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    aoi120810

    @aoi120810

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    aoi120810

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    別冊ことつむ様に提出した作品となります。
    当図書館独自設定の仲良しぶら+しがでだん+しがメインの内容です。
    檀さんが転生後、志賀さんと仲良くなるまで。
    少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

    ##文アル

    繋がりは縁を結ぶ「 !早く早くっ!!」
    「分かったから、そんなに引っ張るなって!それに司書、だったよな?アイツは良いのか?」
    「良いの!それよりも、 の事を早くアイツに紹介したいんだってば!」
    「アイツって誰なんだ……って  !人の話を聞いてくれよ」

    厨房に立っていた志賀は、廊下からバタバタと数人の足音と会話が耳に届く。
    あまりに慌ただしさを象徴していた為、何かあったのか?と考えたのだが、声の主の一人が太宰である事に志賀は気付いた。
    そして無頼派で太宰や安吾の旧友である檀 一雄の”火宅の人”が有碍書となり、中也と心平とともに潜書している事を思い出す。

    (太宰のヤツ、あんなに慌てて。まさか、何かあったのか?いや、あの口振りからしてそうじゃなさそうだけど)

    気になった志賀は一旦コンロの火を止め、厨房から飛び出して食堂の出入り口で顔を出したのだが、ドン!と誰かとぶつかり、その衝撃の反動で身体が傾いてしまった。

    「おわっ!?」
    「「「志賀(センセ)!?」」」

    咄嗟の出来事で踏ん張れなかった志賀は、重力に従って食堂の床に倒れ込む覚悟でキュッと目を瞑る。
    ひとまず、受け身を取って衝撃を最小限にしようと思った志賀であったが、いつまで経っても痛みは襲って来なかった為、ゆっくりと開眼してみると彼の視界に広がったのは見慣れない顔。

    「あの、大丈夫ですか?」
    「あ、あぁ、大丈夫だ。わりぃ、助かったよ」

    誰だ?という疑問が浮上したものの、自身の身体を支えて貰っている事に対する申し訳無さが勝り、感謝を口にして謎の人物から離れる。
    するとそいつは小さく溜め息を吐くと、太宰に視線を向けた。

    「ったく、太宰が前も見ずに猪突猛進に走るからそんな事になったんだぞ」
    「うぅ、それは悪かったと思ってるよ。ごめんな志賀~」
    「いや、大丈夫だ。でも、そいつの言う通りだぞ。今度から気を付けろよな」
    「だから、ごめんってば!だって早く、志賀に伝えたかったんだもん」
    「はっ?何を?」

    首を傾げた志賀に太宰は謎の人物の腕を引くと、華が咲いたような笑顔で告げる。

    「俺の大事な友人だから、志賀に一番に紹介したかったの!コイツ、檀って言うんだ!やっと図書館に来てくれたんだよ」
    「お、おう。良かったな」
    「ちなみに俺、頑張ったんだよ!だから志賀、褒めて褒めて!」

    表情がコロコロ変わる太宰は、いつものように志賀に飛び付かんばかりの勢いで捲し立てた。
    そして友人との再会による嬉しさを表情に出し、有碍書を浄化した事へのご褒美で頭を撫でて欲しいと訴える。

    「ねぇ志賀~!俺、頑張ったんだってばぁ~」

    いつもの調子である太宰に苦笑した志賀は慣れた手付きで頭を撫でていたが、後ろに控えていた安吾と織田が互いの顔を見合わせた後、羨ましそうに近付いて来た。

    「おい志賀、俺も頑張ったんだぜ?太宰だけ、贔屓にするなよ」
    「そうでっせ志賀センセ。太宰クンだけ、ずるいで」
    「お、おう?それもそう……だな?」

    まずは説明しろよと思った志賀であったが、いつものように太宰贔屓に不満を漏らした安吾と織田の言葉を聞き、語尾に疑問符を付けながらも反射的に二人の頭を撫でてしまっていた。
    いや、慣れというのは恐ろしいものである。

    「ん?ちょっと待てよ。おい太宰、檀って言ったよな?」
    「そうだよ!それがどうしたの?」
    「じゃねぇだろう。司書と……」

    そこまで言うとすぐ、司書が息を切らしながら食堂に駆け付けて来た。
    彼女の後ろには、同じく潜書していた中也と心平も居る。

    「だ、太宰先生!坂口先生に織田先生も!急に、檀先生を連れ出さないで下さい!まだ、何も説明していないんですよ!?」
    「まったくだぜ。まぁ、テメェらの事だからどうせ志賀に逢わせたいって思ったんだろう?」
    「気持ちは分かるけど、勝手な行動をしちゃ駄目じゃないかな?」
    「……おい、それは本当か?」

    三人の言葉に志賀は太宰・安吾・織田を交互に見るが、三人はバツが悪そうに視線を逸らすだけ。
    これには流石の志賀も呆れた様子で溜め息を吐いた後、両腕を組む。

    「……前後撤回だ。太宰、坂口、オダサク。お前達、何やってんだ!」
    「うぅ~そんなに怒らないでよぉ」
    「太宰の言う通りだ。ジジイは短気で困るぜ」
    「あっ安吾!そら禁句やで!」
    「ほぉ、そんな事を言うとは良い度胸だな?」

    鬼の形相になりかけている志賀に言い訳をしようとしたが、時すでに遅し。

    「全員、そこに正座しろ!お説教だ!!」

    すっかり三人の父親のような存在となって志賀の言葉に逆らう事は出来ず、見かねた司書が制止に入るまでお説教は続くのであった。


    …………
    ………
    ……


    檀が現世に転生して、一週間が経過する。
    明日、無頼派が全員休日という事もあり、安吾の部屋で鍋を突きながら酒盛りをしていた。
    すっかり織田とも仲良くなり、図書館での生活にも少しずつ慣れてきた檀であったが、酒の入ったグラスを片手に小さく溜め息を零してしまう。

    「……はぁ、どうしたもんかな」
    「えっ?なに?どうしたの?檀が溜め息を吐くなんて、珍しいね」
    「あっ太宰、聞いてたのか」
    「そりゃあ、一緒に酒盛りしてるんだから当然だろう。で、アンタが神妙な顔をするなんてどうしたんだ?」
    「いや、ちょっと気になる事があってな」
    「悩み事でもあるんか?ワシらで良かったら、話しを聞くで」

    酔いもそこそこで、仲間を想っての発言に檀も心が軽くなり、重い口を静かに開いた。

    「志賀さんの事……なんだけど」
    「「「えっ?志賀(センセ)??」」」

    意外な人物の名前に、太宰達は首を傾げる。

    「志賀がどうしたの?何かあった?」
    「何かあった……というわけじゃないんだ。ただその、志賀さんに避けられてるような気がしてさ」
    「はぁ?志賀が檀を避ける?アイツがそんな事、するわけねぇだろう」
    「安吾の言う通りや。志賀センセに限って、理由も無うそんな事をするとは思わへんけどな」

    安吾と織田の言葉に、檀は転生してからずっと気になっていた疑問をぶつけてみる。

    「あのさ、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
    「ん?なに?」
    「食堂でのやり取りからずっと思ってたんだけど、志賀さんと仲が良いんだな」
    「そりゃあそうだよ!だって志賀は俺達にとってお兄ちゃん……いや、お父さんだからな!」

    えっへんとドヤ顔で即答する太宰に、檀は「そうか」と返すだけ。
    そんな檀の様子に安吾が声を掛けようとした時、おもむろに太宰が名案と言わんばかりに立ち上がる。

    「そうだ!せっかくだし、志賀も連れて来て良い?」
    「えっ?志賀さんを?」
    「そら名案やな!最近、誘うても断られる事が多いし。ええ加減、構うて貰わな泣き出すさかいな。太宰クンが」
    「なんで俺だけなんだよ!そこまで子どもじゃなーい!!」
    「いや、子どもだろう。こないだ、雷が鳴って怖かったからって志賀の部屋に行って……」
    「うわあぁぁぁ!それは言わないで!って、なんで安吾が知ってんだよぉ~」

    しかも子どものように抱き着いて、志賀に添い寝をして貰った事を明かした安吾に、オダサクはケラケラと笑っていた。
    安吾も当時の事を思い出し、ニヤニヤしている。
    そんな二人の反応に、太宰は顔を真っ赤にしながら安吾をポコポコと叩いていたが、すぐに「いいもん!志賀に言い付けてやるんだからぁ!!」と部屋を飛び出してしまった。

    「ああいうところが、子どもだって気付いていないんだろうな」
    「まぁ、それを分かっとって太宰くんを甘やかす、志賀センセも悪い思うけどな」
    「確かにな。だから俺達に、親父なんて言われるんだよ」

    すっかり蚊帳の外になって檀は、さらに困惑するばかり。
    しばらくは静かに酒を飲んでいたが、安吾と織田の会話が途切れた事に気付き、二人に視線を向けると畳の上で寝息を立てる姿があった。

    「まったく……二人して、気持ち良さそうに眠ってるな。飲み過ぎるからだぞ。しかし太宰のヤツ、遅いな」

    安吾と織田と同じで酔っていた太宰の事を心配しつつ、片付けを始めようと立ち上がる。
    そんな時、廊下から太宰と志賀の声が聞こえたかと思えば、すぐに部屋のドアが開いた。

    「邪魔するぜ。って、坂口とオダサクは寝てんのか。どうせ飲み過ぎたんだろう」
    「あっ志賀さん」
    「おっ檀か。わりぃな、楽しんでいる時に押し掛けちまって」

    檀に挨拶をした志賀は、部屋の光景を見て溜め息を吐くも、錘のようにピッタリとくっ付いている太宰の声に掻き消されてしまう。

    「志賀~安吾とオダサクってば、酷いんだよぉ」
    「あー分かった。それより太宰、いい加減離れろ」
    「……う、うわぁぁん!志賀が怒った~!!」
    「怒ってねぇよ。ほら、太宰が離れてくれないと部屋に入れないだろう?」

    癇癪を起こして泣き出した太宰に動じる事なく、志賀は子どもをあやすように優しく言葉を掛けていた。

    「うー……ぐすっ。俺の事、嫌いになってない?」
    「なってない。だから少しだけ、離れてくれよ。ここを片付けないと、明日が大変だからな」
    「う、うん。俺も手伝う」
    「いや、アンタも寝てろ。顔が真っ赤だし、限界なんだろう?片付けは俺がしてやるから」

    太宰は渋っていたが、埒が明かないと志賀は彼をひょいと抱き上げた後、織田の隣にそっと下ろす。
    だが、まだ離れたくなかったのか太宰は志賀の袖をクイッと掴み、上目遣いで見上げた。

    「志賀~……俺が起きるまで、勝手に居なくならないで」
    「ったく、分かったよ。だから安心して、寝ろ」

    太宰の頭をくしゃりと撫でれば、志賀の言葉に安心したのかふにゃりと表情を緩めると、すぐに寝息を立て始める。

    「やっと寝たな。檀、アンタは大丈夫か?」
    「え、えぇ。俺はそこまで酒を飲んでないので、大丈夫です」
    「そうか。でも、ここでの生活はまだ慣れないだろう?片付けは俺がするから、アンタも部屋で休め」

    普段から、三人の世話を焼いている事が志賀の口振りからしてすぐに理解出来た。
    自身の事を気遣ってくれる志賀に面を食らったが、ハッとした檀は首を横に振る。

    「いえ、俺が片付けますから志賀さんこそ部屋に戻って下さい」
    「そいつは無理だな。さっき、太宰と約束しちまったしよ。このまま部屋に帰ると、コイツが目を覚ました時に色々とうるさいからさ。だから気にせず、アンタは帰れ」
    「そ、そういうわけにはいきませんよ!志賀さんにご迷惑を掛けるなんて……!!」

    まったく引き下がらない檀に志賀は観念したのか、それじゃあ……と一つの提案をした。

    「じゃあ、一緒に片付けるか。その方が早く終わるし」
    「……はい!」

    志賀との距離を計りかねていた檀は、彼の提案にホッと胸を撫で下ろす。
    変わらず申し訳無い気持ちはあったものの、志賀の手際の良さに片付けはすぐに終了し、兄弟のように寄り添う三人を見つめながら彼らは思わず笑みを零し合った。

    「俺達の苦労も知らないで、コイツらは……」
    「本当に申し訳ないです。太宰が飛び出した時、俺が止めていたらこんな事には」
    「だから、アンタは気にするなって。こういうの、いつもの事なんだよ。すっかり慣れちまったし、コイツらの世話を焼くのも当たり前になってるから大丈夫だ」

    呆れ顔で告げながらも、彼らを見つめる視線はとても優しい。
    だから檀は、いい機会だからと思い切って志賀にある事を尋ねた。

    「あの志賀さん、失礼を承知で聞きたい事があるんですけど」
    「なんだ?」
    「図書館に転生してから、避けられているような気がしてたんです。俺、あなたに何かしましたか?」

    思わず正座となり、真剣な眼差しを向けた檀に志賀は目を丸くする。
    だが、当の本人は心臓がバクバクと音を立てて緊張している程、ずっと気がかりとなっていた事だ。
    しかもその対象が自分だけである事は明白で、真剣に悩んでいたのだから。

    「あ、あの!ハッキリ言って頂ければすぐに治しますので、教えて欲しいんですが」

    太宰達が慕っている人だからこそ、檀もまた志賀と彼らと同じように交流を持ちたいと考えている。
    だからこそ、せっかくのチャンスを無駄にはしたくない。
    しばらく沈黙が流れていたが、志賀はバツの悪そうな顔をすると最初に謝罪の言葉を口にした。

    「わりぃ、そういうつもりじゃなかったんだ」
    「えっ?」
    「俺は別に、檀の事が嫌いだから避けてたわけじゃねぇんだ。太宰達に料理上手だって聞いてたから、一緒に厨房に立てたら楽しいだろうなって考えていたくらいだぜ」
    「そうだったんですか、良かったです。でも、避けていたのは事実なんですね……」

    しゅんとする檀に志賀は慌て、自身の気持ちを伝える。

    「違うんだ!ほら、アンタは太宰と友人だろう?だから俺とアイツの生前の事は、知ってるよな?」
    「え、えぇ、それは……でも今は、良好な関係を築いているから安心しろってアイツらが言ってたので、俺は特に気にしていませんよ。もしかして、その事が関係していたんですか?」
    「まぁな。後は、せっかく再会を果たしたのに俺が一緒だと邪魔になると思ったからなんだ」
    「えっ?」

    太宰達はともかく、檀は生前の関係しか知らない。
    だから最初は戸惑うと思ったし、太宰や安吾と生前のように過ごせるようになったというところに部外者である自分が入り込んだら、檀はどう思うだろうか?と考えたそうだ。
    自身の立場を理解している志賀はせめて、檀が図書館の生活に慣れるまでは無頼派と少しだけ距離を置き、見守った方が得策だと思ったらしい。

    「だけどアイツら、いつもと変わらねぇし……少しは檀の事も考えろよって思ったが、あまり露骨に言うと太宰がうるさいからな」
    「それは……今のやりとりを見ていたら、何となくですが分かります」
    「だからその……なんか悪かったな。アンタがまさか、俺の事で悩んでるなんて知らなくて。ちゃんと、言葉にしておけば良かったな」
    「いえ。むしろ、理由が分かって安心しました。でも志賀さん、転生初日に俺の目の前でお説教してたんですから気にしなくて良かったんですけどね」

    その時の志賀さん、コイツらが言ってた通り、お父さんみたいで面白かったです。
    檀が当時の事を思い出して笑いながら言うと、志賀はムッとした表情を浮かべていた。

    「俺はコイツらの父親じゃねぇよ。それも、太宰や武者達が勝手に言ってるだけなんだが」
    「でも、お説教はするしこうして面倒は見るじゃないですか。雷が鳴って、泣き付いてきた太宰の添い寝までしてあげたんでしょう?」
    「いや、だから……って、なんでアンタがその事を知ってんだ」

    ハァッと溜め息を吐く志賀であったが、檀はそんな彼に好感を持たずにはいられない。

    (俺に気遣ってくれたり、太宰や安吾の面倒を見てくれる。潜書の時はリーダー的存在で、手の届かない存在だと思ってたのに。小説の神様なんて呼ばれているから、どんな人かと身構えたけど)

    ただの面倒見の良い父親みたいな人だなんて一体、誰が想像しただろうか?

    「ふふっ。俺、志賀さんと仲良くなれそうな気がします」
    「そ、そうか?そいつは良かった……んだよな?」
    「どうして疑問系なんですか。そこは断言して下さいよ。同じ、料理仲間にもなるんですから」

    不意打ちであったが志賀の心情を知る事ができ、こうして誤解も解けたのだ。
    共通の趣味を持っている事は、距離を縮めるには有り難い。
    太宰や安吾達が志賀を慕う理由を知ってしまった以上、同じ無頼派としてその輪に加わりたい気持ちはさらに大きくなっていた。

    「それにしても、コイツら朝まで起きねぇよな。ここに居るって言った以上、部屋に帰るわけにはいかねぇし」
    「本当、うちの太宰が我が儘を言って申し訳ないです」
    「だから、檀が謝るなってぇの。それに俺も明日、休みだから気にするな。でも暇だし、坂口の部屋の掃除でもするか」

    腕まくりをし、本気で掃除を始めようとする志賀を檀が制止する。

    「志賀さん、待って下さい。あの、お願いがあるんですけど」
    「ん?なんだ?」
    「片付けを手伝ってくれたお礼に、今から俺に何か作らせて頂けませんか?」
    「えっ?良いのか?」
    「はい。時間帯があれなので、簡単な物しか作れないと思うんですが……」

    檀がそう尋ねると、志賀は二カッと笑って頭に手を伸ばしてくしゃくしゃと撫でながら告げた。

    「駄目なわけ、ないだろう?太宰達がアンタの料理の腕を絶賛して、ずっと気になっていたんだ。せっかくのお誘い、断るなんて勿体ないだろう?楽しみにしてるぜ」

    あぁ、太宰達の気持ちが何となくだけど檀は理解してしまう。

    (これは、志賀さんに甘えてしまうのも無理ないな。本当、天然って恐ろしい)

    これが志賀の懐の深さなのだろうと納得しつつ、三人が寝入っている事を確認した後、そっとドアを閉めて二人で食堂に向かうのであった。

    それから月日は流れ――――

    「あっ志賀さん、お疲れ様です。何を作っているんですか?」
    「檀か、お疲れさん。いや、武者から野菜を貰ってよ。こんなにたくさんあるし、天ぷらにしようかと思ってるんだが」
    「へぇ、いいですね!」
    「でも、量が多いんだ。だから、他にも作るか迷っているんだが」

    うーんと顎に手を当てて考え込む志賀に、背後からひょこっと顔を出した檀は並べられた野菜を見て提案した。

    「なるほど。じゃあ俺にも、手伝わせて下さい。今、手が空いてるので」
    「そいつは助かる。って、潜書から戻って来たばかりじゃねぇのか?補修はしたんだろうな?」

    最初は檀の提案に快く応じたものの、午前が潜書だという事を思い出し、心配する言葉を口にし始める。
    しかし檀はクスッと笑みを零すだけで何も言わない為、本格的に心配になってしまったようだ。

    「おい檀、ちゃんと補修は受けろよな。じゃないと、手伝いはさせねぇぞ」
    「大丈夫ですよ、俺はこの通り無傷です。ただこうして、あなたが心配してくれる事が嬉しくてつい」
    「あ?あまり心配掛けんなよ。俺は主に太宰の世話で忙しいんだからな。無頼派で唯一、手の掛からない同志を見付けて安心してんだからよ。檀まで、あの中に入らないでくれると助かるんだが」

    檀が志賀と仲良くなってからと言うもの、太宰達の甘えに拍車が掛かった事により苦労が増えたらしい。
    それでも文句を言いながら、甲斐甲斐しく世話を焼いている志賀も志賀である。

    「でも、本当に大丈夫なんだよな?アンタ、オダサクと一緒でここぞって時に不調を隠しそうだから心配だ」
    「本当に問題ありませんよ。それに隠したところで、あなたにはすぐに気付かれるでしょうからね」

    だって無頼派の父親的存在ですし?とそっと耳元で檀が囁くと、志賀は心底嫌そうな表情を見せた。

    「だからそれ、マジで止めろ。何度言えば分かるんだ?」
    「でも、事実でしょう?俺があなたと打ち解けてからは”子どもが増えたんだね。良かったね”って言われるようになったの、知っているんですから」
    「……マジで止めてくれ、思い出したくもねぇわ」

    ゲッソリとする志賀にプッと吹き出した檀を、彼はキッと睨み付ける。
    それでも怖くない為、檀は笑いを堪えきれず声を出して笑い出した。

    「檀、アンタなぁ!笑ってる暇があったらさっさとエプロンして、手伝いやがれ!」

    ボスンと投げられたエプロンを軽々と受け取った檀は、どこか子どもっぽく拗ねている志賀を見て笑みを浮かべずにはいられない。

    (だってあの日、こうして初めて厨房に立ってからずっと……あなたの新たな一面を見る事が出来て、嬉しいんですから)

    それに理由が理由とはいえ、自身を仲間外れにした罪は重いのだ。
    志賀の力になるつもりではあるが、いざという時は年下の特権で太宰達にように甘やかして貰おう。
    勿論、自身の思惑を志賀に悟られないように檀は平常心を装い、彼と肩を並べて料理に取り掛かるのであった。


    「なんかさ、二人が仲良くなってくれたのは嬉しいんだけど……取られたみたいで嫌だ!」
    「あ?ちなみに、どっちに嫉妬してんだ?」
    「志賀を檀に取られたみたいで、なんか嫌なの!」
    「まさかのそっちか。親友を取られたさかいでは無う、パパさんを取られた嫉妬とは……太宰クンも大きゅう出るようになったな」
    「だ、だってぇ~二人だって、そう思わない?いや、良い事なんだけどさぁ」

    そういうつもりはなくても、料理好きと世話焼きという共通点から二人の世界に入る事が多い為、流石の太宰も不満そうにしている。
    かなり面白くなさそうで、恨めしそうに二人……いや、檀を見ていた。

    「じゃあ太宰も、アイツら並みに料理が出来るようになれば良いんじゃねぇの?」
    「うぅ~無理ぃ」
    「それか志賀センセに甘えへんよう、もっと大人になる努力をするんは?」
    「それはもっと、無理だよぉぉぉ」

    どちらの提案にも即座に否定した太宰に、二人は白旗を揚げるように言葉を返す。

    「だったら諦めるんだな」
    「ワシも安吾の意見に賛成やな」
    「二人とも酷いぃぃぃ~!!」

    テーブルに顔を伏せていた太宰であったが、楽しそうに談笑する二人に幼児返りスイッチが入ってしまい、志賀の名前を叫びながら厨房に突進をし、揚げ物を作っていた事で「あぶねぇだろう!」と叱られる姿が目撃されたとかされなかったとか。
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