「とうさま!」
「静かにしなさい、麗仁」
「ごめんなさい…でも、さっきのおひめさまかわいかったです!」
劇場の舞台裏を父親に抱かれて移動する麗仁は、興奮した様子で父親に話しかけていた。
「入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ!……あ、こら!柊!」
「やーだ!おれ外行く!」
「せめて化粧を落としなさい!」
衣装を脱いだだけの状態で楽屋から飛び出してきた柊は、扉の前に立っていた麗仁の父親にぶつかった。
「うわ!…ごめんなさい」
「あ!さっきのおひめさま!」
「え?おれ?」
ぱちぱちと目を瞬かせると、自分よりも低いところにある麗仁の顔を見下ろした。
「おひめさま、かわいかった。」
「…ありがとう。」
「ぼく、おひめさま、すき!」
「え、あ…おれ、男…」
「え?」
柊の言葉に不思議そうに首を傾げると、ニッコリと笑みを浮かべた。
「でも、おひめさま、きれいだった!」
「ありがとう。…お前も、かわいいな。ぶたい出てた?」
「ぼく、まだでてない」
「ぼく、って…男?」
「…?うん。ぼく、おとこ」
「そうなのか!?」
驚いて麗仁の顔を凝視する柊は、すぐに切り替えるとニッと笑顔を浮かべて麗仁の手を握った。
「なまえは?おれ、乙宮柊」
「ぼく、かみきざかれいじ」
「父さん、れいじと遊びに行っていい?」
「とうさま、いいですか?」
「いいけど、化粧を落としてからだ。」
「仕方ないな…迷惑をかけるんじゃないぞ」
「わかった。れいじ、待ってて」
「まってる!」
楽しそうに柊に手を振ると、廊下に置いてある椅子に座り、プラプラと足を揺らして柊を待っていた。
「れいじ、お待たせ!」
「しゅう!とうさま、いってきます」
「気をつけるように。」
「柊、気をつけなさい」
「分かってる!いこ、れいじ!」
「うん!」
手を繋いで出て行くのを見ていた父親たちは、呆れて深いため息を吐いた。
「まったく…申し訳ありません。うちの柊が…」
「いいえ。麗仁も懐いているようですし。子どもだけで遊んでくれるのなら、いいじゃないですか」
「それもそうですね。あの子たちが帰って来るまで、俺たちもゆっくりしてましょう。」