いつぞやのコラボのやつ「敦!早く早く」
溌剌とした声色で敦を呼ぶ和葉とその傍らにいる鏡花。両者共に普段の正装ではなく、季節相応の涼し気な衣服を身に纏っている。
「.......ちょ、二人とも...は、はや.......」
対する敦も、普段の正装ではなく、薄手のシャツにタイトなジーンズ。宛らティーンエイジャーを彷彿させるラフな服装に身を包んでいた。
「それにしても...BBQとは。国木田くんも思い切った事を提案したものね」
「...皆でBBQなんて初めてだから、凄く楽しみ」
「そっか。鏡花は初めてなんだっけ?」
「うん。和葉は違うの?」
「私は...」
不自然に言葉を切る和葉。その顔は何故か青ざめている。
「如何したの?」
「否、思い出したら頭痛くなって来ただけだから、気にしないで大丈夫よ」
額に手をあて、項垂れる和葉に、鏡花が疑問顔をしている最中、二人より少しだけ後ろを歩いていた敦が漸く追い付いた。ヨロヨロとした足通りの敦に、額に当てていた手を今度は腰に当て息を吐いてから和葉が云った。「フラフラのヨレヨレね、敦」
無数の箱を抱え視界を遮断されている敦。自身の背丈よりも高さの有る荷に、何時、脚をもつれさせて転んでもおかしくは無い。危なっかしい状況に和葉がほんの少し目を見開いたのと「荷物、重い?大丈夫?」そう鏡花が口を開いたのはほぼ同時の事だった。
「だい、じょう、ぶ!」
一生懸命にバランスを取りながら答える敦。
「こんな重たいものを鏡花ちゃん達に持たせるわけにはいかないから」
「無理はしないで」
「心配してくれて有難う鏡花ちゃん」
敦はヨレヨレとした足取りを一度止めてから、鏡花へと笑みを向けた。微笑み合う敦と鏡花。仲睦まじい兄妹の様にも見える2人を黙って見ていた和葉はその光景に頬の筋肉を少しだけ緩めながら、敦の抱えた箱の内、1番上に積んであった物をひょいっと持ち上げた。
「和葉さん?」
「敦の男気は買ってあげる。だけど、社の先輩に無理をさせるのは後輩としては不本意だから、之は私が持つわね」
「.......其れなら、私も」
和葉の言葉に、敦の抱える箱を一つ取り去る鏡花。和葉と鏡花が荷を取り去ったお陰で視界が開けた敦は自分に向けられた温かい気遣いにへにゃっと顔を綻ばせ、云った。
「先輩思いの後輩が沢山居て僕は幸せ者だなあ」