」
「一虎くん! 座ってください! 落ち着いて!」
「一虎が言いたいことはわかる。バカほど米食ってるな」
「米をおかずに米食ってるぞ、こいつ」
「米が好きなのはいいが、栄養が偏るのはよくない。野菜、肉、魚も必要だよな」
「ウホ」
「サラダも食べるんだぞ」
「ウー!! ウホッ! ウホホッ! ウホッ!」
「こらこら、チャーハンと餃子に気持ちだけ入ってる野菜は野菜にカウントしないからな」
「ウホッ! ウホッ!」
「ちがうちがう、モデルみたいにドロドロの野菜スムージーとか酵素ドリンクを飲めとは言ってない」
「きんちゃんの好きなものも食べていいけど、量を調整しようってことだ」
「ウホ、ウホウホ」
「酵素ドリンクにこだわるなって」
「食事だけじゃなくて、運動量も見直したほうがいいですよね。きんちゃんは毎日定位置に座ったままですから」
「ちったぁ動かねぇと、身体がなまるぞ」
「ウホ、ウホ」
「草野球やってるって言っても、キャッチャーだろ。練習してんのか?」
「……ウホ」
「オレと千冬でジョギングしてっから、気が向いたらきんちゃんも走ろうぜ」
「ウホ」
「なまけんなよ」
「ウホ」
「うし、じゃあ明日の開店時間前な。一虎も走るか?」
「オレはむり、走るのだるすぎ」
「オマエさ、ったく」
「あはははっ」
「はははっ」
「ウホホッ」
ー完ー