そう、変わらない。仄かに青みがかった真っ白な世界。
その中で小柄で猫っ毛の彼がふわふわと揺蕩う。
「あろま…?」
声を掛けると、揺蕩う彼がこちらを振り返り、柔らかく微笑む。
普段ならなかなか見れないような、暖かい笑み。
見蕩れていると、彼は少しずつ離れていく。
「あ、あろま…!!」
───手を伸ばした先には、見慣れた天井だけだった。
「あれ、寝てたのか…?」
いつの間にか寝ていたようだ。寝起きの頭を回転させる。
確か、新曲のデモを作っていて、休憩にコーヒーを飲んでいたらソファーで寝落ちていた。
すっかり温くなってしまったコーヒーを口にし、作業に戻ろうとする。
[ピコン♪]
「ん?あろまからだ、珍しい…」
【いま暇?】
友人であり、グループのメンバーであり、FBが密かに想いを寄せるあろまからの連絡。
そんな彼からの連絡にFBはわずかに頬を緩ませる。
【作業が一段落して休憩してたところ。どした?】
【これから家で映画観るんだけど、来いよ】
【今行く】
好きな人からのお誘いに乗らない者なんていない。FBは急いで身支度を整えて家を飛び出した。
「これ、FBも見たいって言ってたなって思って呼んでみたんだわ」
そう言いながらDVDのパッケージをFBに見せびらかすあろま。そんな些細なこと覚えていたのか…とFBは口が緩みそうになるのを必死に隠す。
「あ、ああ。見たかったんだよそれ」
二人で並んでソファーに腰掛ける。かけるよ、とあろまがDVDを再生し始めた。
大ヒットした映画ではなく、限られた映画館で上映されるような少しコアな映画。
男と男の同性愛がテーマとなった映画だ。
男同士で見るのはどうかと思うが、人気俳優が主演との事で話題になっていた。
ささやかな幸せを分かち合う二人。
だが、愛する人がたまたま同性だっただけで、世の中に虐げられ、蔑まれる。
いいよな、この人達は。真正面からお互いに愛し合えて。そばに愛する人が座っているのに、触れる事すら許されない。こんな関係よりもよっぽど幸せなのに。そんな事をFBは思考する。
映画はクライマックスへと向かう。
気持ちを素直に伝えきれぬまますれ違う2人。
こいつとなら、あろまとなら…
「…び…えふびー。」
「え、っ……?」
ぼーっとしていた。でも何か違和感がある。
「なんで泣いてんの?」
頬が濡れていた。
「あれ…?おかしいな……俺、泣いちゃってる…」
ははは、なんて空笑いをしてみせると、あろまがFBの頬を両手で包む。
「なぁえふびー。」
「な、に…?」
「俺の事、すき?」
時が止まった。こいつは何故俺に好きか聞いているんだ?何故そんなに真っ直ぐ俺を見つめる?何故そんなに優しくちまこい手で俺の顔を包むの?
FBの頭が一杯になる。
「…はは!何言ってんだよ!嫌いだったら今頃付き合いもたね…」
「そういう好きじゃない。友達としてじゃなく、一人の男として。」
「は…?」
細いFBの目が丸くなる。答えは決まっている。
止まりかけていた涙がまた溢れ出す。
もう、どうにでもなれ。
「すき、だよ…ッ!友達としてじゃなくて…一人の人間として…」
声が、手が、足が、震える。
「…俺も。」
「え…?」
困惑をしていると、あろまの整った顔が近づいて、唇に暖かい何かが触れる。
「俺も、えふびーが好きだよ。」
唇を離すと、彼は柔らかく微笑んで呟いた。
「これ、夢…じゃない…、?」
「なーに言ってんだべ、現実だよ。」
思いっきり頬を抓られる。
「いひゃい」
「だべ?」
夢では離れていった彼が、FBの前で優しく笑っている。
こんなに甘い時間を過ごしていたら、可笑しくなってしまうのではないか?でも、そうなってもいいかもしれない。なんて、彼からの壊れそうなほど優しい口付けを受けながらFBは思った。