when i'm with you「ついたー!!」
必要最低限の荷物とスケートボードを括り付けつけたバックパックを地面に置くと大きく伸びをする。
きっかけは沖縄に仕事に来ていた現在のマネージャーがパークで滑っている曆に声をかけて来たこと。
(俺がアイドルねえ…)
全く信じられない話だったが、学費も生活費も出すと説得され現在に至る。暦の下に3人の妹がいるのだ。長男とし家庭を支えるべく遥々この地へやってきた。
沖縄から約3時間かけて辿り着いた場所は閑静な住宅街に佇む1軒家。
扉を開けて奥に進むと右手側にリビングとキッチン、左側には2階に続く階段がある。マネージャーから個室の部屋は2階にあるので好きな部屋を選んでいいと聞いていた。
暦が選んだのは日当たりが良さそうな203号室。中に入るとベッドに机、必要最低限のものは備え付けられているようだった。
(とりあえず一人暮らしみたいなもんだし気楽にやろう)
ベットにダイブすると長旅で疲れた身体はそのまま動かず意識は遠のいていった。
「…ぇ…ねぇ…」
「ン…?」
誰かに呼ばれたきがして目を覚ますと辺りは薄暗くなっており寝てしまったと気づいた。
「やっと起きた」
突然はっきり聞こえる声に振り向くとそこには同じ歳くらいの少年がこちらを見下ろしている。
「だっ誰だよ!?は!?こわ!幽霊とか無理無理無理」
慌てて布団に潜りこむ俺の手を握りしめられる。このシェアハウスに住人はいないと聞いていたし、現に部屋にたどり着いた時に人の気配はしなかった。抵抗するようにもがくがびくともしない。
(コイツの体幹と腕力どーなってんだよ!幽霊ってこんなに強いの!?)
抵抗するのを諦めると掴んでいた腕を離される。怖さで閉じていた目を開けると、そこには薄いブルーの瞳に透明感のある肌…思わず見惚れてしまった。
「突然ごめん。馳河ランガです。」
暦はハッと眼を開き勢いよく立ち上がり部屋に電気をつけ改めてお互いの顔を見合わせる。馳河ランガと名乗った彼の身長は暦より少し高くしなやかな手足が映える容姿で生まれ持ってのオーラがある。佇まいからして泥棒などではないようだ。
「えっと…オレは喜屋武暦!今日からここに住むんだけど…ハセガワ…サン?はどうしてここに?」
「ランガでいい。オレも今日からここに住むことになった。暦と同じアイドルを目指すんだ。とりあえず、今夜は一緒に寝ていい?」
目の前の男は一緒にアイドルを目指すらしい。そして押しが強い。
一方、日頃からの兄気質もあってか押しに弱く『一緒寝よう、日本に来たばかりで不安なんだ』と言われると、項垂れたまま一緒に寝る事を承諾した。
初対面だが、ランガの美しい顔にお願いされると断りきれない。
妹たちのようにランガの頭をわしゃわしゃと撫でると恥ずかしそうに、驚いた顔をしながらも嬉しそうに笑っている顔をみると何故か穏やかな気持ちになれた。
本当は東京まで来てアイドルを目指す事が不安で堪らなかった。いつも家は賑やかだったしスケート仲間もいた。ここでは暦1人で生きていかなければいけない。そんな所に現れたランガと言う変なヤツの存在に正直救われた。
『暦!夕ご飯をたべよう!プーティン買ってきてあるんだ!』
『いいねえ!腹へった〜』
とんとんとん…2人で階段を降りていく。
今日から2人ぼっちの生活が始まる。