ニコイチ暗い路地裏。この時間はデリヘル嬢とかが彷徨いている。
「いや…!やめて…!」
俺の姿を見るなり、怯えた顔で後ずさる女性。
それもそうか。
俺、出刃包丁なんて持っちゃってるもんね。
「ごめんなさい、俺らの食事になって。」
冷たく言い放す。その刹那、俺は女性の喉を切り裂く。
ここで叫ばれたらたまったもんじゃないからね。まぁこの時間に出歩く人はあんまいないからいいんだけど。
その次に胸を一突き。そして女性は電源を抜かれたロボットのように力なく倒れる。
ふぅ…こんな風に毎回楽に殺せたらいいんだけどな。
刺し所が悪いとジタバタと暴れる人間もいる。生命維持のための反射的なものだろうけど。
ザクッ、ザクッ、
近くに隠しておいた鋭利な刃物で大まかな部位ごとに切っていく。人間の筋肉と骨は本当に切りにくい。これだけでもとても疲れる…。
でも、うちの可愛いカニバリストがお腹すかせて待ってるからね、俺は頑張れちゃうんだよ。
「ふふ、今日はいいオニクがとれたよ、ラーヒー」
ボソリと呟いて俺は軽い足取りで帰路につく。
ガチャ
「ただいまぁー」
「おかえり!お疲れ様〜」
手をひらひらと振る彼、ヒラは、俺の家に住み着いているカニバリストだ。
俺は愉快殺人鬼。人殺しが気持ち良くて堪らない。でも殺しまくってバレたら人が殺せなくなってしまう。そこで、死体を食べて証拠隠滅してくれるのがヒラ。
大体身寄りがないような人間ばかり殺してはいるが、捕まったら面倒だからね。ヒラは人肉が食える、俺は証拠隠滅が出来る。何とも利害の一致である。
「今日は若めのメスがとれた。ど?」
「ん〜!美味そ、早くご飯作ろ?」
袋の中に満杯に入る肉塊を見て舌なめずりするヒラ。なかなかに正気の沙汰ではないが、人の事を言えない。
太ももの肉を器用に捌いてステーキを焼くヒラ。とんでもないくらいに上機嫌だ。
俺は人肉を食う趣味は持ち合わせてないので、そんなヒラを横目に、血を綺麗に洗い流して、買っておいたパンを適当に食っている。
「フジも食べたらいいのに〜美味しいよ?」
「んや、そこに趣味はないからさ。ヒラは沢山食べとけばいいよ。」
そう?と首を傾げて、また美味しそうに肉を食べ始めるヒラ。こんなに可愛い顔していてカニバリストなんてね、最初はビックリした。
けど、需要と供給が噛み合った時、運命を感じた。
こんなに近くにいた人間が同じく異常な人間だなんて。
「ねえヒラ」
「ん?何?」
「俺達、地獄でも一緒に居ようね。」
ヒラは目を白黒させ、不思議そうに俺を見る。
「…あはは!そうだねぇ、きっと俺達、一緒に地獄に堕ちちゃうだろうなあ。でも、フジが居れば俺はいいんだよね。」
俺の手にフォークを置いたヒラの手が重なる。
「俺達は、ニコイチ。でしょ?」
歪に笑うヒラ。
俺達は、地獄でも笑っていられる。
ヒラがそばにいれば、そこは天国だから。