Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    aoi120810

    @aoi120810

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 2

    aoi120810

    ☆quiet follow

    開催おめでとうございます!
    『言葉紡ギテ縁ト成ス弐』の提出作品となります。
    モブ視点でぶらしが小説です。
    少しでもお楽しみ頂けたら嬉しいです!

    #ぶらしが
    #おだしが
    dashi
    #あんしが
    darkPicture
    #だざしが
    drapery
    #だんしが
    watercolorPainting

    小説の神様は彼らの愛に気付かない01.浪速イケメンは、逆ナン女子を牽制する02.眼鏡イケメンのお仕置きは、とにかく刺激が強すぎる03.常連イケメンは、重すぎる愛で包みたい04.紳士イケメンは、あなた以外は眼中にない05.小説の神様は、四人のイケメンに愛されている01.浪速イケメンは、逆ナン女子を牽制する
    ある週末の昼下がり。
    友人や家族連れ、カップルで溢れている帝都の中心街の一角で私は、大学の学部が同じである親友が来るのを待っていた。
    お互いにバイト代が入り、懐が温かくなったからとこの近くにオープンしたカフェに行き、パンケーキを食べようという話しになったのである。

    (待っている間、推しが声優をやっているアプリをしようっと)
    私がスマホを手に持ち、親友が到着する間まで暇潰しにゲームアプリを開いていると、ある事に気付いた。

    (ん?なんか騒がしいな)
    顔を上げると、待ち合わせの定番となっている噴水の周辺が一段と騒がしい事を知る。
    人混みの多い中、耳を澄ませてみると噴水を通り過ぎる女性達が「あの人、めっちゃ格好良くない?」や「一人で居るみたいだし、声を掛けてみない?」や「でも、彼女と待ち合わせをしているのかも」と「そうだよね」ヒソヒソと話している声が届いた。
    私も好奇心に負けて顔を上げれば、女性達の視線を釘付けにするイケメンが一人、噴水の近くにあるベンチに腰を掛け、本を読んでいる姿が目に入る。

    (うわぁ、絵になるってこういう事なんだな。身長は高いし、顔立ちも非常に良い。まさに好青年って感じじゃん)
    それだけでは無く、ペリドットの瞳はまるで宝石のように色づいており、ほんのり赤みのある目元も彼の魅力を引き立てていた。
    これは、ここに居る女性達がヒソヒソと騒ぐのも無理はないだろう。
    あれほどのイケメンだ、声を掛けたくてウズウズしている人も居るみたいだけど、この噴水はカップルが待ち合わせに使う名所と言われていた。
    つまり、彼女と待ち合わせをしている可能性が高いと誰もが思っているだろう。

    (まぁ、そうだよね。私もあんなイケメン、見た事ないし。彼女が居ない方がおかしいか)
    かく言う私も、彼女達と同じ事を考えていた。
    アプリの連絡ツールで友人から、少し遅れてやって来ると連絡が入ったし、あわよくば青年の彼女の顔を拝めるかもしれないと期待が込み上げてくる。
    平常心を装いつつ、早く彼女が来てくれないかな?と逸る気持ちを抑えながら青年を見ていると、派手な服装を纏う女性二人が、青年に近付いた。

    「あのぉ~お兄さん、お一人ですか?」
    「ん?あぁ、そうだが」
    「そうなんですね!ラッキーだったわ。もし良かったら、私達とお茶でもしませんか?新しくオープンしたスイーツ専門店が近くにあるんですよぉ。一緒に行きません?」
    甘ったるい声を出し、青年を逆ナンする女性二人はまさしく勇者である。
    彼女達の行動にほんの一瞬だけ、周りがざわついた。
    しかし、青年の返答が気になってしまったのだろう。
    すぐに大人しくなり、彼がどのような返答をするのだろうか?と固唾を呑んで見守っていた。
    すると青年は目をパチパチとさせた後、申し訳無さそうに口を開く。

    「あ~わりぃな。せっかくの誘いで申し訳ねぇけど俺、人を待ってるんだ」
    「えぇ~?もしかして、彼女さんですか?」
    おぉ、よくぞ聞いてくれたと誰もが勇者に拍手喝采を心の中で送る中、青年は首を横に振った。

    「いや、なんて言ったら良いのかな?会社の同僚ってヤツ?」
    「なるほど、会社の同僚さんなんですね。ちなみにお相手は、女性ですか?」
    「ん?俺と同じ同性だが……」
    その言葉を聞き、逆ナンをした女性二人から黄色い声が上がり、青年に期待の眼差しを向ける。
    あわよくば青年と会社の同僚さんと一緒に、デートが出来るという魂胆があるようだ。
    逆ナンが成功すると思った一人が青年の隣に腰を下ろし、豊満な胸を密着させながら上目遣いで呟く。

    「じゃあ、その同僚さんも私達と一緒に「あっ志賀センセ、ここにおってん」
    その女性の声を遮ったのは、三つ編みで綺麗な髪を束ねている志賀さんと同じイケメンの青年だった。
    志賀さんは青年の存在に気付くと、すぐに表情を緩める。

    「おっ、織田作!もしかして、俺の事を探したか?ここなら、分かりやすいと思ったんだけど」
    「いえ、そんな事はあれへん。それよりすんまへん、お待たせしてもうて」
    「待ってねぇから安心しろ。それより、アイツらは一緒じゃないのか?」
    「太宰クン達は別のところで待ってるんや。ワシらが揃うと、色々と大変やさかいな」
    織田作さんはそう返答するなり、志賀さんを逆ナンしていた女性達にチラリと視線を向けた。
    だがほんの一瞬で、すぐに志賀さんに視線を戻すと小さく溜め息を零す。

    「なんだよ、溜め息なんか吐いて」
    「気にせえへんで。それより志賀センセ、ワシらとの約束を覚えてる?」
    「約束?あっ……」
    「やっぱ、忘れとったんやな。ワシ、志賀センセに口を酸っぱして言うたやんな?くれぐれも、約束した時間よりも早う、待ち合わせ場所に行かんとって。志賀センセも”おう、分かってる”って笑顔で返しとった筈やんな?」
    両腕を組み、厳しい視線を向ける織田作さんに志賀さんは苦笑しながら謝罪を口にした。

    「悪かったって。だけど俺もアンタらと出掛けるの、楽しみにしてたんだ。だから、時間に間に合わなかったら嫌だったんだよ」
    「はぁ……それ、太宰クン達にも言うたってな。喜ぶさかい」
    まるで二人の世界に入っているかのように、女性達は蚊帳の外状態で話しが進んで行く。
    ぽかんとしている女性達に織田作さんはほくそ笑むと、志賀さんにスッと手を差し伸べた。

    「ひとまんと、この事は彼らに報告するとして……志賀センセ、行きまひょか」
    「おうっ!」
    織田作さんの手を躊躇なく取った志賀さんは、ベンチから立ち上がる。
    そして女性の身体から解放された志賀さんの腰に、織田作さんの細くて長い腕が回った。
    そのまま、志賀さんの細腰を織田作さんがグッと引き寄せる。

    「「「えっ!!??」」」
    彼の思わぬ行動に、私と逆ナンをしていた女性達の声が重なった。
    周りに居た女性達も驚愕し、ざわつき始めたのだが二人は気にする素振りを見せない。

    「おい織田作、これじゃあ歩きづれぇよ」
    「諦めるんやな。こうでもせえへんと志賀センセ、声を掛けられるさかい」
    「えっ??」
    首を傾げた志賀さんに、織田作さんは「やっぱ気付いてへんかった、この鈍感」と小さく呟いていた。
    どうやらと言うかやはりと言うか、逆ナンされた事に気付いていなかったらしい。

    「こうなる思たさかい、嫌やったんです。こうして、待ち合わせすんの」
    「ん~……何が嫌だったのかは分かんねぇけど、一回やってみたかったんだよ。それに今日は、アンタらと何をしようか考えられる時間も持てるし、俺は楽しかったぜ」
    「……まぁ、その言葉を聞けただけで良しとしまひょ。それより」
    織田作さんは女性達にチラリと視線を向けると、ニィッと口角を上げる。
    一体、何をするのか?とドキドキしていた私や外野の女性達は、織田作さんの行動に度肝を抜かれる事となる。
    腰に腕を回したまま、右手で志賀さんの藍色の横髪を優しく掻き上げた後、白い頬に顔を寄せてチュッと口付けを落としたのだ。

    「「っ!!??」」
    (なっ!?お、織田作さん!!??)
    「堪忍な、お嬢さん方。この人は、ワシのモンなんや。そやさかい、諦めてや」
    悪戯っぽく微笑んだ織田作さんは、志賀さんをエスコートしながら噴水を離れて行く。
    私は勿論、逆ナンをした二人と外野の女性達は一瞬で固まった。

    (………えっ?今、頬にキスをした、よね?しかも”俺のモン”って。つ、つまり、織田作さんと志賀さんはそういう関係って事!!??)
    私は思わず、両手で顔を覆う。
    思い起こせば、女性に逆ナンされていた志賀さんを見て、織田作さんは怒っていた。
    それって、自分の恋人が異性に声を掛けられた事に嫉妬した……って事だよね?
    瞬間、先程の光景が脳裏に浮かんでしまい、私の顔が熱くなるのが分かった。

    「あっごめん!電車が遅れてさ……って、どうしたの?顔、真っ赤だよ?」
    「あぁ……ど、どうしよう私、新たな扉を開いてしまったのかもしれない!あわわっ!も、もうッ!!」
    遅れてやって来た友人は、私の様子に首を傾げる。

    「えっ?ごめん、意味が分からないから説明してくれない?」
    だが私が口をパクパクさせながら、先程の光景を思い出しては顔を覆うを繰り返し、落ち着きを取り戻すまで友人に怪訝そうな顔で心配されるのであった。

    02.眼鏡イケメンのお仕置きは、とにかく刺激が強すぎる
    「悪い、待たせた」
    「そこまで待ってねぇよ。それより、噴水の方が騒がしいな」
    「確かに。それより、早く行こうぜ。バイト代入ったし、俺も何か買おうっかな」
    友人の言葉に俺も「そうだな」と返し、二人で目的のアパレルショップに向かう為、足を進めた時である。

    「織田作と志賀、遅いね」
    「ったく、志賀の事だから女に声を掛けられてんじゃねぇの?」
    「あの人なら、有り得そうだ。だから待ち合わせをするの、嫌だったんだよな」
    「だから織田作が代表して、様子を見に行ったんだろう?」
    「まぁ織田作なら、そういうヤツらを牽制してくれるから大丈夫じゃない?」
    「そういう事に関しては、織田作に任せておくと安心だもんな」
    俺達の年齢は変わらない、だが顔立ちがこれまた非常に良い青年三人が視界に入った。
    会話の内容からして、誰かを待っているようであるが、三人のイケメンが週末で人が多い帝都の中心街に立ってみろ。
    ここに居る女性は勿論、同性からも注目の的になってしまうだろう。
    俺達の周りに居た女性達も彼らを見て「やだぁ、あの三人格好良い」や「せっかくだし、声を掛けてみる?」や「でも、レベル高すぎて無理だよね」と小さな声で話していた。

    「すげぇ。あんなイケメン、俺達の会社でも居ねぇよな」
    「確かに。でも、あんなに顔立ちが良いヤツが会社に居たらある意味、大変だよな」
    「仕事にならなさそうだよな。あの人達、芸能人じゃねぇの?でも、あんなにイケメンならテレビに出てるよな?」
    「じゃあ、雑誌のモデルとかやってるとか?ブランドの専属モデルとかやれそうじゃねぇ?」
    「あー有り得そうだわ。でもさ、誰を待っているのか気にならねぇ?」
    「そうだな。ちょっとだけ、志賀さんが現れるのを待ってみるか」
    そして俺達が待っていると、あまり時間が経たない内に彼らの元に二人の青年がやって来る。

    「あっ!織田作~志賀~!こっちこっち!」
    「堪忍な、遅なった」
    「まったくだ。織田作、なんで遅かったんだよ」
    「あー……それはなぁ。言わんでも、分かるやろう?」
    「「「あー……やっぱりな」」」
    いやアンタら、何を普通に会話してんの?
    よく見てみなよ、織田作くんが志賀さんの腰を引き寄せてやって来たんだぞ?
    確かに織田作は志賀より身長は高いけどさ、同性が同性をエスコートしてるってどういう事?
    まぁ絵になる光景で違和感はないんだけど、一体何がどうなってるんだ?
    混乱する俺と友人、外野達を余所に織田作は苦笑しながら口を開く。

    「しかも志賀センセ、逆ナンされてる事に気付いてへんかった」
    「はぁ!?もう、志賀の馬鹿~!!」
    「マジかよ。だから、一人にするの嫌だったんだ」
    「織田作が居なかったら今頃、どうなってた事か……」
    織田作くんの言葉に、三人が一斉に額を押さえて難しい顔をした後、溜め息を零した。
    どうやら志賀さんが、女に声を掛けられるのは日常茶飯らしい。

    「おいアンタら、さっきから何を言ってるんだよ?俺、約束の時間を破ったわけじゃ無いだろう?」
    「それはそうだけどさぁ~じゃなくて!約束の時間まで、まだ三十分もあるんだけど!?なんでギリギリに来てくれないの!?」
    「太宰の言う通りだ。こうなると思ったから、図書館から一緒に行くって言ったのによ。やっぱり、約束を破ったな?」
    眼鏡を掛けたイケメンが、志賀さんの顎に指を添えるとクイッと掬い上げる。
    そのまま、その端正な顔立ちを近付けて……じゃなくて、アンタこんな大勢の前で何をやってんだ!!

    「坂口、そんなに怒る事ないじゃないか」
    「怒るに決まってんだろう?アンタ、自分が他人をどれだけ魅了するか分かってねぇよな?」
    「魅了?はっ?おかしな事を言うなぁ、坂口は」
    「……駄目だ、まったく分かってない。これは、お仕置きが必要だな」
    盛大な溜め息を零し、眉間に皺を寄せて呟いた坂口くんの言葉に、織田作くんがスッと離れる。
    あれ?どうしたんだ?と首を傾げた俺達の目の前で、坂口くんはとんでもない事を始めた。
    自身の眼鏡を外した坂口はニヤリと笑みを浮かべた後、志賀さんの少し露出した首元に顔を寄せていく。

    「「えっ!!??」」
    「んっ……ちょっ坂口、なんだよいきなり」
    「ん~?だから、お仕置きだって言ってんだろう?」
    「お仕置き?ふっハハッ!坂口、擽ったいってぇの~」
    坂口の唇が、志賀さんの白い肌に滑らせるように触れていた。
    声を出しながら笑う志賀さんは、擽ったいのか身を捩っていると、その事にムッとした坂口くんが彼の細腰を両腕で固定をし、逃げられないようにする。

    (いやいや、坂口は何をやってんだよ!こ、これじゃあ、まるで……)
    (おい見ろよ!あの二人、注目の的になってるじゃん!)
    俺達は当然の事ながら、目の前で繰り広げられる光景に顔を真っ赤にし、心の中で会話をしながら慌てた。
    目を逸らすか、ここから離れれば良いのだけど、外野と同じで目が離せない。

    「んんっ、はっん、もう、ほんと、に止めろ、ってぇ」
    「うるせぇ。良いから、大人しくしてろ」
    「だ、だって、なんか……んぅ、はうっ、ん、ふぅ、はぁ」
    必死に両手で坂口の胸板を押し返すが、力が入らず震えているらしい志賀は、されるがままである。
    坂口くんは目を閉じたまま、志賀さんの肌を鳥が餌を突くように唇を落とし、その中でチュッというリップ音が外だというのに響いていた。

    (志賀さん、同性なのに色っぽいよ……な)
    よく見れば、目元にほんのり赤みがあり、坂口の悪戯(?)によって頬まで紅潮している。
    彼が発する声も、ま、まるで、じょ、情事を思い起こせるようなもので、俺の心臓はバクバクと音を立てていた。
    外野の人達も、思わず足を止めて凝視をしては、俺と同じように顔を真っ赤にしたり生唾を飲んでいたりと、志賀さんの色気に魅了されているらしい。
    暫くして、両膝がガクガクと震えていた志賀さんは限界を迎えたようだ。
    ガクッと膝が落ち、坂口くんがその寸前で志賀の細腰をしっかりと掴んで身体を支えている。

    「っ、お、お前なぁ~!!」
    「全部、志賀が悪い。これに懲りたら、俺達の言う事を聞くんだな」
    「ぐっ……」
    坂口くんを睨み付ける志賀さんの眼孔の鋭さは、涙目になっているせいで半減していた。
    ククッと喉を鳴らして笑った坂口くんは、目元に浮かぶ涙を指で拭った後、傍観していた三人に声を掛ける。

    「お仕置きも済んだし、そろそろ行くか」
    「そうだな~でも、バイキングの予約まで少し時間があるじゃん?せっかくだから、アパレルショップに行こうよ。俺、行きたい店があるんだ!」
    「せやけど志賀センセ、大丈夫なん?歩けそ?」
    「いや、安吾のせいで立つのもやっとみたいだぜ?」
    心配しているアンタ達も、そう思う位なら助けてやったら良かったんじゃないのか?
    しかし、傍観していた三人も志賀さんの行動に怒っていたのだろう。
    だからこそ、敢えて口を出さなかったのかもしれない。

    「ったく、仕方ねぇな。責任くらいは取ってやるよ」
    「えっ?おわっ!?」
    そして坂口くんは、軽々と志賀さんを横抱きにしてしまった。
    俺達は目を見開いて固まり、外野の女達は口元に手を当てながら「きゃー!!」と黄色い声を上げている。

    「お、おい坂口!こんな事しなくても、俺は歩ける!!」
    「嘘吐け。膝がガクガクしてた癖に」
    「そ、そうだけど」
    「それにいつもの事だろうが。だから、文句言わずに大人しくしてろ」
    えっ?いつもやってんの?横抱き……お姫様抱っこを?
    外野の女達も坂口の衝撃発言に卒倒し掛けているんだが、大丈夫か?
    衝撃事実が多すぎて、キャパオーバーしてるんだけど!!

    「……わ、分かったよ。だけど、店の近くまで、だからな?」
    「おう、任せろ」
    志賀さんの返答に満足した坂口くんは、友人達とともにこの場を離れて行く。
    残された俺達は呆然とし、ハッと現実に戻った後に互いに顔を見合わせた。

    「……なんか、夢を視てるみたいだな」
    「そうだな。あぁ、夢だったんだよ。だから早く忘れて、ショッピングを楽しもうぜ」
    「もう逢うことも、ないだろからな」
    うんうんと頷き合い、気を取り直して目的のアパレルショップに向かった俺達だが、互いの顔が真っ赤である事は気付かないフリをしよう。

    03.常連イケメンは、重すぎる愛で包みたい
    「ん?なんか、外が騒がしいな」
    「確かにそうですね。でも、週末で人が多いから当然じゃないですか?」
    僕がそう呟いた瞬間、外から一斉に「きゃー!!」という女性の黄色い声が響いた。
    店長と僕は顔を見合わせた後、そっと店内から外を覗き込み、視界に広がる光景に唖然とする。
    何と、眼鏡を掛けた青年が一人の人間を軽々とお姫様抱っこしていたのだ。
    青年が彼女を……というだけでも驚愕するのに、その相手はまさかの同性である。

    「店長……僕の眼鏡、度が合っていないんでしょうか?」
    「見間違いじゃないから、安心しろ。しかし、なんであんな事になっているんだろうな?」
    「足を怪我して歩けなくなったから、運ぶ為にそうした……とか?」
    「だったら別に、お姫様抱っこをする必要は無いだろう」
    店長の言葉に激しく同意状態だが、女性達が黄色い声を上げている理由も納得が出来た。
    だがしかしだ、騒がしい理由が目の前に広がる光景だと見るまで、誰が想像するだろう。
    しかも話題の二人の左右に、友人であろう青年が三人も居た。

    「おい坂口、いつまで俺を抱えているんだよ。いい加減、下ろしてくれないか?」
    「断る。良いから志賀は、大人しくしてろ」
    「即答かよ!大体、店の近くまでって約束したじゃないか。流石に店内で、こうする訳にはいかないだろう?店員に迷惑を掛けるぞ?」
    「……チッ、仕方ねぇな」
    心底仕方なくと言った感じで、坂口さんは志賀さんを地面に下ろす。
    その仕草が本当に丁寧と言うか、坂口さんの志賀さんに対する優しさや愛情を感じるものだった。
    でも坂口さん、志賀さんが諭さなかったら止めるつもりなかったの?

    「あ~やっと歩けるぜ。それにしても、重かっただろう?身長はアンタの方が高いとはいえ」
    「心配しなくても、志賀さんは軽いから大丈夫ですよ」
    「そうそう。アンタが自転車に乗って、前を見ずにぶつかって医務室に運ぶ時も、重いなんて俺達は一言も言ってねぇだろうが」
    いやちょっと待って、あれをいつもやってんのか?
    坂口さんの隣に立つイケメンくんも?
    ってか、自転車に乗って前を見ずにぶつかるって、意外とドジなんだな。
    なんか情報量が多すぎて、ツッコミが追いつかない。

    「それより、太宰の行きつけのアパレルショップってここか?」
    「そうなの!この店、良い服がたくさんあるんだよなぁ」
    「へぇ、それは楽しみだな」
    (あの二人、どこかで見た事のある顔だなと思ったら!)
    志賀さん達の友人の中に、うちの店によく来てくれる常連さんが輪の中に居た。
    三つ編みで髪を束ねている青年は彼の友人で、一緒に来てくれる事が多い。
    顔を合わせる内に会話をする機会が増え、今ではコーディネートに関して助言する仲である。

    「って、納得している場合じゃないですよね!」
    「そ、そうだな。とりあえず、何も見ていないフリをしろ。相手はお客様だからな」
    「は、はい!!」
    僕だって、アパレル業界のプロだ。
    ここは平常心で、接客をしなければならない。
    店長と急いで店内に戻れば、少しして話題のイケメン集団が中に入って来た。

    「いらっしゃいませ」
    「あっ、こんにちは。今日は友達と来たんだけど、大丈夫?」
    「大丈夫ですよ。皆様もごゆっくりと、店内をご覧になって下さい」
    流石店長、混乱する素振りも見せずににこやかに挨拶をしている。
    店長の言葉に太宰さんは「ありがとう!」と笑顔を返し、志賀さんに腕を絡めた。

    「という事で志賀!約束通り、俺に付き合ってよ」
    「へっ??」
    「今日のデート服、俺がコーディネートするって言ったじゃん!志賀も”分かったよ”って頷いただろう?」
    「そういえばそうだったな。でも俺は、これで十分なんだが」
    今気付いたけど、志賀さんが身に纏っている服、うちのブランドの物じゃん。
    もしかして、太宰さんがプレゼントしたって事?えっ??

    「ダ~メ!約束は約束だから!という事で、逃がさないからね」
    「でもなぁ」
    「……志賀は、俺との約束を破るの?」
    「うっ」
    僅かに太宰さんの方が身長は低く、上目遣いになり少し大きい目をウルウルとさせる。
    その仕草に志賀さんは弱いのか、気まずそうな表情を浮かべた後、小さく溜め息を零した。

    「分かったよ。じゃあ、太宰に全部任せるからな」
    「任せてよ!俺が志賀をもっと男前にしてあげるからね!」
    志賀さんの返答にパァッと顔を明るくした太宰さんは腕を絡めたまま、歩き出す。

    「志賀さん、太宰に甘いところがあるよなぁ」
    「そういう檀だって、太宰と志賀に甘いだろうが」
    「せやけど、あれはわざとだぞ。志賀センセが相手やと、太宰クンはあざとなるさかい」
    「えっ?それはどういう意味、ですか?」
    つい口を挟み、僕はハッとして慌てて謝罪をした。
    しかし彼らは不機嫌になる様子は無く、苦笑しながら声を揃えて言う。

    「「「まぁ、見てれば分かる(で)」」」
    僕と店長は首を傾げるが、その言葉の意味をすぐに理解する事になるとは思わなかった。
    しかも僕達の予想を遙かに超える勢いの、太宰さんの知的策略に。

    「つーか、俺が着てるヤツもここのブランドか?」
    「良く分かったね。そうだよ、志賀に似合うと思って買ったんだぁ」
    「誕生日にプレゼントしてくれたんだよな。にしても、結構な値段がするが……これも高かったんじゃねぇの?」
    「値段なんて、どうでも良いの。俺の大切なヤツに、洋服をプレゼントして何か悪い?」
    陳列された服を眺めながら、太宰さんはサラリと告げる。
    大切なヤツ?あぁ、友人的な意味ってヤツだよなきっと。
    そう納得していたのに、太宰さんは爆弾を投下してきた。

    「それにね、志賀が俺の購入した物を身に付けてくれるのを見ると……優越感に浸れるんだよね」
    右手を肩に置き、志賀さんの耳元に顔を寄せた太宰さんが、そっと囁いた言葉が近くに居た俺の耳に入る。
    その内容に思わずぶふっ!と吹き出しそうになったが、何とか堪えた。

    「なんだよそれ。どういう意味だ?」
    「本当に鈍いよね。志賀はさ、図書館でたくさんの人に慕われているじゃん?」
    「んー……そうか?」
    「そうだよ!だから、志賀を独占出来なくていつもモヤモヤしてるんだよね」
    「?お、おう?」
    いや志賀さん、意味が分からないぞ?って感じで首を傾げないで下さい。
    太宰さん、質の悪い独占欲をあなたに向けてるって、堂々と公言しているんですよ?

    「だから俺はね、一緒に居る時は勿論だけど……離れていても、いつも考えて欲しいんだ」
    「考えていて、欲しい?」
    「そう。俺達の……俺の事を、さ」
    あ、あぁぁぁ!!
    これって、告白!?
    いや、誰か違うと言ってくれ!!
    反射的に店長に視線を向ければ、三人と楽しく談笑している。
    て、店長、お願いですから俺を一人にしないで下さいってば!!

    「あっこれ、良いじゃん。後はそうだな……これとこれ。あっ、こっちも良いね!」
    「おいおい、そんなに気前良く選んで大丈夫か?」
    「大丈夫で~す。今回は、安吾達も協力してくれてるからね。それより、試着室で着替えて来てよ」
    背中を押された志賀さんは、靴を脱いで試着室に入って行く。
    カーテンを閉め、暫くして出て来た志賀さんは清涼感はそのまま、何と言うか中性的って言うの?
    言葉に表現するには難しいが、シンプルでありながら彼の魅力を引き立てるには十分過ぎるコーディネートで太宰さんと僕の前に登場するのであった。

    「おぉ志賀、すっげぇ似合ってるよ!店員さん、これ会計してくれる?」
    「かしこまりました。ではこのまま、着て行かれますか?」
    「うん、だから志賀が着ていた服は、袋に入れてくれる?」
    俺は平然とした態度で、値札を切った後にレジに向かって代理で会計をしていく。
    その間も太宰さんと志賀さんの会話が気になり、ひっそりと耳を傾けていたのがいけなかった。

    「なんか悪いな。わざわざ、選んで貰って」
    「気に入ってくれた?」
    「あぁ。俺だけじゃ、こういうデザインの服は選ばないからな」
    「俺が好きでやってる事だから、気にしなくて良いの。あっ志賀、男が服を贈る意味……知ってる?」
    「へっ??」
    脱がせたいって意味、なんだよ。
    先程よりも甘ったるい、だけど愛する人に囁く為に彩られた声色で囁く太宰さんに、僕は衝撃のあまり膝から崩れ落ちるのであった。

    04.紳士イケメンは、あなた以外は眼中にない
    「どう?美味しい?」
    「えぇ、とても美味しいわ。今日はありがとう、仕事も忙しいのに付き合ってくれて」
    私は今、恋人と一緒にバイキングで有名なお店に来ている。
    彼と会うのは久しぶりで楽しみにしていた私の心は、幸福に包まれていた。
    こんなに素敵な男性はどこにも居ないと思っていると、急に店内がざわつき始める。

    (急にどうしたのかしら?)
    私が他のお客さん達のように視線を追うと、そこに居たのは五人のイケメンの青年達だった。
    あぁ成程、ざわついた原因は彼らにあるのか……と思っていると、一人の青年が口を開く。

    「俺、ここに来るの楽しみにしてたんだよな」
    「そうだと思って、俺がここを予約したんだぁ。ねぇ志賀、褒めて褒めて?」
    志賀さんは苦笑しながらも、慣れた手付きで太宰さんの頭をよしよしと撫でた。
    その仕草に太宰さんもご満悦のようで、志賀さんの右腕に飛び付いて身体を密着させる。
    すると店内に居た女性達が「えっ!?」と声を上げた。

    「こら太宰、そんなにくっ付いたら歩きづらいってぇの」
    「別に良いじゃん!それより志賀、早く席に行こうよ~」
    「おい、あまりはしゃぐなよ?他にも客は居るんだからな?」
    「分かってまーす。俺、良い子にするからさ……後で、ご褒美くれる?」
    にんまりと微笑み、志賀さんの唇を指でちょんちょんと叩く太宰さんに、私は目を丸くする。

    (ご褒美ってまさか……!いや、そんな筈ないわ。別に同性同士に偏見があるわけじゃないんだけど……なんかこう、いけないものを見た気がするわね)
    だが私だけでは無く、他の女性客も同じ気持ちだったらしい。
    固まっている人も居れば小さな悲鳴を上げている人も居て、週末でただでさえ多いのに違う意味で賑やかである。

    「ほら太宰、ここは邪魔になるから早く行くぞ」
    「って!安吾~そんなに押さないでよぉ」
    「いつまでも突っ立ってる太宰クンが悪いで。ほら、早うしなはれ」
    「織田作まで~!分かったからぁ~!」
    安吾さんと織田作さんに背を押され、強引に席に誘導された太宰さんを、志賀さん達はクスクスと笑みを零しながら見つめていた。

    「じゃあ俺達も行くとするか、檀」
    「はい。あっ志賀さん、人が多いので気を付けて下さいね」
    「おいおい、そういうのは太宰に言ってやれよ」
    俺はガキじゃねぇと唇を尖らせ、拗ねている志賀さんの腰を檀さんが引き寄せる。

    「じゃあ自転車に乗る度に、前方不注意でぶつかって転ぶのを止めて頂けますか?」
    「うっ」
    「その度に、俺と安吾が医務室に連れて行ってるの、分かってます?」
    「それはアンタらが、心配だからって勝手に……!!」
    「それは、あなたが怪我をしていないか心配しているから、ですよ」
    核心を突かれ、志賀さんはぐうの音も出ないようだ。
    だけど志賀さん、突っ込むのはそこではない。
    あなた今、どういうシチュエーションなのか、分かってます?

    「二人も早く、こっちに来いよ~!」
    「あぁ!ほら志賀さん、太宰達も待ってますから早く行きますよ」
    「元はと言えば、アンタのせいだろうがぁ」
    確かに事実なんだけど、檀さんが店内でさも当然のごとく、あなたをエスコートしている事に何も異論しないんですか!?

    「おっ、種類が豊富だな。和食に洋食、中華にイタリアンまであるぜ」
    「わぁ~俺、何を食べるか悩む~」
    「太宰クン、あまり食べると太るで」
    「そういう織田作は食が細いし、ちゃんと食えよ?」
    彩りのあるメニューを見ながら和気藹々としている太宰さん達の中に、檀さんと志賀さんが居ない。
    あれ?なんで一緒じゃないんだろう?
    もしかして荷物があるから、二手に分かれて料理を取りに行くって事なのかしら。

    「しかし、志賀のヤツ。一人にすると本当、ロクな事が起きねぇな」
    「そうなんだよね。でもまっ、檀が一緒だから大丈夫でしょ」
    「確かに。檀クンが一緒やったら、志賀センセに声を掛ける勇者は絶対におれへんやろう」
    ……どうやら私の考えは、間違っていたようだ。
    志賀さんが逆ナンされないよう、徹底された対策だったらしい。
    確かに志賀さんはイケメンだけど、それは彼らにも言える事だ。
    そんな彼らが志賀さん相手に過保護になる理由って、大切だからという以外に有り得ない。

    「おっ、本当に美味そうだな。でも、悪かった。俺達の分まで、持って来て貰って」
    「そんなの気にしなくて良いの。ほら、早く食べよう!」
    そして五人が揃い、他のお客さんの視線を受けながらも気付いていないのか、普段のように彼らは楽しげに会話をしながら舌鼓を打っていた……のだけれど。

    「あっ檀が食ってるヤツ、美味そうだな」
    何気なく、呟いた言葉だったのだろう。
    すると檀さんは柔らかく煮込まれたお肉を箸で掴むと、それを志賀さんの口元に運んでいった。
    そして志賀さんも躊躇なく、パクリと口に含んで咀嚼をし、飲み込むと「やっぱり美味いな」と頬を綻ばせる。
    その光景を見て、私をはじめとする目撃者達が一斉に動きを止め、酷い人はフォークやスプーンを落としてしまっていた。

    「何で煮込んでいるんだろう。この色と香りからして、赤ワインか?」
    「だと思いますよ。そうだ今度、この味を一緒に再現してみませんか?」
    「それ良いな!後、これとこれも……」
    どうやら二人とも、料理が出来るらしい。
    イケメンで料理も出来るって本当、打ち所がないんだけど。
    でも、料理の事になると子どものように目を輝かせる志賀さんって、何だか可愛いな。
    思わず微笑んでいると、更なる光景を目撃してしまう事になるなんて、私は予想もしていなかったのである。

    「あっ志賀さん、動かないで下さいね」
    「ん??」
    ペロッという効果音が、どういう意味なのか皆さんはお分かり頂けただろうか?
    そう、檀さんの舌先が志賀さんの口端に伸びて、付着していたソースを舐めたのだ。
    紙ナプキンで拭き取るか、指で拭うだけでも良いのに、よ!?

    「おい檀、言ったら自分でやったのに」
    「気にしないで下さい。俺がやりたくてやっただけなので」
    「そうか?ありがとうな」
    そこはお礼を言うところじゃないわよ、志賀さん。
    あぁ、私がもし彼氏にあのような扱いを公共の場でされたら、彼のように平然と受け入れられないわ。
    普通の人なら、赤面してそれどころじゃなくなるからね!?

    「そういえば檀、利用客に告白されたんだって?」
    「っ、どうしてあなたが知っているんですか?」
    「ん?里見が偶然、中庭で見掛けたんだってさ。なんか、可愛い子だったって言ってたぞ」
    「志賀さん。一つ言っておきますけど、断りましたからね」
    パスタを食べながら、檀さんはサラリと告げた。

    「知ってる。”俺には大切な人が居る”って断ったんだろう?里見が言ってた。で、アンタの大切なヤツって誰なんだ?」
    「はい?」
    「だって気になるだろう?異性にそう断るって事は、檀にはそういう存在が居るんだよな?俺の知ってるヤツか?」
    志賀さんの言葉に檀さんは静かにフォークを置き、彼に視線を向けると頬に手を添える。
    私や他のお客さん達は驚愕したが、志賀さんはきょとんとするだけ。
    そんな志賀さんに、檀さんは顔をギリギリまで近付けるとゆっくりと口を開いた。

    「あなたの事に、決まっているじゃないですか」
    「へっ?」
    「俺、志賀さん以外に興味がないんで」
    きっぱりと断言した檀さんは、ニィッと口角を上げるとすぐに顔を離し、志賀さんの横髪を指に絡める。
    志賀さん以外の三人も、目の前で繰り広げられた光景にツッコミを入れず、楽しそうに談話をしていた。

    「……そっか。俺の事、大切だって想ってくれてんのか」
    ポツリと呟かれた、志賀さんの言葉。
    ふわりと柔らかな笑みを浮かべ、心の底から嬉しいと表現しているかのよう。
    私は思わず、彼の表情に魅入ってしまった。

    「当たり前ですよ。だから志賀さん、あなたもよそ見をしていはいけませんからね?」
    これはもう、告白ではなかろうか。
    いや、告白なんて生易しいものではない。
    檀さんの独占欲の現れで、志賀さんを逃がすつもりは無いと言っているようなものである。

    (……お願いだから志賀さん、あなたはその事に気付いて下さいよぉぉぉ)
    超が付くほど鈍い彼に心の中で叫びながら、頭を抱える羽目になったのは言うまでもない。


    ※視点モブ四人を友人A・友人B・友人C・友人Dと表記します。

    「あのさ、ちょっと聞いてよぉ~」
    「どうしたんだよ、急に」
    「いやね、先週の日曜日に友達と待ち合わせをしてたんだけどさ」
    酎ハイのグラスを片手に、友人Aがゆっくりと上げると言葉を続ける。

    「ほら、カップルの待ち合わせで有名な噴水があるでしょ?そこで、見ちゃったんだよね」
    「見たって何を?ま、まさか幽霊じゃないでしょうね!?」
    「そんなわけねぇだろう。あそこ、週末は人が多いんだぜ?それにコイツには、霊感なんて無いだろう」
    「そ、そうよね。で、何を見たの?」
    「……浪速のイケメンが、逆ナンしていた女性を牽制する光景」
    真剣な面持ちの友人Aの言葉に、居酒屋に集まった幼馴染み達はきょとんとし、声を揃えて「はい??」と返した。
    無理もない、彼らは一瞬聞き間違えをしたのか?と思ったからである。
    イケメン=男性で逆ナンをしていたと言う事は、待ち合わせの相手は同性だったと意味するからだ。
    友人を逆ナンから助ける為ならば、牽制するという言葉を友人Aが使う必要もない。
    それに、こうして会話の話題にする必要性も無いだろう。

    「おい、詳しく説明しろよ。それだけじゃ意味が分からないって」
    「……そうだよね。実はね、志賀さんって呼ばれた人が噴水の前に居たの。かなりイケメンだったから、女性達の注目の的になっていて。でも、彼女と待ち合わせをしているんだろうなって誰も声を掛けなかったの」
    その中で二人の勇者が居たらしく、志賀に逆ナンをした。
    勿論志賀は(逆ナンだとは気付かず)断ったが、女性達は待ち合わせの相手も一緒に……と食い下がる。
    そこでタイミング良く登場したのが、浪速のイケメンだったらしい。

    「織田作って呼ばれていた人なんだけど……その後にちょっと、色々とあってさ」
    「色々って何?」
    「……織田作さんが、志賀さんの腰を引き寄せたの。そ、それから、頬にキスをして、さぁ」
    ”堪忍な、お嬢さん方。この人は、ワシのモンなんや。そやさかい、諦めてや”って、逆ナンした女性達に宣言して爽快に去っていたそう。

    「それってつまり、そういう事だよね!?」
    「おわっ!急に大きな声を出すなよ、ビックリしたぁ」
    「そりゃあ、出したくもなるよ!織田作さんのエスコートも完璧で、絵になる程でドキドキしたのにさ!頬にチューとか有り得なくない!?外野の女性達も中には悶絶して、動けない人も居たんだから!まぁ、私もなんだけどぉ!!」
    落ち着きを取り戻すまで、待ち合わせをしていた友人に心配をされ、目撃談を話すと「なにそれ、二次元漫画みたい」と返されたらしい。
    友人Aは思い出す度、胸が高鳴って悶絶したい衝動を抑えるのに必死なんだとか。

    「あー……でも、すっげぇ分かるわ」
    「えっ?」
    「俺もさ、週末に会社の同僚と出掛けたんだよな。その時にさ、坂口くんが志賀さんをお姫様抱っこしている光景を目撃したんだよ」
    「えぇ!?そうなの!?って、坂口さんって誰?私、知らないんだけど」
    「なんか、志賀さんと織田作くんの友人らしい。後、太宰くんと檀くんって青年も居たぜ」
    「そうなの!?ちょっと待って?志賀さんがお姫様抱っこってされてたって、どういう事?」
    友人Bはゴクリと喉を鳴らして、語り始める。
    織田作が志賀を迎えに行った後、戻って来た事に安堵したかと思えば、約束時間を守らずに待ち合わせ場所に居た彼は怒られていたそうだ。

    「どうも志賀さん、自分の容姿の良さを自覚していないみたいでさ。そんな彼を心配している坂口くん達も頭を悩ませていたらしくて、あまりの鈍さに堪忍袋の緒が切れた後なんだけど」
    「なんだけど?」
    「坂口くんが、お仕置きと称して首元に顔を寄せてさ。逃げないように身体を密着させて……ま、まるで、じょ、情事の前戯、みたいな事を、してたんだよ。志賀さんは、擽ったそうに身を捩ってたんだけど、なんかこう、色っぽくて、さ」
    当時の事を思い出した友人Bは、辿々しい言葉を発しながら顔を赤面させる。
    友人Aの目撃談よりも過激である内容に、他の友人達も言葉を失っていた。

    「で、立つのもやっとだった志賀さんを、坂口くんが、お姫様抱っこした、ってわけなんだよ」
    「……あぁ成る程。だから坂口さん、志賀さんを横抱きにしてたんだね」
    「えっ!?お前も見てたのか!?」
    「実は太宰さんが、僕の働いているアパレルショップの常連なんだよ。先週の週末も、坂口さん達を連れて洋服を買いに来たんだけどさ」
    突然の事に驚愕した友人Cであったが、どうやら安吾だけでは無く檀も志賀を横抱きにする事が日常茶飯だって事を知り、混乱が増したそうな。

    「坂口さんも凄かったけど、太宰さんが……さ」
    「太宰さん?えっと、どっちの人?」
    「赤髪で中性的な顔立ちの人だよ。彼、志賀さんの洋服を選びに僕の店に来てくれたんだけど……彼が着ていたヤツも誕生日にプレゼントした物らしくて。太宰さん、値段なんて気にしなくて良いって言いながら選んでいたんだけど、さ」
    その後に、問題が発生した。
    ”志賀が俺の購入した物を身に付けてくれるのを見ると……”優越感に浸れるんだよね”とか志賀を独占出来なくていつもモヤモヤしてるんだよね”とか”一緒に居る時は勿論だけど……離れていても、いつも考えて欲しいんだ”って、赤面案件な告白を聞かされた友人Cは平常心を繕うのに必死だったそう。

    「太宰さんも、独占欲が強いんだな」
    「でも、それだけで終わらなかったんだよね」
    「えっ?まだあるのか!?」
    「う、うん。僕が会計をしている時に、太宰さんが志賀さんの耳元で囁いたんだよ。”男が服を贈る意味……知ってる?”って。きょとんとする彼に”脱がせたいって意味、なんだよ”って続けて、た」
    友人Cの目は眼鏡越しでも分かるほど、泳いでいた。
    頬もアルコールを摂取しているから、赤く染まっている訳ではなさそうである。
    太宰が発したという言葉を聞いた友人Bも、ビールジョッキを握ったまま、テーブルに顔を伏せていた。

    「……えっ?太宰さんと志賀さんが、そういう関係だった、の?いや、そんな筈は無いわ!」
    「へっ?ど、どうしたの?急に」
    「っ、私も恋人とデート中に彼らと遭遇したのよ!」
    「そ、そうなの?」
    「えぇ!でも私が見たのは志賀さん以外、眼中にない檀さんだったけどね!」
    いつも冷静な友人Dの荒ぶりように、友人Cは戸惑う。
    友人Dは日本酒を一気に飲むと、小さく溜め息を吐いて目を細めて当時の事を思い出していた。

    「普通、バイキングでエスコートする!?しかも志賀さん、その事を普通に受け入れているし!いや、今思えばあれは彼が声を掛けられないように檀さんがしていただけだわ。絶対にそうよ」
    「そっか。でも、僕も檀さんと話したんだけどね。四人の中で常識人なイメージがあったよ」
    「そう思うでしょ?見た目も、彼らの中で一番好青年って感じだもの。だけど、あれは詐欺よ」
    「詐欺?何があったの?」
    そして友人Dは、檀が志賀の口端に付着したソースを舌で舐めた事。
    普通ならば、怒るところなのに平然と志賀さんが受け入れ、お礼を言っていた事。
    それだけでも戸惑う案件なのに、檀が一人の女性に告白された事を志賀が尋ねた時の発言が一番、友人Dの心を乱したのだ。

    「檀さんが断った理由がね……”大切な人が居る”から、らしいんだけど。その相手が」
    「志賀さん、だったわけか」
    「そう!しかも志賀さん、すっっごく嬉しそうにしてたの!私、偏見はないんだけどね。”志賀さん以外に興味がないんで”とか”あなたもよそ見をしていはいけませんからね?”って言うのよ!しかも、キスするんじゃないの?ってくらい、顔を近付けて!!」
    私は一体、何を見せ付けられているんだろうと思い、彼らが去った後のデートは集中出来なかったらしい。

    「檀さんの独占欲の強さに、どうにかなりそうだったわ」
    「気持ちは分かるよ。織田作さんも、檀さんに負けていなかったし」
    「あぁ、坂口くんもな」
    「太宰さんもだけどね。類は友を呼ぶって、こういう事かな」
    四人は同時に、溜め息を零す。
    すると彼女達の耳に、聞き覚えのある声が届いた。

    「そういえば、今日は志賀を誘わなかったのかよ」
    「誘ったんだけどね、武者小路達と約束があるって断られちゃった」
    後ろ斜めの席に座るのは、無頼派の四人である。
    その事に驚愕する友人達を余所に、彼らは会話を進めていた。

    「せやけど、偶にはええんちゃう?こうして、志賀センセには聞かれたない話しも出来るし」
    「確かに。それにしても、自分がどれだけ他人を魅了しているか、分かってないのは困りものだな」
    ハァッと溜め息を吐く織田と檀に続き、太宰と坂口も言葉を発する。

    「だよねぇ……志賀って、どうしてあんなに鈍いんだろう。俺達の小さな変化には、すぐ気付くのに」
    「まぁ志賀だからな。だからこそ、無自覚に愛想を振りまいて老若男女問わずに好かれるんだよ」
    坂口の言葉に、友人達も「うんうん」と首を縦に振っていた。

    「でも、俺達が傍に居たら大丈夫だろう。これからも、志賀さんを守っていこうな」
    「そうやな。ほな、決意を新たに乾杯でもしよか」
    「さんせーい!」
    「よし、ジョッキを持てよ。乾杯!」
    「「「かんぱーーい!!」」」
    四人のジョッキが重なる音が小さく響き、グイッと一気飲みをした彼らは再び、会話を弾ませていく。
    会話の内容は志賀の事だが、無頼派が彼をどれだけ大切にしているかが分かる程で、友人達は思わず微笑み合った。
    そして利き手を上げ、同じようにグラスを重ね合う。
    志賀を想う無頼派の気持ちがいつか、彼に届くように願いながら。

    05.小説の神様は、四人のイケメンに愛されている
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works