安沖 はろはな後の沖と蘭と安沖(ネタバレあり)「昴さん!」
お見舞いにきてくれたんですねと少女は笑った。彼女はベッドで眠る毛利小五郎の娘で、蘭という。ふだんの闊達さはなりを潜め、肌にやや陰りを見せていた。彼女が病室に詰めてもう五日になる。耳にかけた髪が潤いを失い、ほつれているのを沖矢は見た。
蘭が椅子から立ち上がろうとするのを「ああ、おかまいなく」と沖矢は制した。部屋の隅にある折りたたみ椅子を指さし、承諾を得て蘭の隣に置いて座る。そうすると小五郎の寝顔がはっきりと見えた。全身に巻かれた包帯も。
「せっかくきてくれたのに、お父さんが眠っていてすみません」
小五郎の顔を見つめながら蘭が言った。
「どうしてか麻酔が効かなくて、痛みを紛らわせるには眠るしかないみたいなんです」
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