薫の、笑顔が好きだ。
スケートをしている時の……特に、愛抱夢と滑るようになってからの薫は、それまでとは比べ物にならないくらい笑顔が輝いて見える。邪気のない笑顔は、普段やたらと大人びて見える薫を、その時だけ年相応に見せた。
そういう顔を見ると、少し安心する。少なくとも、今の薫は精神的に安定しているように見えた。
薫がやたらと荒れたのはたしか中学の頃からだ。何かある度にピアスの穴が増えていく。はじめは柔らかな耳垂の辺りにいくつか。ゲージの数字を減らしていくのを止めると、ひどく不機嫌になりながら今度は耳輪や軟骨が犠牲になった。
桜屋敷では許されない振る舞いに、親と衝突して真夜中うろついてた薫を拾って俺の部屋へ連れ帰ったことは一度や二度じゃない。なんなら見目と外面の良さだけはピカイチのこの男を連れて帰ると、すっかり篭絡された家族によって夕飯が少し豪華になった。
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