サンタクロースは。「そうでした!シン、今夜は来ちゃダメですからね!」
「は?」
丁度クリスマスの25日、明日一緒に出かけよう的な話になってて、突然レーナに投げられた言葉にシンは思わず脳を通常の10倍よりも回転させてしまった。
今まで一度も祝ったことないとは言え、クリスマス前日、すなわちイヴ。聞く限りかなり大事な日であり、当然恋人と過ごすのも聞いたことがあるわけで。
それがなぜ。
もしや…自分よりも一緒に過ごしたい相手がいるとでも言うのか。
いや、そんな相手がいるのだとしたら自分しかいないだろう…。
果たして…そうなのか。
脳裏に色んな疑念がごちゃ混ぜ、不安になってしまった。
「ちなみに…理由を聴いても…?」
「そんなの…!」
「そ、そんなの…?」
ごっくりと息を呑んでその続きを待つ。さくら色の唇が再び開くと。
「サンタさんがくるかもしれないからじゃないですか!!」
「は?」
自分で聴いてもアホな声が漏れた。しかもこれが10分の内に二度目。おとぎ話の中でしか存在しないサンタクロースというおじいさんらしい。あほらしくてこんなの誰が信じるのだと86区でこう思った自分が思い出してしまった。
目の前に目をキラキラと輝かせて楽し気に話てた彼女を見て。
彼女は、自分の恋人。
存在してないなんて、言えるはずもなく。
「いい子にしないとプレゼントは貰えないんですよ!なので早寝します!」
ときらきらした目で言われても。
そんな彼女の中で自分があの存在も持たない老人にも負けているなんて、溜息も大きく吐きたいどころだ。
まあ。別にいいけど。
「貰うプレゼント、もう決めた?」
「うーん~決めてましたけど、シンには教えません!」
そう来たか。
ならば。
「おれでも、教えてはダメのか?」
「おれでも、ダメ?」
「ううううううー」
レーナは物凄く困惑して悩んでいるように呻き声を出す。
彼女はこういうのには弱いのだ。だから敢えてその隙を付けさせて貰た。
「別に…シンになら、いいですよ…?」
「少し、耳を、貸して貰えます…?」
「ああ。」
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25日朝。
「聞いてくださいみなさん!!!昨夜は来ましたよ!!!」
遠くでレーナは周りの人に何か話してるのを見て思わず口角も上げてしまう。周りの人はとても不思議そうな顔をしてるけど。
「サンタさんが来てました!!プレゼントがちゃんと置いてありました!!」
とても楽しそうにそれを話してる彼女があまりにも可愛くてもっと見ていたいのは罪ではないのだろうと思い、そのまま遠くて彼女を見ていた。
ふと肩を叩かれて、自分の隣に立っていたライデンがにやりと笑った。
「お疲れ様ー。大変だな。」
「なにが。」
「お前がすげー朝から出かけてるの目撃してるやつがいるのだぞ。」
「…。」
「なんとか彼女が起きる前に買わないとダメだから。」
「それで?店が開くまでずっと待ってた?」
「ああ。」
「言わなくていいのか。サンタなんて、」
「別に。このままでいい。」
「彼女にはこんな夢くらい見させてもいいと思う。あんなに嬉しいそうだし。」
純粋な彼女には純粋なままで居させて欲しい。
案外サンタなんて存在もそんなに悪くないと初めて思えた。
さて、来年も彼女の専属サンタさんになろう。
と密かにシンは思った。
この時のシンは、今自分がどれほど溺愛で愛おしそうな表情でレーナを見てるのは知る由もなく。