「手折りたい」
曰く、『桜の木の下には死体が埋まっていて
その血を吸うからあんなにも妖しく咲き誇るのだ』と
いつだったか読書家の友人が話していた
それを、俺はなんとも冒涜的だと思った
あんなにも美しい植物を構成するものに
人の骸が混ざるなど考えただけで厭だった
咲かせるのは桜自身だ
自然に根付く美しさを信じている愛している
決して折ってはならないのだ
蕾の満開を見たいのであれば
自然に根付く美しさを俺は信じている愛している
散りゆく瞬間さえも
優雅に彩る春の儚い肖像を
ただ愛していたのに
「切り取りたい」
桜の木の下には死体が埋まっているという
何処かの誰かの話をふと思い出したが
どちらにせよ構わないことだとただ思った
美しい芳香の薔薇が茨で護られているように
優しい緑の仙人掌が棘で覆われているように
美と醜と優しさと激しさが両立している
ことなどこの世にはいくらでもあって
彼を想う君だから綺麗に見えるのか
僕が君を想うから綺麗に見えるのか
それもやはり同じことで
花が咲くように綻ばせるその表情も
レンズを通せば永遠に閉じ込められる
やはり ただそれだけなのだ
「暴きたい」
桜の木の下の死体などというものが
もし本当にあるとするならば
人々が仰ぎ感嘆の声を上げるその下で
醜く腐ったモノが埋まっている
まさしく化生のものではないか
そんな不快な愉悦が湧いた
祈るような見守るような
栄華を誇るような一瞬の美など
すぐ地に落ちて
茶色く地面を穢して塵と化す
だけどいつまでも目に焼き付くのは
似ても似つかぬ太陽がよぎる
欺瞞なのだ
桜もお前も俺も全て